魔法学びたい。
「吾輩、魔法学ぶってよ!」
はっ!しまった。ついテンションが上がってしまった。念願の魔法というだけあって浮かれていたんだろう。母さんたちが使うのを見てるとうらやましかったもんな~。しかも姉ちゃんが初めて魔法を使ったときの嬉しそうな顔といったら、ついつい姉ちゃんに嫉妬とまったくもって見当違いな怒りを覚えたもんだ。
俺はこの世界に生まれて魔法があると知ってから、魔法を使いたくてたまらなかった。なんせ少なくとも俺の知る限り前世じゃ絶対に使えない力だ。魔法があると本当に信じているのは幼い子供くらいであろう。しかし使ってみたくはあるし、アニメや漫画なりで魔法を使っていろいろしているのを見ると、俺にも魔法が使えたら、なんてありえないとわかっているのに少しは考えてしまう。
そんな魔法がこの世界では現実に存在するのだ。人によったら泣いて喜ぶだろう。早く使ってみたいと思う気持ちはよくわかるはずだ。
しかし、俺は魔法を使うことも学ぶことも禁止されていた。
こんな決定をしたのは母さんだ。魔法があることを知ってから俺はそれがどういうものなのかすぐに調べようとした。呪文は必要なのか、それは魔法名だけなのかそれとも長ったらしい呪文を必要とするのか、具体的にどのような魔法があるのかなど、魔法があると知ってから知りたいことが山ほど出てきた。 すぐにでもその疑問を解消したかったし、これまで地道に続けてきていたこの世界の情報収集を一度やめてでも調べてみたかった。
だが、その願いは母さんによって阻止された。
母さんが俺に魔法を使うことはおろか学ぶことまでも禁じたことは最初はびっくりした。しかし母さんがそれをさせない理由を聞くと、十分に納得できるものであった。
母さんが俺に魔法を使うことを禁止した理由は、魔力に対して体がまだ慣れておらず、魔法を使うと暴発してしまったり、下手すると体が耐えられなくなってしまい何らかの後遺症が残ってしまう可能性があるからである。実際に幼いうちに魔法を遊びで使ってしまい、後遺症により魔法が使えなくなってしまったり、魔法の暴発による死傷者が出てしまったことがあったらしい。そのため、法律で定められているわけではないが、魔法を幼い子が使うときは近くに保護者やその子の先生や師匠など、魔法にある程度詳しい者がいる場合でないと練習させてはいけないということになっている。
俺はそのとき、つまり魔法に興味を持って魔法を勉強しようと魔法の本をあさったりしていた時は、まだ一歳にも満たず、かなりというかものすごく幼い。いや、幼すぎたのである。
このころからすでに俺が年齢に反して賢すぎるということを、両親、少なくとも母さんは感じ取っていたようだ。そのため、俺が本を読んだりしていることについて何も言ってこなかった。しかし魔法については別であった。
「ウォル、いったい何を読んでいるの?」
「あー(魔法入門っていう本)」
「ちょっと!これ魔法入門じゃない。なんでこんな本読んでいるのよ」
「あー(魔法使ってみたい)」
「なんて言っているかわからないわ。まあさすがにまだ言葉を話せないようね。というか話せないのよね?この年でもう一人で本を読んでいることは驚きだけど」
母さんはやはり俺のことをいろいろと怪しんでいるようだ。まあこのころはもう一歳に近かったので、発声器官的にはしゃべれそうだったのだが、物理的にはいけるとはいえこの年で意味のある言葉をたくさん話すのはまずいだろう。もう一人で本を読めちゃってることがばれているので今更かとは思うが、一応演技しておこう。
「まあ今はそのことはいいわ。あなたが魔法についてどう思っているのか知らないけど、魔法を使ったり学んだりするのは金輪際禁止よ」
「あー?(そんな!なぜ!?)」
「その理由はね・・・・」
この魔法を使ってはいけない理由というのが、先ほどの説明である。俺だって納得はしている。納得はしているが、やはり諦めきれないものがある。理性と感情は全くの別物なのである。
それに魔法を使うなというのはともかく、魔法を学ぶなというのはいかがなものか。魔法を使うことに危険があったとしても、魔法を学ぶことに対しては特に危険はないはずだ。そこのところを詳しく聞きたいものである。
「あー、あー、あー(魔法を使っちゃいけない理由は理解できたけど、なんで魔法を学ぶことも禁止なの?)」
悲しいかなこの会話よ。言葉いらずで、あーとかおーとかだけで済むのは確かに便利であるが、そもそも通じてなかったら何の意味もない。言葉を使えるように進化したご先祖様たちは立派なものである。まあ、前世のご先祖様はそうであったが、今世のご先祖様は最初から言葉を話せたかもしれないが。
「うーん。何か伝えた夘太郎ということはわかるんだけど、この子は何を伝えたいんでしょう?」
「あー、あー(伝わってくれー)」
「ん?なんか今伝わってくれーって言われたような気がするわ」
てっ、そっちかーい。そっちはいいんだよ別に。そんなの伝わらなくても何の問題もないのに。まったく頼むよ母さん。やれやれだぜ。
「あれ?ちょっとウォル、なんか今生意気なこと考えなかった?」
「あっあー(べべべ別にそんなこと考えてないよ)」
「怪しいわね」
くっ、なんて女なんだ。これが女の勘、もとい母親の勘か。なんて鋭いんだ。どうせならいつも鋭いかいつも鋭くないかのどちらかならいいのに。なぜこういうときだけ鋭いのか。不思議だ。
「まあそれは置いといてなぜ魔法を学んでもダメなのか説明するわ」
どうせ説明するならとっとと説明してほしかったものである。
「やっぱり何か変なこと考えてる?」
だからこういう時限定で心を読むな!
「あー(早く説明して)」
「はいはい今説明するわよ」
今度は会話の流れ的に正確に伝わったようである。
「魔法を学んではいけない理由は簡単よ。人はね、学んだものは使いたくなるものなのよ。かくいう私も昔、いや今でもそういうことはよくあるわ」
なるほど。それは心当たりがある。俺も前世では何か珍しいことを知ったときに、よく友達や家族にその知識をひけらかしていたことがある。逆にそれと同じことをされたことも何度かある。
確かに魔法なんて言う向こうの世界ではなかったが、アニメや漫画などの創作作品でよく出てくるものだ。使える人や物も知らないくせに、無駄に知っている。いや、知った気になっているようなものだ。学ぶだけで使うなといわれても、知ってしまったら使ってしまう可能性は限りなく高いだろう。まあもっとも禁止されていてもこっそり本を読んで魔法を使ってしまう可能性は否定できないが。
「まあ法を完全に禁止したところであなたならどうせ学んで使ってしまいそうね」
だからなぜわかる。
「なんでわかるかっていう顔してるけど簡単よ。ほかならぬ私がそうだったもの。小さいうちは魔法を使っちゃダメって言われてたけど、こっそり使ってよく怒られたわ。幸い暴発したり後遺症が残ったりしなかったけど、あくまでたまたまよ。慣れた魔法使いだって体が魔力に耐えられなくてッていうのはかなり珍しいけど、失敗して魔法が暴走することはよくあることとは言わないけど、全然珍しくないのよ。私がその時たまたま大丈夫だっただけで本当はものすごく危ないの。それに私が勝手に魔法を使い始めたのは三歳くらいで今のあなたよりは大きかったわ。まあ、あなたが魔法を使いたいって気持ちはよくわかるんだけどね。だから条件を付けるわ」
母さんも俺と同類だったようだ。同じ穴の狢という奴だろう。前世の記憶があるとはいえやはり間違いなく親子なんだろう。
「条件は二つあるわ。まずは簡単、さっき言ったことを守ることよ」
まあこれは当然だな。そもそも魔法を教える教えないにかかわらず必要なことだろう。
「もうひとつは、これから毎日瞑想をすることよ」
これはよくわからない。瞑想には何か意味があるんだろうか?
「瞑想といってもただやるんじゃないわ。体内の魔力を循環させながらするのよ」
体内の魔力を循環?というかそもそも循環やら体内以前に、魔力すら感じ取れていないんだが。
「これは基礎中の基礎でね、私も何かない限りいまだに毎日やってるわ。方法は簡単よ。魔力というのは空気中と体内に存在しているわ。そこで、体内にある魔力を循環させるのよ。これによって魔力コントロールが身に付き向上すると同時に、ウォルの場合は体が魔力になじむことができるわ。それに魔力は一般的に使えば使うほど量が大きくなるといわれていて、この説はかなり有力よ。ウォルはまだ小さいから魔法は使っちゃだめだけど、魔力を循環させるくらいなら大丈夫よ」
なるほど。つまり魔力を体内で循環させることで、体を魔力に慣れさせるということか。
なぜその手段を行うのに瞑想なのかはわからないが、おそらく精神統一ができるとかで、いいとされているんだろう。
「本当は五歳から剣や魔法の修業をしようと思ってたんだけどね。現にお姉ちゃんもまだ修業してないし。ウォルは生まれつき魔力が多かったから少し早めの三歳から瞑想をさせようと思っていたんだけど、想像以上だったわね。早くて悪いことはないだろうし、大丈夫かしら」
つまり最初から魔法は教えるつもりだったわけだ。説明を聞くと、母さんが言う通り早くて悪いことはなさそうだし、たぶん大丈夫なんだろう。それにしても俺は生まれつき魔力が多いのか。俺がよっぽどの早熟でない限りは、将来に大きな期待が持てるかもしれない。
「とりあえず瞑想を教えるわよ。教えるのは瞑想っていうか魔力コントロールなんだけどね。まあ私は人に教えるのが得意じゃないから、実戦形式ね。とりあえずやってみなさい」
人に教えるのが得意じゃないっていうか完全に苦手だろ。一回もやったことない、というか魔力すら知らなかったのに、いきなりやれなんて完全な無茶ぶりだろ。しかも、忘れていそうだけど俺はまだ一歳にもなってない。不可能な要素しかない。
だが、頼れるのもここにいる母さんだけである。その母さんがとりあえずやれといっているのだ。とりあえずやってみるしか俺の選択肢がない。
「三歳になるまでこれを毎日やることね。三歳になったら魔法を教えてあげるわ。いったん今日は瞑想をしてみなさい。できなくても怒ったりしないわ」
「あー(とりあえずやってみるか)」
「循環よ循環。それ以外ないわ」
どんなアドバイスだよ全く。それでできる奴いたら見てみたいよ。
えーっと、循環だな。魔力が循環しているといわれても難しいな。そうだ!血液なんかいいかもな。血液は体中を循環してるしちょうどいいだろう。どうせ三歳まで魔法を使わせてはもらえないんだ。気長に俺なりの方法を探っていけばいいだろう。
それじゃあやるか。俺は前世の勝手な瞑想のイメージで、胡坐を組んで手を組みながら目を閉じた。
「おー(なんか感じるような気がする)」
「ちょっ、ちょとどうなっているの。あんな雑なアドバイスでできるようになるなんて。本当にすごくてかわいい子ね!」
てっ、自分で雑なアドバイスしてる自覚あったんかい。というかかわいいって・・・自分がこの人の子供でまだ小さいとはいえ、前世の記憶がある以上少し照れくさいな。
というか・・・・・・・・・・・出来ちゃったよ。




