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シークレット・ブラッド  作者: うさぎさん⭐︎
第2章 ムーンライト・ラビリンス

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8/42

1 秘密と嘘(前編)



「うぉー‼︎  公園公園血が騒ぐー‼︎」

 自転車をその辺に止めて、2人はなんとなく散歩を始めた。

「ねぇねぇ海山知ってるー? この公園結構穴場なんだぜ。

 夜だと思って油断したイチャつくカップルとかいてさー!

 あの辺の暗がりとか、あっちの茂みとか、あぁあともっと奥のほうのあそことか、すげーんだぜ‼︎

 なんかもう僕ヤバイ、興奮してきた」

 若木が軽蔑しきった声で言った。

「なにおまえ、そんなん興味あんの? ガキだよな。

 かわいい顔して、陰でんなことばっか考えてたんだな。

 クラスの女子に話したら、てめぇの人気も地に落ちるな」

「え、え、……?」

「てめーも、男なら、もう高校生なら、もっと他にやることがあんだろ?」

「え、えっと……? 受験勉強、とか……?」

「ちげーよ。ばか」

「え? んと……? もっと自制できるようになれってことかな。

 それとも、お日様とも仲良くなれってこと?

 そういえば僕、せっかく太陽学園通って、体も心も鍛えようと決めたのに、全然だめだもんなぁ……。

 それとも……、あ、まさか恋とかっ?! じ、実は僕、クラスに好きながいて……」

「ちげーよ」

 若木は、、鼻で笑い、牙の肩に腕を回して、白く細い指を夜空へ向けた。

「……男なら、大人なら――星だっ!」

「はあっ?」


 公園の小高い丘。

 太陽学園の丘とは比べもんにもんなんないくらい低くて狭いけど、結構風情がある。

 そこのベンチの上に若木は座った。

 牙も無言でそれに習った。

 海山若木の知られざる趣味その2:星(もちろん1は映画)。

 今日一日で、牙の頭んなかの知人リストの海山若木の項目には、いろいろデータが書き込まれていた。

 ……そういえば、こんなふうにじっくり星を眺めるのなんて、何年ぶりだろう。たまに、月を仰ぐくらいのことはあっても(太陽はパス)、星なんてあんまり……。

 いくらネオンが増えていったって、それでもまだ見える星はある。この辺は、わりとのどかだし、星ってほんと、一杯あるんだ。

「昔の人ってすごいよな。こんな、星を繋げて、いろんなものに見立てたり、いろんな話作ったりしてさ」

「……ほんとだね」

 牙は素直に頷いた。なんだか星の光って、安心できる。

「なんかさ、人って生まれたときからかな? 自分の星を持ってんだって」

「え? 12星座とか?」

「いや、もっとさ、たくさんの、その人━━一人だけの星」

「……自分だけの星?」

「そう。誰とも違う、同じ星なんかない、たった一つの、自分だけの星だ」

「へぇ……」

 牙は夜空を見回した。

「でも、俺は、それがどの星なのか、わかんないんだけどな……」

 なんだか若木はさみしそうだ。

「え、あ、うん、あの星なんかは……?」

 牙は一際明るく輝く星を指差した。若木は笑った。

「なんで?」

「だって、海山の星ってさ、なんかキラキラ輝いてる気がする。

 ……あ、それかさ、月? なんか優しくて綺麗で海山に似合ってる」

「……そかな……。俺は、自分の星は、きっとすごく変わってると思う」

「どうして?」

「……俺って変わってるからさ」

 星を眺めて、若木はまた小さく笑った。でも目がまださみしそうだった。

「えっ?! どこが?」

「……さあな」

「海山は変わってるんじゃなくて━━その……、映画とか、星とか、趣味あってさ、そういうの、個性があるっていうか、しっかりしてて、いいじゃん」

「……サンキュ」

「変わってんのは、僕のほうだよ」

「……? 貧血のことか? そんなの……」

「違うんだ。━━人ってさ、きっとみんないろんな事情を抱えて生きてると思うんだ。

 きっと、誰だって大なり小なり秘密や悩みを抱えてさ、でも、一生懸命、みんな生きてるんだ」

「……赤羽の星は、きっと……太陽みたいな、あったかい星だろうな」

「ありがとう」


 牙は若木の顔を眺めた。今日一日で、若木のことがもっと好きになってしまった。 

 ただのクールなだけの若木じゃなくて、なんかいろいろ考えて生きてる――そんな若木がかいま見えたからだ。

 若木は一心に星を見ている。

 牙もまた、星を見上げた。

 いつか見つかるといいな、海山の星……。


「今日は、つきあわせて、悪かったな」

 星を見つめたまま、若木は言った。

「楽しかったぜ」

「あ、うん、僕も……」

 街灯が輝いていた。

 人が作り出した光。街は光で溢れている。

 けど……、牙はなにより、この、夜空の、人の光におされて輝きを弱くして、でも一生懸命輝いてる星々を━━美しいと思った。

 涼やかな風が吹いた。

 若木は、気持ちよさそうに瞳を細めた。

 夏の夜。風に吹かれて、誰かと一緒に、星を見上げる。

 こういうのってなんかいいなぁ……。牙はそう思った。

 星と街灯に照らされて、若木の白い顔が輝いている。本当に綺麗な瞳をしている……。

 薄い茶色の、意志の強そうな瞳。よく二重のほうがいいなんて話を聞くけど、若木は一重だ(そういえば双葉さんも……)。

 でも、一重ってなんかいいと思う。だって、若木の目は、こんなに綺麗だ……。

(あれ?)

 なんだか急に動悸がしてきた。でも、これって貧血のせいじゃないかも……。

 若木の綺麗な瞳を見てると、たまらなく胸が高鳴るんだ。

 だって、若木が、こんなにも、双葉に似てるから……。

 いや、違う。若木だから、こんなにも苦しいんだ。

(ヤバイ)

 コレは……!

「海山、逃げろ……!!!」

 牙は若木を突き飛ばした。


(え……?)

 いきなり突き飛ばされて、ベンチから落ちた若木は、間近に立ちつくす牙を見た。

「ご、ごめん海山。僕、まだ大丈夫だと思ったんだ……。

 でも、最近学校とか、バイトとかできるだけ行ってたから……血が……血が……」

「赤羽……?」

 若木は息を飲んだ。牙の大きな瞳が━━その色が、赤黒く変色していたからだ。

「なに……?」

「に、逃げて……僕、血があんまり足りなくなると、そんで特に夜だと、自分で自分が何してるか、わかんなくな……」

「赤羽?」

「…………」

「おい、赤羽……」

「アハハハハ」

 聞いたことない低い、背筋の寒くなる声で、牙が笑った。

「こりゃ、上玉だぜ。オレ好みのすげー美少年だぜ」

「なに言って……」

「そう怖がるなよ、痛くしないぜ。すぐ気持ちよくなっからさ」

 なんかヤバそうなセリフを吐いた牙は、やっぱりはっきりヤバイ顔をしている。

 あのかわいい牙とは思えないほど、妖しく、まがまがしく、思わず取り込まれそうになるようなその顔、その瞳……。

「きっと、綺麗な赤い血をしてるんだろうな。うまいんだろうなぁ。楽しみだなぁ」

 牙は、自分の唇を赤い舌で舐めた。その口から、その名と同じ━━鋭く白い牙が覗いた。先程まで、あんなもの、なかったのに……。

 牙は有無を言わさず、若木を組み敷く。

 その小さい体からは想像もつかないパワーだ。

「な、な……?!」

「いただきます」

 若木の白く透き通るような首に、牙は噛みつく━━、

「うわぁああああああっ⁈」

 間一髪、渾身の力を込めて、若木は牙を突き飛ばすようにして、その手から逃げ出した。

 一目散に、その場から走り去る。

「ハハハハ。逃げろ逃げろ。そう簡単に捕まっちゃ、おもしろくない」

 余裕の表情で、牙はそれを追いかける。

 身長差のある若木のすぐ後ろを、わざと捕まえず、焦らすように追いかける。

「うわあああ⁉︎」

 いくら走っても離れず着いてくる牙。

 若木は足を止めず、振り返る。途端、その辺の茂みに突っ込んで、何かに引っかかって転んだ。

「ちょっと、なによぉ。今いいトコなのにぃ」

 ……イチャつくカップルだった。 

 はでな赤いワンピース着た女の脚につまずいたらしい。

「なんだてめー」

 語気荒い強面の男。でも、そんなのに構っている暇はない。

 若木はそれらを避けて、再び走り出した。

 牙がそれを追いかけていく。

「……なんだったんだ?」

「ねぇねぇ昌樹まさきぃ、見た見た?

 片っぽすっごい美少年だったわよ!  

 もう一人も、かわいい感じなのに、妖しくて綺麗でかっこよくて!

 あの二人、どんな関係かしら?」

「さぁ?」

「きゃっ、もしかして、あの二人、恋人かしら⁈

逃げる美少年、追う妖しく麗しい、謎めいた少年! あぁ絵になるわ~」

「……美佳みか、てめー普段どんな本読んでんだよ……?」


 クズ籠を倒し、目の前を横切ろうとした黒猫を蹴りつけそうになり、たくさんのカップルの邪魔をし、若木は太陽公園を10周する勢いで逃げ続けた。

 マッハのスピードで、本当に公園を10周した後、彼は、太陽学園の丘を登っていた。

「こ、ここまでは追ってこれまい……」

 例によって振り返った若木は、間近に赤い瞳を見て、

「げ?!」

 と首を前に戻した。長い足を忙しく動かして、とにかく丘を駆け登る。

 ……数分後。

「なんで、引き離せねぇんだ~⁈ いつもはここですぐへたばるくせにっ⁈」

「なにをハテナなことを言っている?」

「ちくしょおぉぉ」

 さらに数分後。

「はぁはぁ……あ、やべ、そろそろさすがの俺もへばりそうになってきた」

「ハハハハ」

「あー、はぁはぁ、むかつく。

 いつもは息切れすんのはあっちなのに。

 走りには俺、自信あったのに。なんで、そんなに、はぁ……余裕なんだてめー」

「アハハハ。少年、そろそろ潮時かな?」

「っきしょ……はぁはぁ……うげっ?」

 若木は石に蹴躓けつまずいた。……無様に転んだ。

「ハハハハ、ハニー。そうあせるなよ。夜道は危険が一杯だ。

 そんなに急ぐから、オレのことばっか見てるから、転ぶんだぜ?  フフフ」

 牙は、俯せに倒れた若木を、無理やり仰向けにし直して、その上に馬乗りになった。

「はぁはぁはぁ」

「そんなに興奮するなよハニー。夜はこれからだぜ」

 牙は若木の髪をその手で撫で回した。乱暴に、彼の髪を縛るゴムを外した。

「痛っ……!」

 形のよい白い頬を撫で、唇をなぞり、顎を伝い、牙の手は、若木の首筋へ移動した。

「たまんねぇ」

「や、やめ……!」

 牙の息が、若木の耳元に迫る。

「や、あかば……はぁ……やめ、あ……⁈」

 若木の首筋が湿った。牙が、赤い舌でその白い首筋をしきりに舐め回す。

「ん……だめ、やめ、赤羽……嫌だ。いや……」

「大丈夫。死にはしないよ。

 ちょっと、その綺麗な血をくれればいいんだ。

 欲しいんだ。オレ、おまえの血が……」

 牙の赤い目が、若木の茶の瞳を見つめる。

 思わずその赤い瞳に魅了された若木の首に、口を開いた牙が、白く鋭いそれを突きつけた。

「嫌だぁぁぁぁあああああっ‼︎」

 夜を振るわす悲鳴が、響きわたった。


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