【第3話】ミラー伯爵はいつも不機嫌
生まれた瞬間から、大嫌いだった兄ランスロット。
その娘は、フォックス家で代々生まれる絶世の美女として生まれてきた。兄が生きていたなら、国で一番幸せな女性になれたかもしれないが、守る者がいなくなったアレは、私の駒であり、綺麗な人形だ。
私が受けた仕打ちを、私は兄の娘にそっくり与えた。
我が国では双子が生まれると、弟には呪契約を施し、弟の魔力は兄のために搾取される。魔力は、自発的に譲渡するのではなく体内から無理やり引き出す場合、拷問に近いような痛みが起こる。
例えるなら、内臓に直接焼きごてを押し付けるような痛みだろうか。
兄より優秀になることは決して許されず、食事はいつも残飯のようだったし、同じ食卓で食事をすることも許されなかった。兄は美形なフォックスの血を発揮し、2人分の魔力でいつも輝いていて、その兄を支える弟の私は、母に似て兄よりずっと平凡な見た目で――それも私を苦しめた。
兄が死んだ時、私の呪契約は解除され、兄の力がすべて私に還元された。私を苦しめた呪いは、もうない。
憎む兄ももういなかったが、目の前の子供を見たら、ふつふつと怒りが止まらなかった。
「親の墓場に行きたかったら、魔力でこの紙に名前を書きなさい」と子供を騙して、魔力搾取の呪契約を結んだ時には、心が歓喜した。
無垢で、幸せと愛情の中で育った天使を虐待することは、私の過去を癒してくれた。
呪契約は外傷が残らないから虐待も露見しないし、エミリアから搾取した魔力は良質で、伯爵領の発展に大いに役に立った。戦争を引き起こしてきたほどの美貌を持つエミリアは、政略結婚の駒としても十分に期待できる。
幼少期からの虐待と監禁でエミリアは心を閉ざし、人形のように従順で、笑うことのない無気力な令嬢になった。かつての自分の姿に重ねて、にんまりしていたミラー伯爵の計画が狂ったのは、つい最近のことだった。
エミリア宛に、王城から呼び出し状が届いたのである。傾国の美姫を3人も輩出したフォックス家は、当主が王城と契約を交わし、フォックス家の美姫が国を惑わすことのないよう呪いをかけるかわりに、国の保護下に入るのだ。
エミリアの契約は、両親が死ぬ前に交わされていた。12歳の誕生日に城に呼び出され、エミリア本人に呪いを施したうえで、学院に通うことが決まっていたのだ。
契約は既に兄ランスロットと王城の間で済んでいたため、契約内容もエミリアへの呪いの内容も、私には説明されなかった。王城に出向いた際にはずっと軽んじられて、苛々した。王城では、私には高圧的な王族が、エミリアには優しく接しているのも、プライドが許さなかった。
エミリアへの虐待は王城では実行できない。だからエミリアが人形ではなく笑顔を見せているのも、許しがたい。私がせっかく作り上げた人形が、意思を持つなど許せない。早く屋敷に戻って、エミリアを痛めつけ、呪いの内容を吐かせなければ。
――エミリアは呪われたが、同時に守護もかけられた。エミリアを利用しようとした者には罰が下され、エミリア自身も、加担して国を乱す原因となれば処分される。
王弟からの説明は質問を許されず、それだけを告げられて、エミリアと私は屋敷に戻ってきた。
屋敷に戻った私は、本館の地下にエミリアを繋ぎ、かつて自分もされた自白剤を注射した。そして薬の効いたエミリアに問うた。
「私に隠していることを、話しなさい」
エミリアは、いつもの人形のような何も考えていなさそうな顔ではなく、その質問をした私を睨みつけた。口を開いたかと思うと全身が痙攣し、魔力が不安定になった。エミリアの魔力が至近距離で暴走すれば私にも命の危険があったが、エミリアはそのまま気絶し、魔力の反応を一切止め、一瞬呼吸まで止まった。死んだのか? と慌てたが、エミリアが目を覚ますことはなく――うなされながらエミリアが口にしたのは、この国の言葉ではない、呪文のような言葉だった。
「ロケベン……プロデューサー……テレビ……」
意味不明な単語を繰り返すエミリアは、呪いの影響かもしれない。地下からエミリアの自室に戻し、目が覚めたら知らせるように、とメイドに伝えたのである。




