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異世界転生後は自分らしく  作者: zawa
第一章 幼少期
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姉と父

 明後日は姉ちゃんが入学試験に向けて出発する日だ。

 この国では十歳から学校に入ることになっている。姉ちゃんはこれから王都の学校、つまりこの国で最高の教育を受けることになる。

 詳しいことはまだわからないが、入学試験はあくまで力を見るためのものであり、金さえ払えば入学することはできるらしい。


 しかし、今はそんなことは関係ない。これから行われるのは姉ちゃん対父さんの一騎打ちだ。なんでも、学校に入学する前にどれくらい成長したかの最終確認であり、五年間でどれくらい強くなったか見るつもりらしい。

 俺も十歳になったら母さんと同じことをさせられるらしい。今のところ勝てる気は全くしないが、それはあと三年での伸び率次第だろう。


 姉ちゃんが王都の学校に行ってしまうのは残念だ。いなくなって寂しいというのはもちろんあるが、それ以上に王都の学校に入学することが残念だ。姉ちゃんが行くとなると、必然的に俺も行かなくてはならなくなる。両親が学費を払えなくなったなら行くことはできなくなるだろうが、王都の学校に行きたくないからといって家が貧乏になることなんて望んでいない。

 

 学校には行かなくてはならないと思うが、それならロークスの学校でいいじゃないかと思う。というかそれがいい。行きたくないと言っても、どうせ「シオンだって行ったんだから、あなたも行きなさい!」とか言われるだろう。というか言われたし。


 王都の学校ではなくロークスの学校で、三年間学んだあとに冒険者になっていろいろ旅するという計画の成功は、この三年間のうちに考えるとして、今は姉ちゃんと父さんの勝負を見届けよう。


 姉ちゃんと父さんは庭で向かい合うような形で立っていた。その間に母さんが立って、前世の格闘技の審判みたいにしていた。


「両者共準備はいいかしら?」


 母さんはノリノリのようだ。


「・・・ミネルバ、そういうのはいいから早く始めてよ」


「何言ってるの。こういう雰囲気づくりが大事なんじゃない」


「そうだよお父さん、こういうのは雰囲気が大事なんだよ」


「そうなのかなー?」


 そんなことはどうでもいいから早く始めてほしい。


「いくわよ!レディー、ファイト!」


 二人が一斉に飛び出した。俺は剣の修業の時間は少なく魔法や体術ばかりであり、姉ちゃんの剣の腕を最近はあまり見てはいなかった。昔はよく模擬戦していたのだが、ここ一年くらいはずっと騎士団の訓練に混ざるか外での魔物狩りなどが中心であり、姉ちゃんが戦う姿をほとんど見ていなかったのだ。

 また、父さんの本気も見たことがなかった。俺相手に本気を出すわけがないし、俺は騎士団の訓練にも顔を出してはいなかったので、父さんの本当の実力は全然知らない。


 この対決は、俺が本気を知らない者同士の戦いとなる。父さんが姉ちゃん相手に本気を出すかどうかわからないが、姉ちゃんは少なくとも、魔法なしで挑んでいる俺よりも格段に強いはずだ。

 そのため、俺が今まで見てきた父さんよりも強くなることは間違いない。


 真剣を使い、魔法も使った本気の戦いである。純粋な近接戦闘タイプが全力で戦うのは見たことがないので楽しみである。たぶん最終的には父さんが勝つのだろうが、姉ちゃんの奮闘にも期待である。


『キィィィィン』


 金属のぶつかり合う音がした。俺がいつも使っている木剣と比べると、まったく音が違う。それに、よく見ると二人とも剣に魔力が通してある。身体強化魔法をかけて肉体能力も強化しているのだろう。ものすごい威力である。


 姉ちゃんが父さんに向かって突きを行った。それを父さんが最小限の動きでかわし、すぐさま反撃に出る。姉ちゃんもそれを防ぎ、一度距離をとった。


「かなり強くなったね。今のところは互角といってもいいくらいだよ」


「私だってずっと頑張ってきたんだからね。お父さんもそろそろ本気を出してもいいんじゃない?」


「シオンも言うようになったね」


 やはり父さんはまだ本気ではなかったようだ。それに姉ちゃんも余裕があるように見える。どちらも本気をだしていないのだろう。

 それにしても、真剣であんな攻撃を繰り返すのは危ないと思う。俺も三年後には似たようなことをしないといけないのかもしれないとなると、もっと頑張らないといけないのかもしれない。


「それじゃあもう少し頑張ろうかな」


 父さんはそう言うと、体を覆っていた魔力が大きくなっていくのがわかった。おそらく身体強化魔法をより強くしたのだろう。


 父さんが斬りかかる。姉ちゃんは少し反応が遅れたようだが、何とか防ぐ。しかし、その一太刀では終わらず、父さんは何度も追撃を加える。姉ちゃんも何とか防いでいるが危なっかしく、いつやられてもおかしくはない。


《シールド》


 姉ちゃんはたまらず防御系の魔法を使った。しかし、姉ちゃんは身体強化魔法などの剣や体に直接魔法をかけて強化することは得意だが、それ以外の魔法はそれほど得意ではない。むしろ苦手ともいえるかもしれない。

 

 そんな魔法が父さんに通用するはずもなく、一度剣を受けただけで《シールド》は壊れてしまった。だが、姉ちゃんにとってはその一瞬で十分だったようだ。

 

 姉ちゃんは何とか体勢を立て直した。さっきまでは父さんの勢いに押されて防戦一方であり、体勢が崩れてきていたのだが、父さんが《シールド》を壊すのにかかる一瞬は、姉ちゃんが体勢を立て直すのには十分だったようだ。

 

 父さんも姉ちゃんの体勢が整ったのを見て追撃をやめた。


「今の魔法の使い方はよかったね。得意な魔法ではなくても、使いようによっては有効だからね」


 父さんの言うことはもっともだ。手札が多いに越したことはない。俺があまり得意ではない剣をいまだに練習しているのも、剣が一般的な武器であることだけではなく、万が一のことも考えているというのもある。


「魔法が使えて損はないからね。母さんやウォル君には及ばないけど、私なりに頑張って練習してるんだ」


「ミネルバは当然だけど、ウォルだって魔法が上手いからね。まだ七歳だけど、魔法だけなら僕だってかなわないだろうね」


 俺はすでに二人よりも魔法に関しては上だ。しかし俺はそのことでまったく増長してはいない。なぜなら、俺よりも強い魔法使いが家族の中に入るからだ。


 俺は母さんには全く勝てない。俺だって中級魔法や上級魔法は問題なく使える。最近は将級魔法も少しずつ使えるようになってきた。魔力量だって年々増加してきていて、母さんや宮廷魔術師には及ばないらしいが、それでも一般の魔法使いよりは上らしい。


 さすがに魔力や技術、スピードやパワーに経験など、すべてが母さんに負けているような状態で勝てるとは思わないが、それでもある程度差が縮まってきているはずだ。それなのに、全く勝てる気がしないどころか、どれくらいの差があるのかもわからない。


 Bランクというのはかなりの高みなんだと、母さんと戦うたびに思い知らされている。


「わたしだって母さん達ほどじゃないけど、いろいろ持っているんだから」


 そう言って姉ちゃんは父さんに向かっていった。少し不意打ちくさかったが、父さんは驚いた様子もなく剣を構えている。


《アクセル》


 姉ちゃんが途中で急に速度を上げた。急に速度を上げたことで、父さんの懐に入ることに成功した。


《スラッシュ》


 《アクセル》も《スラッシュ》も姉ちゃんの得意魔法だ。《アクセル》で一気に相手の懐に飛び込んで、《スラッシュ》で強力な一撃を加える。俺の作り出したゴーレムも、このコンビネーションで何体破壊されたことか。

 何とか対応策を考えるのだが、勝負する度に速く、強くなっている。父さんに対しても同じことを何度かやっているはずだが、今回は俺が今まで見たものよりも格段に速い。父さんもこのコンビネーションが来ることは予測できていたのかもしれないが、まさかここまで速くなっているとは思わなかったのだろう。かろうじて反応はできているが、懐に入られてしまったところを見るに、対応しきれなかったのだろう。


『キィィィィン』


 父さんは何とか防げたのだが、完全にダメージが入っている。《スラッシュ》の威力を殺しきれなかったのだろう。ここは姉ちゃんのチャンスのはずだが、姉ちゃんの動きも鈍い。このコンビネーションで確実に仕留めるつもりだったのだろう。追撃はあまり考えていなかったようだ。


 どちらも動かないが、二人の距離はかなり縮まってしまっている。二人とも近接戦闘が得意というだけあって簡単に距離をとれるような状況でもなく、かといって攻撃も仕掛けない。俺は近接戦闘に関してはまだそんなに詳しくはないが、これこそ動いたら負けという状況なのかもしれない。


 長い硬直の末に、姉ちゃんが動いた。我慢しきれなかったのだろう。姉ちゃんは気が長い方ではないからな。


 父さんは姉ちゃんの攻撃を簡単に防ぐと、姉ちゃんに一太刀浴びせた。血が噴き出すかと思って少し怖かったが、姉ちゃんが倒れただけで血は一切出なかった。「安心しろ、みね打ちだ」とかいうやつなんだろう。


「そこまで!勝者ルーク!」


 今までずっと黙って見ていた母さんが、父さんの勝利を宣言した。


「シオンも強くなったね。でも、最後のは頂けないかな。あれはかなり軽率だったね」


「そうね。何か作戦があるならともかく、あの状況で無策のまま攻撃するのはよくないわ。上のレベルに行けば行くほど、ああいうちょっとしたことで勝負が決まるの」


 強い人ほど相手のミスを見逃さないということなんだろう。野球とかでいうと、打率のいい打者ほど甘い球を見逃さないようなものだ。ここは姉ちゃんの若さが出たのかもしれない。姉ちゃんはまだ十歳なので、若いというよりは幼いかもしれないが。


「うー。でも、我慢できなかったんだもん」


「その気持ちはよくわかるけどね。それなら相手がどう来るか予測して、自分が仕掛けた後に相手がどう来るかに備えるとか、もっとフェイントの質を上げて相手から手を出させるとかしないとね」


「でも、父さんはフェイントしなかったよね?」


「そうだよ。シオンはどうせしびれを切らして攻撃してくると思ったからね」


「くそー。父さんに勝てると思ったのに」


「ふふふ、シオンもまだまだね。ルークはCランクの戦士であり、この町の騎士団長でもあるのよ。まだまだ本気を出してはいなかったわよ」


「そうなの?」


「残念ながらそうだね。まだ僕の力をすべて出したわけではなかったよ。といっても、シオンはまだ十歳の女の子なんだから、これから頑張ればいいんだよ」


「そうね!王都でいろいろ頑張って強くなってきてね」


「うんわかった!」


「シオンは明後日出発だから、明日は忙しくなるわよね。だから、今日はシオンの送別会ということで、みんなでごちそうを食べましょう」


「「やったー!」」


「二人ともうれしそうね。ならさっそく準備しなきゃ」


 その日の夜は家族みんなでごちそうを食べた。


「お父さん!次こそは勝つからね」


「その意気よ。でもシオン、その前にルークに本気を出させることから始めないとね」


「そうだった。でも、いつかは本気のお父さんに勝ってみせるよ」


「それじゃあそうならないように、僕も鍛えていかないとね」


「早くご飯食べようよ」


「そうね。そろそろご飯を食べないとね」


「「「「いただきます」」」」


 







 その日の夕飯はとにかくおいしかった。







 


 

 


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