校長先生
「おいウォルコット、今からでもいいから謝ってきたらどうだ。クミン先輩は誰が相手でも容赦しないことで有名だぞ。その中でも、特に平民相手だと本当にやばいらしい。しかもあの人は侯爵家の息子だ。兄がいるから次期当主ではないが、それでも目をつけられたら厄介なことになるんじゃないか?」
今日はクミンと決闘を行う日だ。ブーダたちはずっと心配している。
「目ならもうすでにつけられているさ。今更謝ったところで意味はないだろ。それに、向こうは平民に容赦ないのかもしれないが、俺だって今回は容赦するつもりはない」
「確かにあいつはひどいが、どうせ卒業まであと半年の辛抱だぞ」
「意外に思うかもしれないが、俺にだって譲れないものもあるのさ」
「でもさ、本当に決闘のことは広まっていないんだね」
俺の出した条件通り、決闘のことは関係者以外には一切広まっていないようだった。
「部長さんは約束は守る人だとは思っていたが、あの人の情報統制能力もなかなかのもんだな」
「お前は気楽に考えているのかもしれんが、本当に大丈夫なのか?」
「意外と心配性だな。きっと大丈夫さ。向こうが強いことなんて百も承知だし、ちゃんといざというときの切り札だってある」
そのとき、クラスの女子生徒たちが騒ぎ出した。
「きゃー、騎士部の部長さんよー」
「やっぱりかっこいいわ」
「家は貴族だし、卒業後はシルフォード騎士団に内定しているし、その上イケメンだし、結婚してくれないかしら」
どうやら部長さんが来たみたいだ。わざわざ俺を迎えに来てくれたようだ。
「やあウォルコット君。不届き者たちの襲撃はなかったかい?」
「ええおかげさまで。俺を襲おうとしては誰かさんたちに叩き潰されてましたよ」
決闘が決まってから今日になるまで、俺に対する尾行が何度かあったのだ。だが、そいつらはさらに俺を尾行していた者たちに片っ端から叩き潰されていた。おそらくは部長さんが手配してくれた人たちだろう。その護衛たちが俺の想定よりずいぶん強かったのは少し気にはなったが。
「やっぱり気づいてたんだね。それじゃあ行こうか」
「ええそうですね」
俺と部長さんは校長が取ってくれた演習場に向かった。
「これはいったいどういうことです?なんでこんな子供がここにいるんですか?」
演習場に着いたのはいいのだが、そこにいたのは俺を入れて三人。まずは当然俺と部長さんだ。クーズはまだ来ていないようだ。そして、もう一人いるはずの校長がいない代わりに、そこにいたのは見ず知らずの子供だったのだ。
年のころは俺と同じ、いや俺のほうが年上に見える。それこそ学校に入学することもできないような年齢の子供。少女というより幼女といった方が正しいくらいの年齢であるように見える。
「子供とはなんじゃこの小僧!?わしはお前よりも年上じゃぞ!それに、わしはこの学校で一番偉いんじゃぞ!」
「えっ!ほんとに!?」
俺は確認のため部長さんの方を見る。
「本当だよ。この方は君どころか、私よりも年は上だよ。一般の生徒にはあまり知られてはいないけど、この方がここの校長だということも本当さ」
なんと!?この幼女がわが校の校長だったのか?
「でも校長は、入学式で壇上にいたあの人じゃないんですか?」
入学式はなんか適当に聞いていたが、こんな幼女はいなかったはずだ。なんか偉そうな雰囲気のハゲの先生がいたので、てっきりその人が校長だと考えていたのだ。
実際その人は入学式でも何か話していたので、俺はその人が校長だと疑っていなかったのである。
「お主が言いたいのはあのハゲじゃろ。あのハゲは確かにこの学校ではわしに次ぐ副校長にしてやっておるが、それでもこの学校の校長はわしじゃぞ。入学式などの行事にはめんどくさいから出ておらんが、役職上はちゃんとわしが校長じゃ」
「校長先生は全然表に出てこないから、生徒の中には校長先生のことをちゃんと知らない人も多いんだよ。私だって知ったのは二年生の時だったからな」
それでいいのか校長は。
「ふん!あ奴に頼まれんかったら、わしだってこんなことはしとらんわい!!」
「あ奴?」
「この国で最強の存在である首席宮廷魔術師様さ。校長はあの方に助けられたヴァンパイアで、その恩返しとしてここで働いているようだよ。確か、かれこれ勤続100年だったかな?」
「106年じゃ!あの頃は今よりもヴァンパイアへの迫害がひどくての。おまけにわしを見ればわかるように、わしらの種族は容姿もいい。そうやって迫害されたり奴隷狩りなどにあっているところをあ奴に助けられたんじゃ」
勤続百六年って……完全にばあさんじゃないか。というかそれよりも、聞き捨てならない言葉があったんだが。
「ヴァンパイアって、あの血を吸う種族ですか?」
この世界のヴァンパイアのことはまだ知らないが、少なくとも前世の知識ではそうだった。
「そうじゃ。たしかにわしらの種族は生物の血を好む」
「それは、いろいろと大丈夫なのか?」
学校でいきなり血を吸われてしまうかもしれないというのは単純に怖い。それに、もしも血を吸われることで何らかの副作用があるのだとすればなおさらやばい。
「失敬な!わしらだって吸う血くらいは選ぶのじゃ。血は毎日飲まなければならんものではないし、人間でなくとも動物たちの血で十分なのじゃ!実際わしはまだ人間の血を飲んだことは無い。当時はそのことを知らずわしらのことを迫害するものもたくさんおったが、今はあの爺のおかげで少なくともこの国ではだんだん良くなってきておる。というか、わしがここにおるのはこの国の吸血鬼たちのためでもあるのじゃ」
なんでも、この国の吸血鬼たちが迫害されないようにいろいろ頑張っているらしい。校長は単純に強い上に、その化け物爺の尽力もあり男爵位をもらっているらしい。それもあり、この国においては吸血鬼も法律で守られている種族の一つなのである。
「思ったよりもだいぶすごい幼女だった」
「だから幼女ではないのじゃ!大体、お主らのせいでわしがこんなところに駆り出されたのじゃ。決闘なんて、最近はまったく行われておらんというのに。それに、それを秘密にするなんてほとんどないことなのじゃぞ。なんせ、昔は決闘で賭けが行われることも多々あったからの」
「こっちにもいろいろあるんですよ」
主に自分の力をあまり見られたくないとかだ。
「そいつは無様に負ける姿をみんなに見られたくないだけですよ」
「クミンか」
「ええそうです。俺としては衆人環視の中で生意気な一年をやりたかったのですが、彼が皆に見られるのも知られるのも嫌だというのでね。まあ、今回は俺もそれで我慢するとしますよ」
「それじゃあクミンも来たことだし、これから決闘を始めようか」




