決闘
「決闘を始める前に確認するよ。判定を下す審判は校長先生。そして私はあくまで立会人。これには異論ないね?」
「ええ」
「まあいいか」
「うむ。王立シルフォード学校校長の名において、仮に決闘に挑むのが気に食わぬ小僧だとしても、公平な判定を下すということを順守するのじゃ」
「オッケーだね。次はお互いの要求についてだ。クミンの要求は500万Rの支払い。ウォルコット君の要求は、クミン本人だけでなく実家も含めて二度とウォルコット君とその関係者に危害を加えないこと、それとクミンと同じく500万Rの支払いだね。書面にちゃんと残してあるけど、この条件で間違っていないよね?間違ってなかったらこの紙に署名を頼むよ」
内容は間違っていなかったので、俺もクミンも署名した。
「じゃあこれで準備完了だ。あとは装備などを身に着けて位置についてね」
俺とクミンは準備をちゃんと整え、お互いに向かい合った。
「おい、一年のくせにそんな装備で俺に勝てるとでも思っているのか?今なら降参しても許してやるぞ。今降参するなら500万Rのところを100万Rにしてやってもいいぞ。もっとも、お前ごときには100万も500万も払えないだろうがな。肩代わりする羽目になるであろう両親のためにも、なるべく少ないほうがいいんじゃないか?」
「うるさい黙れ。御託はいいからとっととかかってこい」
「生意気なガキめ!」
クミンが向かってくる。さすが六年生でもトップの実力者である。一年生と比べたら、スピード一つとってもすごい差がある。
だが、俺は曲がりなりにも父さんや母さんたちと鍛えてきたのだ。これくらいのスピードなら反応することは普通にできる。
「先輩はそれがマックスなのか?」
挑発するのは、戦闘における立派な作戦の一つだ。向こうの性格からして、平民の一年に挑発されるのは頭に来るだろう。
「黙れクソガキ!」
挑発が上手くいかなかった。一見怒っているようだが、よく見るとあまり怒っているようには見えない。さすがに六年ともなるとある程度は考える頭がある。これはあくまで、俺に自分の作戦が成功していると思わせて油断させることが狙いなのだろう。そこいらの一年には通用するかもしれんが、俺は前世も含めればこいつよりも人生経験は豊富だ。そう簡単には引っかからん。
「お前はよけることしかできないのか!?」
これが挑発であることは簡単にわかる。だが、それでも俺だってそろそろ攻撃はしないといけない。ここはあえて挑発に乗ろう。それによって向こうも油断するかも知れない。
「〈ライトニング〉」
「!?」
俺の放ったライトニングがクミンに当たる。ライトニングは威力だけでなくスピードもある。俺がこれだけの魔法を使えるとは予想外だったのだろう。クミンは驚いたこともあって躱すことができなかったのだが、直撃したにしては立ち上がりが早い。
「思ったよりもダメージが入ってない。まさか、雷属性に対する耐性を持った装備だったのか!?」
「その通り。サンダーじゃなくてライトニングを使われたのは予想外だったが、雷対策をしていたのは間違いではなかったな。念には念を入れておいて正解だった」
クミンはもう立て直してきている。そして、彼の顔からは今まで透けて見えていた余裕がなくなっていき、だんだんと真剣な顔になっていった。
「余裕を見せておく時間はもう終わりだ。これからは本気でいかせてもらうぞ!」
「!?〈ストームウォール〉」
「邪魔だ!」
向こうが迫ってきたのでとっさに〈ストーンウォール〉を出したが、それはいとも簡単に破壊され、敵の接近を許してしまった。
『キーン!キーン!』
剣を何合もぶつけ合う。普通なら技術でもパワーでもスピードでも向こうのほうが上なのだが、それでも何とかついていける。
俺は魔法が得意であり、身体強化魔法は向こうにも引けを取らないレベルだし、魔力量は向こうよりもだいぶ上、魔法や魔力操作に至っても向こうを完全にしのいでいる。このように、近接戦闘でも魔法関連なら俺のほうが上である。
また、俺は家では近接戦闘でも魔法戦闘でも常に格上と戦ってきた。クミンの近接戦闘は当然一年生相手とは比べ物にならないが、それでも我が父であるルークにはまだ劣る。
単純な近接戦闘能力だけなら俺ではまだまだ敵わないが、クミンよりも強いルークと剣で修業した経験や、近接戦でも使えるような魔法を上手く組み合わせれば負けはしない。負けはしないのだが、残念ながらこのままでは勝てもしない。
このまま持久戦に待ちこまれるのもうまくないので、ここいらで変化が必要になるが、向こうはもうこちらに対して先ほどのように油断していない。こちらの魔法を警戒しているのか、なかなか距離をとらせてはくれない。
「こうなったら、最近買ったあれを使うか」
俺は懐から最近買ったマジックアイテムを取り出し(本当は空間魔法で収納しておいたものをあたかも懐から出したように見せただけだが)、そのアイテムを使用した。
最初は道具の禁止を言い渡されていたのだが、後から部長さんが一年生と六年生の対戦であること、家の経済事情とこれまでの実績から経済格差があり、確実にクミンのほうがいい装備をそろえることができること、そして騎士団内定が決まっている近接戦闘が得意なクミンと、魔法中心で戦う俺の一戦であることから、俺のマジックアイテムの使用が三つまで許されたのだ。
毒やポーションの類はやっぱり使えないが、今回使うマジックアイテムは使っても何ら問題はない。このアイテムの性能を実戦で一度試してみたかったのでちょうどいい機会である。
『ドッカーン!!!!』
部屋中にものすごく大きな音が響き渡る。
「「「!?」」」
俺が使ったマジックアイテムの名は『音の暴力』という。効果は至極単純で、ただ大きな音を出すことができるというだけの道具だ。効果はそれだけ?と思うかもしれないが、これはこれでかなり使える。
大きな音というのはそれだけで大きな武器となる。実際、耳元で大きな声を出されたら誰でもうるさいと感じるし、それが急にだと耳がキーンとするなどの症状が起こる。
今回のはそんな耳元で急に大きな声を出すとかいう次元の話ではなく、それこそダイナマイトなりで爆発させたときの爆発音とかと同じようなレベルの音量である。そこまでの大きさになると、騒音ではなくもはや攻撃となりうる。
俺は当然それを使う前に聴覚保護の魔法、まあ要するに優秀な耳栓的な効果がある魔法で爆音から耳をガードしているが、クミンは当然そんな対策はしていない。目の前でいきなり大きな音を鳴らされ当然混乱しているし、耳にダメージも受けている。
「それにしても、なかなかにすごい効果があるアイテムだな」
本当は相手が音に驚いてひるんでいる隙に距離をとり、それから魔法戦を仕掛けようと考えていたのだが、音の攻撃が思ったより効いており、今のクミンは隙だらけである。
「もうこうなったらやるしかないよな」
俺はこの機は逃すまいと、クミンをタコ殴りにした。それは審判である校長がやめと言うまで続いた。
結局それによって決闘に勝ったのはいいが、俺も周りもなんか釈然としない終わり方だったのは少し残念である。




