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異世界転生後は自分らしく  作者: zawa
第一章 幼少期
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劇と涙

「ああ!村の井戸がすべて枯れてしまった。いったいこれからどうすればいいのじゃ。わしらの村には水魔法を使えるものがおらず、近くに川や池、湖などもない。これではこの村は水を確保することができなくなってしまい滅びてしまう」


 姉ちゃんの演技は思ったよりもかなりうまい。意外とこういった才能も持ち合わせているのかもしれない。


「どうなされたのですかそこのお方。何か困りごとのようですが」


 これは俺ことカクさんのセリフだ。


「あなた方は?」


「なに、私たちはただのしがない二人組の旅人です」


「そうですか旅のお方ですか。しかしすみません、今この村は深刻な水不足に悩まされていて、旅人に与えるわずかな水すらも惜しい状況なのです」


「なるほど、それは大変だ。私たちにも何かできることはありませんか?」


「なんと!あなたは今日あったばかりの我々とこの村を救ってくれるというのですか!?」


「私たちにあなたたちを救えるかどうかはわかりません。しかし、私たちにできる限りのことはさせていただきたい」


「なんとお優しい。しかしよろしいのですか?あなたはよくてもその相方の方は少し不満そうでございますが」


 これは水不足で苦しんでいる村にたまたまカクさんとスケさんの二人組が訪れ、村の水不足を解消するために動くという物語である。カクさんは相変わらずお人好しで短絡的だ。

 村に来ていきなりこんなことを申し出るなんて普通に考えておかしい。しかも報酬だったり、村の詳しい情報だったりを聞かずに即決している。こんなことをされては相方ことスケさんが不満そうであることは当然だ。


 なんせ、彼らは二人組の旅人なのだ。カクさんが厄介ごとに首をつっこむなら、スケさんもそこに参加しなくてはならない。それを何の相談もなしに決められたくはないだろう。ここであの有名なセリフ『この問題は俺達には荷が重い。彼らには悪いが知らぬふりをさせてもらおう』がくる。まあ少し言葉が違って、『この問題は俺達には荷が重そうだ。俺達には井戸についての専門的な知識など全くない。彼らには悪いがこの問題から降ろさせてもらおう』になり、ここで俺が名ゼリフの『情けは人の為ならず。巡り巡って自分に帰ってくる。命を賭けろとは言わないが、できる範囲で彼らの手助けをしてあげよう』と言う場面になる。


「こっこここのも、ももんだいは、おおーれたちにはに、にがおもそうだ。かっかれらにはわるいけど、しししらないふりをさっさせて、もらおう」


 これは誰だ。身内同士、というかここには俺と姉ちゃんとフィーネの三人しかいない。誰か観客がいるわけではなく、単純にみんなでごっこ遊びをしているだけだ。これがなんらかの発表会の練習であり、たくさんの人と真剣に練習していて、独特の緊張感があるとかならわからんでもないが、ここには何の緊張感もないし失敗できないような雰囲気は全くない。だから失敗するなとは言わないが、それにしたってこれはひどすぎるように思える。


「おいフィーネ、いくらなんでも緊張しすぎなんじゃないか。セリフを間違っているのはともかく噛みすぎだろう。別にこれは誰かが見てるわけでも劇の本番に向けての練習とかじゃないんだぜ。ただのごっこ遊びなんだからもっと気楽にやったらどうだ」


「うっ、うるさい。あんたが悪いんだから。というかこのスケさんってなんかわき役くさいのよ。あんたのカクさんのほうが主人公みたいじゃない」


 俺が何をしたというんだ。それに、物語をちゃんと読んでいればどちらが主人公みたいかは誰でもわかるだろう。

 この小説は基本的にはカクさんとスケさんのダブル主人公の作品なのだが、慎重派のスケさんとなんにでも首を突っ込んでいくカクさんとでは、どちらにスポットライトがありやすいかは明白だろう。彼女もこの小説を読んだことがあるのなら、最初からそれぐらい分かっていたはずだろう。


「そんなの最初から分かってただろ?」


「うっ、うるさい!口答えするな」


「まあまあ二人とも落ち着いて。けんかはよくないわ」


 納得できない。それにけんかといってもそういう口調なのはフィーネだけであり、俺は極めて冷静に対応していると思う。俺にも大人げない?(見た目は三歳児だが)ところがあったかもしれないが、どちらが悪いかと言われればフィーネだろう。

 

 最近思うのだが、姉ちゃんはまだ六歳のはずなのに俺よりも大人びているような気がする。今は三歳児だとはいえ、前世も合わせるとすでに二十年近く生きている計算だ。女の子は男の子よりも体と精神の成長が早いというが、精神面で言えば二十歳と六歳という大きな差があるので納得ができない。もしかしたらこの三歳児の体に精神が引っ張られているのかもしれない。そうだよね?というかそうであって!それなら理解できるし納得もできる。もしもそうでなかったら、前世の俺がかなり幼稚ということになってしまう。


「わかったよ姉ちゃん。フィーネもごめんな」


「うん。ウォル君えらいわ」


 本当は俺は何も悪くないし、もっと大人相手なら譲りたくないのだが、相手は三歳の女の子だ。先に謝ってあげれば向こうも謝りやすくなるだろう。それにこの問題が尾を引くと後からフィーネが怖い気がする。


「そうね!ウォルが全面的に悪いわ」


「ちょっとフィーネちゃん、ウォルに謝らないとだめよ」


「なによ!ウォルが謝ったんだしいいじゃない」


「こら、フィーネちゃん。あなたにも悪いところがあったでしょう」


「そんなのないわ」


 このクソガキめ。俺ならともかく姉ちゃんを困らせるとは許せん。ここは弟として厳しくいかなければならない。


「フィーネ!姉ちゃんを困らせるな」


「ウォル君!本当に大好きだわ」


「うわーん。ウォルが怒ったー」


「フィーネちゃん!?」


 なんとあのフィーネが泣き出してしまった。彼女が泣くところなど赤ん坊のころ以来見たことがなかった。三歳の女の子を泣かしたことには罪悪感を覚えるが、こればっかりは譲れない。


「ちょっと、いったいなにがあったの?」


「あら珍しい。うちのフィーネが泣いてるわ」


 ドアを開けて母さんとミリムさんが入ってきた。タイミングがいいのか悪いのか、二人ともこの状況が理解できていないらしい。


「ちょっとウォル!何があったのか説明しなさい」


「みんなー、どうしたのー」


 母さんは起こっている。まあそうだろう。理由はわからないが小さい女の子が泣いているのだ。領主の娘とか関係なく理由が知りたいだろう。ただそこでこの中で最年長である姉ちゃんではなく最年少の俺に聞いてくるあたり意外と混乱しているのかもしれない。もしくはここで一番落ち着いているのが俺だからか?母さんならきっと後者だろう。

 そしてフィーネの母親であるミリムさんは相変わらずのんびりしている。


「わかったよ母さん」


 そう言って俺は母さんに初めから説明した。なるべく客観的に説明したつもりだ。


「シオン、その説明であってる?」


「うんお母さん。ウォルの説明であってるよ」


 フィーネには確認しないあたり今のフィーネには詳細な説明はできないとわかっているのだろう。母さんは俺の説明を聞いていて、嬉しいような悲しいような怒りたいような何とも複雑な顔をしていた。


「聞いてウォル。今回母さんはあなたを叱ることはできないわ。フィーネちゃんを泣かせたことはよくないことよ。でもね、それがシオンのためでもあるから複雑なのよ。だから今回あなたに説教はしないわ。だけど、フィーネちゃんを泣かせたことは確かだから褒めもしないわ」


「わかったよ母さん」


 確かに母さんのいう通りだろう。俺も今回の対応が間違ってはいないと思っているし、同じ場面が来たら同じことをする可能性が高い。だから今回はこれでいいだろう。


「こら、フィーネ!二人にちゃんと謝りなさい」


 ミリムさんが珍しく怒っている。普段温厚な人が起ると怖いというのは異世界にも当てはまるようだ。


「だっ、だって」


「だっても何もありません!今回はどう考えてもあなたが悪いんです。ちゃんと謝りなさい!」


 今回どころか大抵フィーネが悪いと思うのだが、空気を読んで口をはさまないでおこう。


「ごっ、ごめんなさい」


「私にじゃありません。二人に言うのです」


「ウォル、それにシオンさんも、ごめんなさい」


「大丈夫よフィーネちゃん。許しちゃうわ」


 いくらミリムさんが起こったからといってフィーネが俺に謝るとは驚きだ。なんかこのやり取りを見ると罪悪感も生まれてくる。


「ウォル君いつもごめんねー。フィーネは一人っ子だからかどうしても甘やかしちゃって。特にあの人はものすごくフィーネに甘いのよ。だからわがままで。私ももっと厳しくしなきゃとは思ってるんだけどなかなかね」


 ミリムさんたちは基本的に自分たちで子育てしている。貴族の娘だと、そういったことを主にしてくれるような使用人がいるのだが、彼女たちはできるだけ自分たちで子育てがしたいらしい。使用人が二人の代わりに手伝ってくれることも当然あるが、基本的には二人、特にミリムさんがしているらしい。クライフさんは領主の仕事が忙しいので、なかなか暇をとれないのであろう。その分だけ甘やかしていそうな気がするが。


 そして、フィーネを見てなんだかんだで許しそうになっている俺はやはり彼女に甘いのだろうか。


「わかったよフィーネ。フィーネのことを許すよ」


「ほんと?」


「ほんとさ」


「わかった!」


 そういって笑ったフィーネを見てかわいいと思ってしまうのは決してロリコンとかではないだろう。ドキリ!とさせられてしまったのは秘密である。









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