入学試験1
「ほらウォル、さっさと準備しなさい。これから入学試験が始まるんだから」
フィーネに早く出るように急かされる。なんか姉ちゃんや母さんを思い出す急かし方だ。
「わかってる。でも、もう少しくらいゆっくりしてもいいんじゃない?」
所詮実力を見るだけの試験で入学は決まっているんだから、そんなに焦らなくてもいいじゃないか。
「だめよ。今回の試験はクラス分けにもかかわってくるのよ。そんな不真面目だと、一緒にSクラスに入れないんだからね」
学校では当然クラス分けがあり、Sクラスが一番能力の高い者が集まるクラスだ。入学方法の関係上、何クラスあるかはその年によって違うが、大抵五クラス前後だ。Sクラスはいわばエリートクラスともいえる。
「私だってSクラスを狙っているんだから、お互い頑張りましょう」
俺は正直Sクラスを狙っているわけではない。これは向上心が低いとかではなく、噂に聞くSクラスはとても入りたいとは思えないからだ。
Sクラスなどの上位のクラスにいるのは、ほとんどが貴族の子供だ。特に、一年、二年のうちは九割以上が貴族で固められているといわれている。
これは貴族が平民に比べて特別優れているとか、貴族の権力を使ってこうしているとかではない。単純に家庭環境によるものだ。
貴族の子供は幼いころから質の高い教育を受ける。つまり、入学する前からちゃんと勉強しているのだ。前世で言うところの、クモンとか塾であらかじめ中学の範囲の勉強をしてきたから、中一の間はそういったところに行っていない人で、中学で初めてその範囲を習った人よりも成績がいいといった現象に近い。
そのため、三年生以降になると徐々に平民が上位のクラスに食い込んでくるようになる。
クラス替え試験は六年間のうち、二年の終わりと四年の終わりの合計で二回行われることになっている。そのため、試験ごとに上のクラスに上がるものと下のクラスに落ちるものが出てきて、下のクラスに落ちたものが上のクラスに上がったものに嫌がらせをしたり、下のクラスに落ちてきたものが下のクラスの者たちを見下すといったことが毎年何件か行われるらしい。
特に貴族が優秀な平民に嫌がらせをすることが多い。名誉貴族の子供は基本的に平民扱いだ。貴族の醜い嫉妬の対象になるなんてちゃんちゃらごめんだ。
前世では常に上のクラスに行くことを目標にすることも大事だったが、この世界では貴族という厄介な存在がいる。
俺は完璧超人ではないので、当然悪いところはある。人間とは人の粗を探すのが得意で大好きな生き物であるから、俺がSクラスに入ったりそこで主席なんか取った暁には、他人からの面倒な粗探しが始まり、それを見つけて鬼の首を取ったように追及してくる、馬鹿で暇な輩もいるだろう。
できればAクラスかBクラス、そうじゃなくともSクラスの下のほうになることが望ましい。とは言え、そんなことを言ったら「志が低い!」と怒られてしまうだろう。
「俺なりにやってみるよ」
「その意気よ!」
こう言っておくのが無難である。
俺は学校に一般常識と知らない魔法を学ぶために来たといっても過言ではない。自分で言うのもなんだが、俺の魔法は同年代の中ではかなり優れている。基礎をおろそかにするつもりはないが、今頃ほかのやつらと一緒に学ぶほどの腕前ではないと自負している。
極端な話、図書館さえ使えれば問題ないのである。あとは教員や生徒と近接戦闘を中心に戦うことくらいか。魔法には自信があるが、近接戦闘にはあまり自信がない。上級生はもちろん、同級生に負けてもおかしくないと思う。
俺は複雑な思いを抱えながら、ロークス邸を後にした。
「ここが王都の学校かー。ロークスにあるものとは全然違うな。まるで、別の目的で建てられているようだ」
王都の学校とロークスの学校では、建物の規模が全然違う。生徒数が全然違うこともあるし、この場所が教育機関なだけでなく、研究機関でもあることが原因である。
王都の学校は日本で言う小学校や中学校、高校とは違って、どちらかというと大学に近い。学年によるクラス分けがあったりするので、そういうところは大学とは違うが、先生の立ち位置は大学に近い。
教育よりも研究の方に熱心な先生や、外部から来て自分の授業が終わったらすぐ家に帰る先生も何人かいて、先生の働き方は大学に近い。
「うちの領地の学校とは比べ物にならないわね。さすが、シルフォード王国最高の教育機関ね」
フィーネも王都の学校の大きさに感心しているようだ。
「ウォル君!やっぱり生きていたんだね」
「おーファナ、久しぶりだな」
「「おーファナ」じゃないよ!心配かけて、いつ帰ってきたの?」
「帰ってきたのは昨日さ。なかなか大変だったよ」
「そうなの・・・でも、本当に無事でよかった」
よく見ると、ファナの目には涙がたまっている。それだけ俺のことを心配してくれていたのだろう。再会していきなり殴ってきたフィーネとは大違いである。
「ファナ、心配してくれてありがとな。見ての通り俺は大丈夫だから」
「ウォル君・・・」
ファナが何かためらっているようだ。もしかしたら俺がいなかった間のことで、いろいろ話したいことがあるのかもしれない。
「ファナ、ここではたくさんの人の目がある。それに、俺たちはこれから入学試験を受けるんだ。いろいろ積もる話はあるだろうが、それらは入学試験が終わってからにしないか?」
「そうだね。これから入学試験があるものね。話をするのは入学試験の後にして、とりあえず一緒に入学試験を頑張りましょ」
「入学試験が終わったら、私とウォルがいるロークス邸に泊まればいいわ。そこでウォルがいなかった時のことや、今日の試験のこととかのお話をしましょう」
俺たち三人は受付に着いた。
「ウォルコット君とファナさんは第二会場、フィーネさんは第一会場になります」
試験会場は貴族が第一会場で、平民は第二会場だ。フィーネとはここでお別れになる。
「ファナ、私の試験が終わるまで門で待っていてね。もしも私のほうが先に終わってもちゃんと待ってるから。あ、ついでにウォルもね」
「ついでは余計だ!」
「二人とも頑張ってね。みんなで頑張りましょ」
「無視すんな!」
そうして俺たちとフィーナは分かれた。まさかフィーネが入学試験なんかでボロボロになって帰ってくるなんて、この時には考えもしていなかった。
「ウォル、なんか言った?ウォルの醜い願望が聞こえた気がしたんだけど」
「なっ、なにも言ってないよ」
まさかフィーネすらも母さんと姉ちゃん並みに鋭く成長しているなんて。これからはもっと注意していかないとな。
「詳しく聞くのは試験が終わってからにしておくわ」
入学試験が始まった。これが終わってからフィーネと会うことは怖いが、とりあえず今は試験に集中しよう。
入学試験は大きく分けて二種類ある。その二つとは、座学と戦闘だ。この世界では、戦闘力が前世以上に重視される。そのため、座学と戦闘力は同じくらい重要視されているのだ。
入学試験は前半にペーパーテストによる座学、後半に魔法と近接戦闘力を見る戦闘試験だ。
「ペーパーテストは結構簡単だったな」
前半のペーパーテストは終わった。所詮は十歳に出す問題なので、そこまで難しいものは出ていない。俺は高校生の段階で亡くなったので、大学入試は経験したことは無い。小学校も中学校も地元の公立だったので、入るのに受験は必要なかった。そのため俺は高校受験しかしていないが、それに比べると今回のテストはお遊びみたいなものだ。
この世界特有の知識や常識などはともかく、計算や言葉関係、それに思考力は十歳とは比べ物にならないほど高い。不安要素であるこの世界特有の知識や常識は、生まれてから現状を把握するためにたくさん勉強していた。そのため、そこまで苦戦することは無かった。総合的に見て、ものすごく簡単な試験だった。
「今考えれば、俺が主席になったとしても学校が素直に発表するとは思えない。そう考えれば、座学で本気を出しても何ら問題はなかったな。わざと間違えないほうが良かったかも」
学校では身分のことを出してほかの生徒を従えたり、命令したりすることは禁止されている。しかし、やっぱり貴族と平民での扱いの差は存在している。これまで入学試験では毎年貴族か王族が主席になっている。
平民よりも貴族のほうが入学試験の段階では優秀な者が多いが、それでも平民の中に規格外がいることはたまにある。だが、平民が主席にならないだけでなく、次席や三席にも入らない。平民は最高でも六席である。これは確実にいろいろ忖度されているのだろう。
まあ、平民が貴族を抑えて主席になってしまったらいろいろ面倒なので、そのことに文句を言う者はほとんどいない。というか、権力的に文句を言う者がいないのだろう。
「第二会場の皆さん、これから戦闘試験に向かいますので、場所の移動をお願いします」
「ウォル君、場所は違うけど、お互い頑張ろうね」
第二会場といっても場所は一つではない。戦闘試験になると、ペーパーテストとは違って場所をとるので、これから二つに分かれるのだ。その場所がファナとは別の場所になったので、ファナとはここで一旦お別れだ。
「そうだな。それじゃあ次は試験後に門の前で会おう」
俺とファナはそれぞれ別々の戦闘試験会場に向かった。




