王都到着
「ここが王都かー。やっぱり、いろいろとでかいな」
途中でイレギュラーがあったが、何とか無事王都につくことができた。
王都の門では子供が一人で王都に来たので少し怪しまれたが、今年から王都の学校に通う学生で、一緒に来た人たちは王都に入らずに帰っていったといえば大丈夫だった。
「それにしても、ロークスとは全然違うな」
王都は人口五十万人以上を誇る大都市であり、当然この国の中心でなおかつこの国最大の都市だ。ロークスの何十倍もの人口を抱える都市である。活気が全然違う。
それに王都には貴族や商人など、裕福な者たちがたくさん住んでいる。そのため、見たことないような高級品を身に着けている者も多い。
また、王都の中心にある王城は、王都のどこからでも見えるような巨大さであり、何か威厳のようなものも感じる。
「さて、とりあえずロークス家の屋敷にでも向かうか」
まずはロークス家の屋敷に行って生存を報告するのが先だ。みんなもきっと俺のことを心配しているだろう。ちゃんと心配してるよね?まさか忘れてなんかいないよね?全く心配されていなかったら、それはそれで悲しいものがあるし、忘れられたりなんかされていたら、ものすごく悲しくなる。
感動の再会までは期待していないが、せめてちゃんと出迎えてほしい。
「ロークス家の屋敷は貴族街にあるだろうからな。俺、ちゃんと通してもらえるよな」
貴族街には当然警備兵たちがいる。俺みたいなガキが一人でうろついていたら、警備兵に捕まってもおかしくないのだ。
「そもそも俺、王都のロークス邸がどこにあるのかも知らないんだよな」
俺はもともと学校に入学するまではロークス邸を使うことになっていた。
学校には遠方から来た生徒のための寮があり、王都に住居がない者は寮に入る。もちろん、王都に住居がある者も寮に入ることは可能だ。しかし、学校に入学する前から寮を使うことはできない。そのため、王都に住居がないものは宿で部屋をとるか、知り合いの家に泊めてもらうかだ。
俺は両親のつてで、入学して寮に入るまではロークス邸に住んでいいことになっている。そのため、今からロークス邸に向かうのは生存報告をする必要がなかったとしても、どっちみちロークス邸には向かうことになっていたのだ。
しかし、俺はロークス邸の場所がわからない。もともとフィーネたちと一緒の馬車で王都に入り、そのままの流れでロークス邸に行くことになっていたのだ。そのため、ロークス邸までの道を覚える必要はなく、ロークス家の馬車と一緒に行くので警備兵に捕まる危険もなかったのだ。
「仮に貴族街に入れたとしても、うろうろしてたら不審者と思われるだろうな。いったいどうしたものか」
一か八か貴族街に飛び込んでみるか?それとも適当な宿でも取って、明日の入学試験が終わってからフィーネを見つけて合流するか?
俺はこれからどうしようかということに思考をとられていると、何かにぶつかった。
「キャッ」
「ごめんなさい。考え事をしていて気づきませんでした」
声からして、女の子とぶつかってしまったようだ。
「何するのよ!わたくしとぶつかるなんて、不敬にもほどがあるわよ!」
道でぶつかっただけなのに、ものすごい言われようだ。
持っていたジュースをこぼして服が汚れたとか、大事なものを落としてしまったとかならともかく、単純にぶつかってしまっただけだ。もちろん考え事をしていた俺が悪いのだろうが、それにしたって不敬は言いすぎじゃないか?
「不敬って・・・もしかしてあなたは王族か何かですか?」
彼女の来ている服は高級品であることは俺でもわかる。俺と同年代くらいだろうが容姿も整っていて、こんな出会い方をしていなかったら見惚れていたかもしれない。
町でぶつかるというのはともかく、そのあとの行動が俺の好みではなかったからな。
「その通りよ!わたくしの名はディアナ・フォン・シルフォード、王家に連なるものであり、現国王の四女よ」
まじで国王の娘かー、本当に厄介な奴に目をつけられてしまった。これはまずいことになった。この子が不敬と言ったら、本当に不敬罪もあり得るかもしれない。少なくとも、一時的に牢屋に入れられることになるだろう。
国王やその側近、もしくはこの子に意見できる者に良識があるのならば助かるだろうが、そうでなかった場合はまずい。
不敬罪は基本的に貴族の当主にしか適用されないのだが王族は別だ。貴族の子弟には不敬罪が適用されないのだが、王の子弟には不敬罪が適用される。この子が不敬罪だといえば、ちゃんと事情を捜査されない限り最悪死刑もあり得る。
あの生意気な女騎士相手とは違うのだ。いざとなったら《テレポーテーション》で逃げて、他国に亡命しよう。
「これは申し訳ございません。何分田舎者でして、王女様のお姿を見たことがなかったのです。そのため、あなたが王族であると即座にわからなかったのです。まさか王女様がこんなにお美しいとは、こちらの不注意で不快な思いをさせてしまったとはいえ、会うことができて光栄です」
「そうね。あなた、田舎者のくせになかなか分かっているじゃない」
さすがの俺でも王族を敵に回したくはない。それに、性格はともかく容姿端麗なことは間違いない。俺が田舎者であることも事実だ。事実ばかりを述べているからか、相手を不快にさせることは無かったようだ。
「これ以上王女様の貴重なお時間を、私ごときが奪うわけにはいきません。誠に残念ながら、ここで失礼させていただきます」
我ながら完璧な言葉遣いだ。これでこの場からあとくされなく離脱することができる。
これからどうするかは後で考えよう。今はこの場を離れることが先決だ。それに、王女についている護衛たちに見られているのも気持ち悪い。
今のところ口は出してこないが、おそらくそこそこの使い手であるメイド、通行人のふりをして王女の護衛をしていると思われるもの、陰に隠れて王女を護衛しているもの。俺がわかるだけでも十人くらいはいる。もしかしたら俺が気づいていないだけで、他にも何人かいる可能性もある。
王女と話している俺を警戒することは当然だが、この見張られているような空間からとっとと抜け出してしまいたい。
「ちょっと待ちなさい!あなた、今日は私の荷物持ちをしなさい。このわたくしの荷物持ちができるのよ。さぞ光栄なことでしょ」
いやに決まってんだろ!こちとら早くここから抜け出したいんだよ。それに、ロークス邸にどう行くかとかも考えなくちゃいけないしな。荷物持ちなんてさせられてしまったら、今日泊まるところも見つけられないじゃないか。
どうにかして断らなければ。
「私なんかが王女様と長々と一緒にいるわけにはございません。それに、私は今日王都に着いたばかりです。これから今日泊まる予定の友人の家に行かなければなりませんから」
どうせ王女なんだから、魔法の袋の小くらいもってんだろ。それに、荷物持ちならそこのメイドなり護衛の騎士を呼び出すなりして、そいつらにさせればいいじゃないか。
「あなたの予定なんか知りませんわ!とにかく、わたくしの言うことを聞いていればいいのよ」
このわがまま王女、本当に厄介だ。
俺は王女についているメイドに視線を送った。
「(この王女を何とかしてくれ)」
「(わかりました)」
俺とメイドさんは視線で会話した・・・・・と思う。俺の受け取った通りでは、メイドさんがこの事態を何とかしてくれるはずだ。
「ディアナ様、王都の人気スイーツ店のお菓子が手に入ったそうです。今日の買い物は中止にして、城でティータイムにするなどはいかがですか」
「そうね・・・そこの男、もうどっかに行っていいですわ」
なんかむかつくが、これはメイドさんのナイスアシストだ。これに便乗しない手はない。
「それでは、今度こそ失礼いたします」
俺はそう言って第四王女と別れたが、そんな俺についてくる者がいる。そいつは、俺と第四王女の距離が十分に広がると声をかけてきた。
「姫が申し訳なかったな」
おそらくこいつは第四王女の護衛だろう。いつも第四王女のしりぬぐいをさせられているのかもしれない。
「いえ、自分が第四王女にぶつかったことがそもそも悪かったのですから」
第四王女に思うところがないわけではないが、彼女にぶつかった自分も悪いだろう。お互いさまというやつである。
「そう言ってもらえると助かる。国王様は第四王女には甘いからな。我々がちゃんとフォローする用に仰せつかっているのだ」
この人たちも苦労しているんだな。
「頑張ってください」
「頑張っているさ。それではな」
そう言って護衛の人が去ろうとした。
「それでは。って、ちょっと待ってください」
「なにか?」
護衛の人は少し警戒したような雰囲気で問いかけた。
「あの、道を聞きたいのですがよろしいでしょうか?」
「そうか、友人の家に泊まるとか言っていたな。俺にわかるかどうかわからないが、一応聞かせてくれ」
これで何とか道はわかりそうだ。
「えっと、ロークス家の屋敷なんですが、どこにありますか?」
「貴族の屋敷に泊まるのか?」
あからさまに警戒されている。
「はい!俺はロークス家の娘と知り合いなんです。今回王都の学校に入学するので、入寮するまでは泊めてもらえることになっているんです」
「君の言っていることはわかるが、素性が分からない者を貴族の屋敷に案内するわけにはいかない。残念だが諦めてくれ」
この人が言っていることはわかるが、今日の宿のためにも諦めたくはない。
「一応身分証明はできるのですが。駄目でしょうか?」
俺には冒険者カードがあるので、それが身分証明になるはずだ。
「見せてみてはくれないか」
俺は第四王女の護衛の人に冒険者カードを見せた。
「この年でもうDランク冒険者なのか。なかなか才能に恵まれているな。よかったら将来、王宮で近衛や騎士にでもならないか?」
「今のところはなるつもりはありません。それより、身分証明は大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。道順なら教えてやろう」
俺はロークス邸までの行き方を丁寧に教えてもらった。
「それじゃあな」
「はい!ありがとうございました」
幸いなことに、貴族街に入っても警備兵には捕まらなかった。子供だから危険はないと思われたのかもしれない。
教えてもらった通りに進むと、表札にロークスとある屋敷の前に着いた。
「ここが王都でのロークス家の屋敷か。やっぱりでかいな。こんな屋敷を王都とロークスに一つずつ持っているなんて、やっぱり貴族の経済力はすごいな」
俺がロークス邸に感心していると、中から見張り?が話しかけてきた。
「ここはロークス子爵の屋敷だ。何か用がおありで?」
「えーと、ウォルコットが来たと言えばわかると思います」
その人が合図を送ると、他の警備兵の人が屋敷に向かって走っていった。
「今伝令を行かせたから、少し待っていてもらいたい」
言われた通り少し待っていると、屋敷からフィーネが飛び出してきた。
「ウォルー」
これは、感動の再会というやつか。しょうがない、しっかりと受け止めてやろう。
「来るのが遅いわ!」
「グハ!」
フィーネからのまさかの一撃だ。抱き合って喜びあうのは違うとしても、パンチはもっと違うだろう。
「何するんだよ!なにも殴ることは無いだろ」
「うるさい!遅刻野郎にはこれで十分よ」
「そんなことを言っていいのか?ここは貴族街だぜ、ロークス家の令嬢が、はしたなく騒いでいたと噂になるのももうすぐだな!」
「ウォッ、ウォルの分際で生意気な・・・・後悔させてやる!」
フィーネが俺に向かって追撃を加えようとした。
「残念だったな。不意打ちならともかく、来るとわかっていればこんな拳、簡単によけられるぜ」
「それなら・・・この屋敷に泊めてあげないんだから!」
「なっ!それはなしだろ。人の足元を見やがって、ずるいぞ!」
ここを追い出されたら、今日泊まるところがなくなってしまう。
「ほーほほほ、これが貴族令嬢の力よ」
フィーネのやつ、小賢しいことをしやがって。
「今回は俺の負けだ。だが、次は勝つ!」
「言うことが違うでしょ」
「お願いします。入寮までの間、ロークス邸に泊めてください」
「よろしい、歓迎するわ。それと・・・おかえりなさい」
「・・・ただいま」
久しぶりに家の中、というか建物の中でゆっくりすることができた。




