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降下猟兵

 国防軍の空挺部隊である降下猟兵は精兵揃いで知られる。志願し、かつ過酷な試験過程を突破したものだけが降下猟兵となれる。


 もちろんなって終わりではない。格闘、射撃では通常の部隊より烈度の高い訓練を受ける。さらに空挺降下や生存自活サバイバル訓練なども受ける。


 そうして生み出されるのが訓練精到、戦意充溢し、激戦の渦中にあってもなお崩れぬ鋼の統制を誇る降下猟兵。


 次々と戦闘機、爆撃機が離陸する滑走路の横の格納庫。中で落下傘を始めとした装具を装着後、一列縦隊に並び前に立つ者の装具を点検する。間違った付け方をしていないか、不足しているものはないか。


 確認を終えると順次、自動開傘索をくわえて輸送機に乗り込む。自動開傘索というのは、文字通り降下時、落下傘が自動で開傘するための装具だ。背負った落下傘に繋がっている。


 三発エンジンの輸送機は兵隊から親しみを込めて『おばさん』と呼ばれている。一機につき18名の兵員が搭乗する。


 シュタイナー大尉は第一降下猟兵師団第二大隊の大隊長を務めている。ブロンドの髪に黒目の精悍な顔付き。


 大尉は父親の背を追って軍に志願できる最小年齢で志願し、降下猟兵にはその創設初期から所属するベテランである。


 ちなみに、父親の退役時階級は曹長、つまり下士官で、息子が尉官、つまり士官になったことをことのほか喜んでくれた。


 その大尉が大隊を率いて降下するのは最も激戦が予想される地点。帝国軍前線部隊と後方の補給拠点の中間にある幹線道路を遮断する。帝国軍が前線に増援を送るにも、あるいは後退するにも使用しなければならない命脈。


 飛行中の機内、シュタイナー大尉は機内の戦友を見渡した。惨戦が、つまり甚大な損耗が確実視されている。にも関わらず彼らは朗らかで、エンジン音に負けないよう大声を張り上げて部隊歌を歌っていた。基地までの道中、歌うことを禁じられていた分の鬱憤を晴らすかのようでもあった。


 戦場の空を飛ぶ輸送機。四角の窓の外からは地上の様子が見える。高度のために地上の部隊が何かは判別つかないが、無数の団列が邁進している。


 無数の黒煙が立ち昇る一帯があった。戦車か車両か、そして建物から火の手が上がる。おそらく、あそこが前線。まだ生々しい戦闘の爪痕。


 四角い機窓から翼を連ねる僚機、護衛の戦闘機が見える。その戦闘機が応援のためか派手に機動した。バレルロールを縦長にしたような機動に機内は歓声に沸いた。


 しっかり見てたぞ!と狭い窓から手を振れば、──シュタイナーの見るところ──戦闘機のパイロットもハッキリ視認したようで翼を上下にふるバンクを行い護衛位置に戻っていった。


 機は飛びいよいよ降下10分前。空挺降下のための準備に移る。シュタイナーは立ち上がり声と手振りで準備を進めさせる。


 「立て!」


 横に突き出した両腕を上に上げ、起立を促す。


 「フック掛けろ!」


 握った拳を上下させ、背中に背負った落下傘から繋がる自動開傘索の先のフックを頭上のアンカーラインケーブルに繋ぐよう指示。


 「自動開傘索点検!」


 次いで右目の前で拳を握り、前後させる。文字通り自動開傘索に異常が無いか確認させる。


 「装備確認!」


 両手を胸の前にたたみ、次いで両横に開く。


 ヘルメット、ヘルメットのストラップ、胴体部に装着されている、落下傘と己をつなぐストラップを確認。


 「静かに!」


 この命令がかかると兵員は最後列から順に前にいる兵員の背中側の装備に異常が無いか確認する。最前列の兵員まで問題無しの報告が上がると、その兵員はシュタイナーに報告する。


 「全て異常無し!」


 この一連の動作が終わるとシュタイナーは機体の扉を開けた。瞬間吹き荒ぶ凄まじい風。機は減速を始めたがまだまだ時速200kmは出ている。


 シュタイナーはまず開口部の縁をなぞり異常無いか、特に突起物に細心の注意を払い確認。続いて開口部より機体の外を確認する。前方を視認し降下予定地点を視認。機体外部上下左右を目視で確認。やはり降下に際し危険となる突起物が無いか確認する。


 降下1分前。


 「1分前!」


 人差し指を立て伝達する。凄まじい風と、それに伴う音のため声による会話はかなり困難な状況。


 最前列の兵が開口部に立つ。


 輸送機はさらに減速。出力を絞りフラップを下げ、時速140kmほどを維持する。140km/hというのはこの輸送機にとってぎりぎりなんとか宙に浮いていられる、高度を維持できる速度。輸送機の高度は地上から150メートル。


 ランプが赤から降下を知らせる緑に変わった。同時にジリリリリ、とけたたましいベルが鳴り響く。


 「行け!」


 開口部に立つ部下の尻を叩いて降下させる。1秒間隔で部下は次々と飛び出す。


 全員が降下した後がシュタイナーの番である。両手で開口部を握り、体が大の字になるよう飛び出す。


 落下傘の開傘時の衝撃を、ストラップを介して胴体全体で受け止める。そのためにも『大』の字でなければならない。


 開傘時の衝撃は地上2階から飛び降りたのと同等の衝撃である。


 シュタイナーは落下傘で降下しながら辺りを見渡す。飛び去る輸送機。快晴の空に開く無数の落下傘。なるほど『空に咲く花』と歌われるのに納得の光景だ。合計で300人を越える人員が一斉に降下している様は圧巻にして壮景。


 さらに対戦車砲やキューベルワーゲンを積載したグライダーも母機から切り離され滑空している。


 地面が急速に近付く。娯楽の一環としての落下傘降下とは違い、空挺部隊の落下傘降下はあくまで戦闘のための手段に過ぎない。そのため降下の速度は遥かに速い。


 接地。地上2階から飛び降りたのと同様の衝撃が人体に加わる。それをいなすために五点着地と呼称される動作で着地する。


 足裏、ふくらはぎ、太もも、尻、背中から肩の五点の順に転がるように着地する。こうして垂直方向にかかる力を回転により横方向に衝撃を分散させる。


 降着後、部下を掌握し別途コンテナで投下された火器も回収した。グライダーで降着した部隊とも合流、占領し、友軍到達まで維持すべしとされた地点まで進出した。

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