スケさんカクさん
俺は今日で三歳になった。
この三年間、とにかくいろいろなことがあった。まあ、主にしたことは情報収集したりフィーネと遊んだり、家族団らんで過ごしたり本を読んだり、フィーネと遊んだりだ。いや、遊んでいるのではなく遊ばれている可能性は三年たった今でも否定しきれない。
大きくなると、母さんたちがいなくても二人で遊ぶことが許されていた。お互い言葉を話してもおかしくない年齢になったので、俺は彼女に言葉での反抗を試みていた。
「ウォルそれちょうだい」
「今これ使っているところだからダメ」
「そんなこと聞いてない」
「いや、でも」
「なんか文句ある?」
「・・・ないです」
どうやら言葉が話せるかどうかはまったく関係なかったようである。最初からダメもとではあったのだが、わずかな希望を打ち砕かれるというのは少なからず心にくるものである。
そして、いつも通りそれでほとんど遊ばない。しょうがないので、最近母さんに買ってもらった小説を読むことにしよう。
この小説は今巷で大流行している小説で、この町でもたくさんの人が読んでいる。かくいう俺もその一人であり、父さんや母さん、姉ちゃんも大好きな本だ。一度読破したのだが、いい本は何度でも読み返したくなるのが読者の性である。
物語の内容は、性格の大きく異なった二人組の旅人たちが世界中を旅してまわるものである。二人は旅の道中で様々な事件に遭遇してしまい、それを解決したりしなかったりする物語である。普通の小説なら全部ちゃんと解決していくのだが、全力で取り組んでも解決できないこともあるというのがまた面白いところで、この小説が人気の理由の一つである。
この小説の名ゼリフで、主人公の旅人の片割れであり慎重派のスケさんが『この問題は俺達には荷が重い。彼らには悪いが知らぬふりをさせてもらおう』といい、その相方であるカクさんが『情けは人の為ならず。巡り巡って自分に帰ってくる。命を賭けろとは言わないが、できる範囲で彼らの手助けをしてあげよう』という会話がある。もちろん言うまでもないと思うが、名ゼリフなのは後者である。
これを聞いて俺は、自分の手に負えない問題を無理に解決しようとしたりはしないが、他人が困っていたら自分が助けることができそうで、なおかつそうすることでなんらかのメリットがありそうだったら助けようと思った。
これは一見冷たいかもしれないが、ここは弱肉強食の異世界だ。お人よしや善人であるだけでは生きられないだろう。いや、社会に出たことがなかった俺が知らなかっただけで、前世の日本でもそうだったのかもしれない。
言葉の真意とは少し違うかもしれないが、俺はこれからこの方針で生きていこうと思った。
それが俺の大好きな本だ。スケさんカクさんという日本で有名な二人組が主人公であったことや、それなのに黄門様が出てこないことに若干の違和感を感じるが、それでもこの本は何度読み返しても面白いのである。
「ちょっとウォル、なに読んでるの」
「最近はやりの本だよ」
「ちょっと見せなさい」
「あっ、まって。そんなことしたら破ける。渡すからいったん離して」
「しょうがないわね」
危ない危ない。危うく本が破れるところだった。相変わらず恐ろしいやつだ。
「はい、これ」
「これわたしも読んだことあるわ。お父様たちもはまっていたわ」
子爵もこの本がお気に入りのようである。
「そうだ!今からこの本の登場人物になりきって遊びましょう」
「それはいいね!楽しそうだ」
今回の彼女との遊びは大いに楽しめそうである。
「二人とも何してるの?」
「あっ!姉ちゃん!」
「えっと、わたしたちはこれからこの本の登場人物になりきって遊ぶところです」
フィーネは基本的に目上の人と年上の人には敬語だ。おそらく貴族令嬢として礼儀を仕込まれているのだろう。姉ちゃんは貴族ではないので敬語でなくてもよいかもしれないが、年上に敬語を使って悪いこともないだろう。
俺には敬語を使わないが、それは同年代だから当然だろう。むしろ彼女は貴族家の令嬢であるので、両親が彼女の家の家臣である俺や姉ちゃんのほうこそ彼女に対して敬語を使うべきである。
そう思ってこのあいだ敬語を使ってみたのだが、なぜかうまくいかなかった。
「これはこれはフィーネ・ロークス様。お元気そうで何よりです」
「はぁ?あんたなに言ってんの。もしもケンをカ売っているなら買うわよ」
「いっ、いやわるい。ちょっと敬語を使ってみたかっただけなんだ」
「ふーん、なんか変な感じね。まあいいわ。とにかくむかつくから、これからわたしに対して敬語を使うのは禁止よ!」
「かしこまりましたお嬢様」
「こら!それはだめ!」
「わかったよ」
「それならよし」
残念ながら俺に敬語は似合わなかったらしい。これから彼女に対して敬語使うなとは言われたが、状況によっては使わなければいけない時が来るだろうし、他の人にも使わないといけないこともあるだろう。
フィーネには使わないとしても、これから少しずつでも勉強するべきかもしれない。
「とりあえず役を決めましょう。何か希望があるかしら」
そうだった。今は配役を決める重要な会議中だった。
俺の狙いはもちろんカクさんだけだ。これは誰にも譲れない。
「はい!わたしは自分と同じく慎重派なスケさんにします」
フィーネがスケさんに立候補した。
どの口が自分が慎重派だ、などとほざくのかわかりたくもないが、今は好都合だ。これで俺のカクさん役への就任が近づいた。
「じゃあ俺はカクさんにするよ」
よし!うまくフィーネがスケさんにするから俺はしかたなく空いたカクさんにしたという流れに持っていけた。
「じゃあお姉ちゃんが困っている村人の役ね」
「よし!それじゃあはやくやろうよ!」
カクさん役にすんなり決まったというだけあって、かなりテンションが上がってしまった。
そして、簡単な劇が始まった。




