【第26話】選ばれない、という選ばれ方
学院祭には、もうひとつ、名物行事があった。
「星の女王」——通称、ミスコン。
学院祭の最終日、全学年の令嬢の中から、上級生の投票で「その年の女王」を選ぶ。選ばれた娘は冠を戴き、閉幕の舞踏で最初のひと踊りを披露する。二百年続く、学院の華だ。
「エミリア様、絶対に選ばれますよ! 満場一致です!」
ソフィアが、鼻息荒く言った。
「わたし、もう賭けてもいいです。エミリア様以外に誰が選ばれるっていうんですか。演習で優勝して、劇を大成功させて、しかもこんなにお綺麗で!」
「あら、ありがとう。でも私、そういうのは柄じゃありませんわ」
本音を言えば、興味がなかった。前世で、私はカメラの前に立つ側ではなく、立たせる側だったのよ。冠より、演出席のほうが落ち着くの。
でも、ソフィアがあんまり嬉しそうだから、エントリーだけはしておいた。
——そして、三日後。
掲示板に貼り出された「星の女王」候補者の名簿に、私の名前は、なかった。
***
「どういうことですの?」
主催の三年生に問い質すと、彼女は困ったように目を伏せた。
「その……エミリア様は、選考の対象外に、なりまして」
「対象外?」
「実行委員会で、協議いたしました。……エミリア様がご参加になると、その、公正な選考が、成立しないと」
「成立しない?」
「エミリア様と、他のご令嬢を、同じ基準で比べることが……その、できない、と」
言葉を選んでいるけれど、要するにこういうことだ。
——お前は、美しすぎる。だから、外す。
私は、しばらく黙っていた。
胸の底が、じわりと冷えていくのがわかった。
演習で優勝した時、私は「作戦が褒めにくいから」表彰されなかった。あれは、納得できた。私自身の選んだ勝ち方の問題だったから。
でも、これは違う。
これは、私が何をしたからでもない。ただ、この顔で生まれた。それだけの理由で、土俵にすら上げてもらえない。
「……わかりましたわ」
私は、微笑んで、その場を去った。
微笑めたのは、我ながら上出来だったと思う。
***
寮の部屋で、私は珍しく、何もせずに窓の外を見ていた。
「お嬢様」
マリーが、静かにお茶を置いた。
「怒っていらっしゃいますか」
「怒っていないわ。……ただ、少し、疲れたの」
私は、窓ガラスに映る自分の顔を見た。
金色の髪。紫の瞳。人ならざる、と契約書に書かれた顔。
「ねえ、マリー。おかしいと思わない? この顔のせいで、私、いろんなものから外されるの。表彰からも、ミスコンからも。……得をしているようで、いちばん大事なところで、いつも輪の外に置かれるのよ」
「お嬢様……」
「昔の私、平凡な顔をしていたわ。だから、コンテストで一位になったこともないけど、参加は、できた。土俵には、立てた。……この顔は、土俵にすら、上げてくれないの」
ドアが、乱暴にノックされた。
「エミリア様!!」
ソフィアだった。顔を真っ赤にして、息を切らして、飛び込んできた。
「聞きました! ひどいです! こんなの、絶対おかしいです! わたし、実行委員会に抗議に行きます!」
「ソフィア、落ち着いて」
「落ち着けません! エミリア様が、美しいことが、なんで罰なんですか!? おかしいじゃないですか!!」
——ああ。
この子は、本気で怒っている。私のために。
自分の順位でも、自分の得でもなく。ただ、私が理不尽な目に遭ったことに、我がことのように。
前世で、私が理不尽に現場を外された時。庇ってくれた先輩は、一人だけだった。
でも今、私の前で、真っ赤になって怒ってくれる子が、いる。
「ソフィア」
私は、彼女の手を取った。
「抗議は、しなくていいわ」
「でも!」
「その代わり、ひとつ、手伝ってくれる?」
私は、にっこりと笑った。
胸の底の冷たさが、すうっと引いていくのがわかった。
そうよ。私は、輪の外に置かれた。
——なら、輪の外から、この行事ごと、ひっくり返してやればいいだけの話じゃないの。
「私、ミスコンには出られませんの。でもね、ソフィア。出られないなら、作る側に回ればいいのよ」
「作る、側?」
「ええ。この『星の女王』、二百年、上級生が令嬢を品定めして冠を授ける行事でしょう。……その構造ごと、塗り替えてやりますわ」
前世で、私は嫌というほど見てきた。
「あなたは出られない」と言われた企画が、いちばん面白くなることを。




