2 秘密と嘘(後編)
「……⁈」
途中から妙に甲高く、少女のそれのようになった悲鳴に、牙は固まった。
顔を上げ、相手を見つめた。
――少女だった。
首筋から一筋赤い血を流し、目に大粒の涙を浮かべている。
背が縮み、肩幅が狭くなり、胸が膨らんでいる。
顔立ちも、なんだか少し違っている……。
思わず、太陽学園の制服着せて、ヘアピン持ってきて、でこ出しにしたくなるその姿は……。
「双葉さん⁈」
黒い瞳に戻った牙の頬を、彼女はグーで殴った。
「うげっ⁈」
貧血少年はあっけなくひっくり返った。
彼女は何も言わず、丘をぶち壊す勢いで、下っていった。
あのオリンピック選手だって目じゃないその丘下りは……。
海山双葉、その人に間違いなかった……。
月曜日。
2時間目の途中で登校した牙は、休み時間ごとに双葉と話そうとした。
しかし、双葉は牙が声をかける前に教室から姿を消し、追いかける牙を振り切り、始業のチャイム間際にならないと教室に戻ってこない。
結局、何も話せぬまま、放課後になってしまった。
「きりーつ、礼!」
下校オーケーになると、双葉は背負った緑色のリュックサックと共に、いつものごとく━━しかし自己ベストが出そうな勢いで、下校開始した。
「双葉さん‼︎」
「赤羽、おまえ掃除当番……‼︎」
というクラスメートの声を振り切って、牙は彼女の後を追った。
いつもの牙からは想像できないスピードだった。間違いなし。自己新記録だ。
だが、海山双葉恐るべし! もしかして光よりも速いんじゃないかという勢いで走り、階段も全段飛ばしちゃってそうな程の鮮やかさで駆け下りていく。
「双葉さん!!」
牙は涙した。
もう彼女には手が届かないのだろうか?
このまま彼女は星になってしまうのだろうか……?
━━星は、下駄箱前にいた。
「ぜいぜい……ふっ、双葉さん……!!」
双葉の下駄箱から、これでもかってくらいハートのシールのついた封筒が飛び出し、昇降口中に溢れていた。
彼女はそれに足止めされていたようだ。
海山双葉新伝説:下駄箱ラブレター事件‼︎
あの冷血双葉が実はモテモテ⁈ しかも、本人の驚いた様子からすると、これって今日が初めて? 一体なぜ……?
しかしホームズを呼んでいる暇はなかった。彼女がブルーでスポーティでおしゃれなシューズ履いてまた走り出したからだ。
「双葉さん待って‼︎」
牙もデパートの特売で母親が買ってきたブラック運動靴に履き替えて、彼女を追った。
目から炎が出るものなら、散乱したままの手紙の群れを燃やしつくしたいと思いつつ。
校庭横切った双葉は、速くも第3コーナー(?)を曲がって、太陽学園名物「嵐の下り坂(⁈)に入った。
牙は泣きながら、校門を目指した。
双葉、もうじき下り坂を制覇‼︎
このまま太陽公園突っ切って、後続(牙)を振り切るか⁈
牙、それでもいつもからは考えられないスピード(ブースト・オン)で、下り坂を━━転げ落ちた。
「うわぁああああああっ⁈」
宇宙中響き渡るような悲鳴を上げながら、土を蹴飛ばして、その辺の草なぎ倒して、木の壁にぶち当たって、動かなくなる。
コーナぁーアウト!
「あぁ双葉さぁん」
だめだ、この分じゃ双葉はもうゴール(帰宅)しているかもしれない。
「きゅうぅぅ」
牙はそのまま気絶して、このレース、リタイアした……。




