入学試験2
「それではこれより、戦闘試験を開始する。まずは魔法からだ」
戦闘試験が始まった。戦闘試験、特に魔法で本気を出してしまうとかなり目立ってしまう。ここはほどほどにしておこう。
「やり方は簡単だ。あそこに的が十個あるから、それに向かって各々魔法を放ってもらうだけだ。制限時間は五分、それまでは何度魔法を使っても可能だ」
五分間打ちっぱなしというやつか。だが、それで本当にその生徒の魔法の力がわかるのか?
「君たちの言いたいことはよくわかる。それだと、攻撃魔法の力しかわからないといいたいのだろ?だが、一日で座学と戦闘を見るには時間が足りないんだ。実際、入学試験の中では魔法の試験が一番不正確だとよく言われるし、私自身もそう思う。
近接戦闘のように実戦形式にした方がいいという意見もあるが、近接戦闘は手加減がしやすいうえに、刃をつぶした武器や木で作られた武器を使えば危険が少ない。しかし、魔法だともろに食らってしまう。試験内容はおそらく魔法の打ち合いになるが、その場合防御魔法も見なくてはならない。もしも強すぎる攻撃魔法を試験官が放ってしまえば、大けがするかもしれない。
また、魔法には攻撃魔法や防御魔法だけでなく、幻術系や回復系など様々な種類がある。全受験者のそれらをすべて試験するのは一日では絶対に無理だ。そのため、魔法の試験は不本意なものにならざるを得んのだ。
そもそも、魔法の力というのは簡単には言えるものではなく、ただ高度な魔法が使えればいいというわけではない。状況に合わせて魔法を使い分けたりすることこそが魔法の・・・・・・・・・・」
俺以外にも似たようなことを考えていたやつがいたのか、それとも最初から言おうと決めていたのかはともかく、この試験官はこの試験内容にものすごく不満があるのだろう。長かったので途中から聞き流していたが、この試験官が魔法の試験内容にものすごく不満があることだけはよくわかった。
「それでは、番号が若い順で十人ずつ出てきてもらうぞ」
それから何度か試験が行われ、ついに俺の番が来た。
「始め!」
《ウォーターボール》
ここで使われる魔法は、大体が初級魔法だ。おそらく、俺のように魔法を習っていなかったのだろう。勢いがなくて的まで届いていない者も珍しくない。一応全員が初級魔法を最低でも一つ以上使えるようだが、はっきり言って迫力がない。
ここでは中級魔法を使えるものは珍しい。貴族の試験会場ではおそらく中級魔法を使えるものはもっと多いだろう。彼らには才能がないわけではなく、まだ習っていないから知らないだけなのだ。
「中級魔法が使えるとは、なかなかやるじゃないか」
試験官も、そこそこ感心しているようだ。この組の中では、魔法の点数は高い方になるだろうな。
俺は当然全力を出していない。それは聖級魔法や将級魔法を使わないとかいう次元ではなく、先ほど使った《ウォーターボール》すらも全力で撃っていない。
ラノベのチート系主人公ならここらで規格外のことをやってのけるのだろうが、俺にはそんなことをする気はない。そんなことをしても面倒が起こるだけだ。大体、そういった主人公は貴族や王族に目をつけられても、それを跳ね除けるほどの圧倒的な力を持っているものだ。
俺は強いとは思うが、残念ながら貴族や王族の干渉を跳ね除けることができるような戦闘力や権力、コネなどはない。少々情けないかもしれないが、ここは普通の優秀な生徒を演じておく場面だ。
「それでは五分経ったな。では次の組、準備しろ」
俺は《ウォーターボール》の他にいくつか中級魔法を放って終わりにした。今までの生徒たちの中では一番いい成績だと思うが、飛びぬけていいわけでもない。まあ、こんなものだろう。
その後も何人かの生徒が挑戦したが、俺よりもすごい者は誰一人いなかった。もっとも、俺のように力を隠している奴がいないとは言い切れないが。
「次は近接戦闘の訓練だ。準備をするから少し待っていてくれ」
待ち時間は少し暇だが、俺に話しかけてくる者はいない。というか、私語をしている者はいない。緊張しているのだろうか?話しかけようにもそんなことはできない雰囲気である。
「それではこれより、近接戦闘の試験を行う。相手は前衛職で剣を使うCランク冒険者だ。誠に申し訳ないが、君たちが使えるのは剣だけだ。ここにいろいろな大きさや重さの刃をつぶした剣がある。刃をつぶした剣を使っても木剣を使ってもいい。ここから好きなものを選んでくれ」
やはり剣だけか。まあ、得意ではないが慣れているから大丈夫か。
「使っていい魔法は身体強化と武器強化だけだ。魔力によって斬撃を放つことも禁止だ。あくまで近接戦闘で挑むように」
魔法を使っていいならば安心だ。Cランク冒険者ということは経験などはともかく、能力は父さん並みと考えていい。魔力をフルに使っても近接戦闘では勝てないだろうが、そこそこ善戦はできるだろう。もちろん、本気を出すつもりは毛頭ないが。
「魔法の試験と同じく、十人で一組とする。彼らは強いし、君たちが使う武器にも殺傷能力がない。だから、殺す気で戦ってくれればいい」
進行役の試験官は変わっていないが、審査する役の顔ぶれは変わっている。さっきの人たちは魔法を専門に、今回の人たちは近接戦闘を専門にしている人たちなんだろう。
「相手はこちらで決めるから、とりあえず十人出てきてくれ。制限時間は先ほどと同じく五分だ。それと、試験官は君たちの防御を見るために攻撃をしてくることもある。大けがはしないと思うけど、ある程度のけがはするかもしれないと思っていてくれ」
試験官に一撃入れられたとしても、父さんや母さんの攻撃に比べたら楽なものだろう。その点は安心である。若干複雑ではあるが。
「冒険者の方々、よろしくお願いします」
試験官に呼ばれて、Cランク冒険者たちが試験会場に入ってきた。
「おいあれ、ダッタさんじゃないか」
「あそこにいるのはレッドブルーのリーダーよ」
「すげー、俺たちはあんな有名な人たちと戦うのか」
彼らの中には有名人もたくさんいるらしい。俺は誰一人知らないが、王都の中ではちょっとした有名人なのだろう。昨日王都に来たばかりの俺が知らないのもしょうがない。
「みなさん、胸を借りるつもりで挑みなさい。最初の十人も武器を決められたようだな。相手も決まっていることだし、そろそろ始めるぞ」
これは一対一の戦いなので、先ほどよりもスペースをとる。そのため、今回は先ほどより遠くから見学しないといけない」
「準備はできたな。それでは、始め!」
受験生たちが一斉に向かっていった。受験生たちの実力はまちまちだが、冒険者たちはさすがに余裕でさばいている。
受験生の中には明らかに近接戦闘ができないやつがいる。見ていてかわいそうになる。また、冒険者側もそいつが弱すぎて逆に困っているようだ。
「こんな感じかー。俺は剣は全力で、魔法は手加減して使おう。これならいい練習になるはずだ」
「終了!」
五分経ったようだ。受験生たちはひどく疲れているようだが、冒険者たちは息が乱れていない。
自分はさほど体力を使わずに、受験生たちの力は引き出す。相手が弱いとはいえ、さすがはCランク冒険者だ。
そして俺の番が来た。
「始め!」
俺はあいさつ代わりに剣を振るった。
「ほう、才能はあまりないが、ちゃんと鍛えられているようだな」
才能があまりないは余計だが、俺がちゃんと鍛えられていることを見抜いたのはさすがだ。
俺には才能があまりないかもしれないが、考える頭と魔力はある。魔力はともかく頭は全開でいくので、フェイントなども多用しよう。
「坊主、性格の悪さがにじみ出るような攻撃だな。俺もついつい本気を出したくなってきたぜ」
「冗談言うな!あんたに本気を出されたらボロボロになるわ」
こいつの本気がどのくらいすごいかわからないが、少なくとも力を制限している今の俺とは比べ物にならないくらい強いだろう。
「違いない。だが、お前からは妙な感じがすんだよな。本気だが全力ではないような、不思議な感じだ」
さすがCランク冒険者だ。完全ではないが、ある程度俺から違和感を感じ取ったか。
「本気なのに全力じゃない?よくわかりませんねえ」
俺は会話しながらも剣を振るう。
「俺にもしっくりこないんだよな。まあ、そんな細かいことはどっちでもいいか」
相手の冒険者がそろそろ動き出しそうだ。まさか本気を出すわけではあるまいな?
「まさか・・・本気を出すわけではないですよね」
俺は恐る恐る訪ねた。
「そのまさかだ」
冒険者はにやりと笑って答えた。
「そんなの試験官失格でしょ!まあ、残念ながらあなたの願いはかないませんが」
「それはどういう意味だ?」
「終了!」
進行役の試験官が試験終了の声を上げた。
「ああっ!?」
目の前の冒険者は不満そうだ。
「お相手、ありがとうございました」
「このまま戦いたいところだが、さすがに依頼内容を意図的に破るわけにはいかない。残念ながらここで終わりか」
助かった。本気になるのがあと二分くらい遅かったら、魔力を全開で使ったとしてもボロボロになっていてもおかしくなかった。
「やっと入学試験が終わったか。それじゃあ、門まで急ぐとするか」
近接戦闘の試験は最後なので、終わった人から帰っていいことになっている。俺は門に向けて歩き出した。




