6 貧血少年・清涼少年④
「ワリィワリィ」
リュックサックを肩にかけ直して、悪びれず若木はそう言った。
2人して、ラーメン屋を後にし、並んで自転車押して歩いているところである。
「……いや、別に」
本当はもうおうちに帰りたいなぁ〜とかは思っていたが、それを口にするとなんか恐そうだからやめた。
「腹一杯になったし、次はどこ行く?」
いや、僕、サラダしか食ってないんだけど(吐いたし)……ってのも、心ん中で飲み込んだ。
しかし、この若木、見かけによらずよく食う男である。背高くて細くて女の子がキャーキャー言いそうな感じなのに。
「……もうどこでもいいです」
「あっそ、んじゃさ、映画観に行かねぇ?
俺さあ、もう好きなんてもんじゃないくらい映画が生活の一部でさ。もうライフワークってくらい。
いや、っても大抵ビデオだけど。
実はさ、俺がバイトしてんのも映画のためなんだよ。月に60本はビデオ観るし。気に入ったのあったら、サントラとか原作とかも買っちまうから、金がなくってさ。
毎日、学校終わったら、車轢きかねないくらいの勢いでビデオショップ行って、家帰って、ビデオ観るんだ。
もう何度も何度も観てるヤツもあるしさ。
けど、俺なんてまだまだでさ、まだまだ観たことねーヤツが一杯あんだよなぁ」
「な、なんかすごいね……。僕今日、海山のイメージ変わったかも……」
「でさ、赤羽。『世界一の吸血鬼』ってもう観ちまった?」
「いや……」
こないだ双葉にフラれてまだ観てなかった。
でも、実は今すごい観てみたい映画ナンバーワンだった。
「じゃっ、観に行こうぜ。
なんかさ、いつも断ってばっかで悪いからさ。
あれなら俺も観てみたいしさ」
いつも? 牙は首を傾げようとして、前方に迫った電柱にキスぶちかましそうになった。
「う、うわぁ⁈ アブね……‼︎」
「何やってんだよ、大丈夫か? ほんとにどんくさいな。
そんなんだから女子に遊ばれんだぜ」
「はい?」
なぜその秘密を⁈
いや、バイト先でもよくおばさんとか患者さんに遊ばれてるからかな?
「ほら、早く行こうぜ。始まっちまう。楽しみだな、なんかあれの宣伝によると、親しみ持てる内容なんだよな」
「あ、ほんとほんと、なんか自分のことみたいで、気になっちゃうんだよね!」
『世界一の吸血鬼』
ストーリー(パンフより抜粋): 暗闇を生きる孤独な吸血鬼が、ある夜恋をする。
彼女は敬虔なクリスチャン。しかし、彼女は誰にも言えない秘密を胸に苦しんでいた。
大人しく可憐で、女らしいというよくわからん言葉にジャストフィットな彼女の内には、剛毅でちょっとアホだけど人のいいという、男性の人格が眠っていたのだ! 早い話が二重人格だ‼︎
あぁ果たして2人の禁断の恋(?)の行方はいかに⁈
あとは観てのお楽しみ。観る前から結末わかっても、もう観てて知ってても、他の人には秘密にしといてね。あはん。
「すっげーよかった‼︎ 僕、もう感動で涙がとまんないっっ‼︎」
ハイテンションな青白い顔の少年が、映画館から出てくる。
一緒に出てきた人たちも彼も、みんな瞳から滝のような涙を流してた。
「別に」
――ただ1人を除いては。
「ストーリー的には期待外れだな。貧くさい結末でがっかりした」
「え⁈ あ、そう……?」
宇宙人がタマネギ爆弾で地球を襲って大地が涙の海に沈もうと、ただ1人平然としていそうな顔で、若木は空を見上げた。
夏だし、駅が近いから、辺りはまだまだ明るい。
「ったく、よくみんな、あんなんで泣けるよな。
いちいちあれくらいで泣いてたら、大変なことになっちまうぜ」
薄茶の瞳をどこからどう見ても、多分ひっくり返しても、涙の跡なんて全くない。
こいつ涙腺ないとか目おかしくて手術しないと涙なんか出ない体なんじゃねーのか、ちゅーくらい。あれで泣かないなんて人間じゃないって、評論家も大絶賛してたのに……。
「でも、アクションシーンは、結構すごかったよな。あの監督の映画んなかじゃ一番だな。
あとさ、俺的には、やっぱりあのラストは納得できねーよ。
無理に人格統合したって、あとで何らかの形で絶対しわ寄せ出るって。
あの吸血鬼、自己満足だよ。絶対ヒロインのこと考えてねー。
だからあんなことできんだよ」
「えー、そうかなあ?
あれは彼女のことを考えてのことで、吸血鬼は悪くないよ!」
「……」
若木の目が危なく光った。
「い、いや、吸血鬼っても、所詮は人間(?)だからさ、完璧に他人の心をわかるなんてできないかもしんないけど……。でも」
「あー、待った待った。ここじゃアレだ。
どっかファーストフードでも行って、そこでじっくり話し合おう」
「おう」
で、どっかのファーストフードのお店。
「あの吸血鬼が悪い」
「吸血鬼は悪くないよ!」
「だいたいあの吸血鬼ってなんかむさ苦しい」
「むさ苦しくなんかないよ!」
「第一、あれじゃストーカーだ」
「違うよ‼︎ あれこそ純愛だよ‼︎」
「気色わりい」
「そんなこといったら、あの女の人のほうが、人格2つもあって、しかも男と女で、変じゃないか」
「んだとお⁈ てめー‼︎ てめーにんなこと言われる筋合いねーぞ‼︎ だからって、誰に迷惑かけてるってわけじゃねぇ!
吸血鬼なんか人殺しじゃねえか⁉︎ 犯罪だぞ‼︎」
「るさいなぁ‼︎ 吸血鬼=犯罪者なんて、それこそ差別だ‼︎
吸血鬼にだって人権があるんんだぞ(?)‼︎
この生きづらい日本で、涙ぐましく生活して、血が欲しくても血が欲しくても我慢して、どーしても我慢できなくなったっても、それでも人殺したとかしねぇよううまく血吸って、だから少ししか血吸えなくて辛くても、なんとかこの社会に順応して生きてる、そんな吸血鬼だって━━多分どっかにいるんだからな!
それより、人間のほうが、たくさん動物や植物殺してんじゃん?」
数時間後。店から出てきた2人。
「はーすっきりしたぁ」
「ほんと。久々に大声出したら、ストレスなんか空気に溶けてなくなって、その空気も北風が吹き飛ばしちまって、頭上でさわやかな青空と太陽が笑っちまってるって感じだよな」
「そうそ。……太陽には遠慮願いたいけど」
辺りはさすがにそろそろ暗くなっていた。
「うおー‼︎ 夜だ夜だ」
ガキまるだしで騒ぐ牙。
「お、なんか赤羽いきなり元気だな。飯食ったからか?
でも、ハンバーガー2つでよく足りるよな。俺なんか8個は軽いぜ」
「う〜ん。ってか、僕昔っから、夜になると元気になる体質でさぁ」
「へぇ。意外」
「ヘヘー♪ 夜だ夜だ夜だ!
……うっ。やバイ。はしゃいだら、気持ち悪くなってきた」
「おまえ、大丈夫かよ」
「うー、ヤバイなぁ……そろそろマジで、血、足んなくなってきたかな……?」
「輸血でもしてくか? なんてな」
「冗談。へーきへーき」
「赤羽って何型? 俺、そのうち献血してみよっかな。
あれ何歳からオーケーだっけ?」
「わかんない……」
「だな、赤羽とは直接的には縁なさそう。おまえはどっちかってーと血もらうほうだよな」
「世の中には血余ってる人が結構いんだよ……。
でも、人襲うのって危険だし、なんかヤダしなぁ……。
いらない分、自動的にうちに送られてくればいいのに」
「なんか健康なヤツからなら、少しくらい血抜いても平気らしいな」
「うらやましい……」
「レバーとか食ったほうがいいんじゃねぇ、おまえ」
とかいいながら、2人は自転車飛ばして、太陽学園の丘の下の横に広がる、太陽公園へ行った。




