5 貧血少年・清涼少年③
なるとのように回る目。回る回る地球は回る。ずっと見てると、こっちのほうが気持ち悪くなるくらい、なると目を回転させていた牙は、「ハッ?!」といきなり目を覚ました。
目の前に、無敵に涼しげな顔。
どっかの童話の冷酷な女王すらミトコンドリアに思えるくらい、すっげぇぇええぇ綺麗なそのお顔!
「双葉さんっっ‼︎」
直立不動した牙を、綺麗なお顔のその人は、無下にも蹴倒した。
「俺だボケ」
クールビューティーな声。……若木だった。
見回すと、まだあの異常なラーメン屋の中だった。
若木は床に倒れた牙を残して、再びカウンターについた。
肘をついて頬杖し、牙を見下ろす。
「早く座れよ。延びるだろ?
それともなにかてめー、俺のおごりじゃ食えねーってか?」
なぜか若木もおやじも、アラスカ並に、目が冷たい。
ふと、促されて見ると、薄汚れた張り紙に達者な血文字で、『食いもん残すやつぁ、死あるのみ‼︎』と書かれてある。
「うわあぁぁぁああっ‼︎ ごめんなさいごめんなさい‼︎ ぼ僕、ニンニクとか餃子ダメなんですぅ〜‼︎ 食ったら、それこそ死んじゃいます〜〜〜〜〜〜〜っ‼︎!」
木目の床にキスするように土下座して、牙はタマネギ切ったみたいに涙した。
「あはははは」
「ははははは」
「━━えっ?」
おやじの高笑いと、若木のシニカルチックな笑い声。(←でも目が楽しげ)
「見てみ」
若木が例の張り紙を指差す。
牙が目細めてよぉぉーーっく見ると、『死あるのみ』の下に、米粒よりも小さな、ポップコーンも弾けちゃうポップな字で、『なんてね。by店長』と書かれてあった……。
「なんだよおまえ、ニンニクアレルギーかよ?
好き嫌い多いから。ちっこいんだぜ?
源蔵さん、なんかこいつ、十字架もだめとかいうんだぜー?
なんか吸血鬼みてー‼︎」
「はははは。赤羽くんだっけ?
見せたかったぜ、君が倒れたときの、あの、若木くんの顔‼︎
地球が滅亡しちゃったみたいな顔してさ! こいつ、今はもう平気な顔してるけど、実は君のことすっげー心配して、往復ビンタと百烈キックかましてたんだよ!」
「あぁー‼︎ 源蔵さん‼︎ 言うなよ‼︎」
「照れるな。おまえがここにダチ連れてくんのも初めてだし、おれはうれしーや」
なんか盛り上がってるおやじと若木。
しかし、牙は痛む体と、いきなり全力でトライアスロン始めた心臓を押さえ、10割り増し青白い、今にも死にそうな顔をしていた。
「ん? どした、赤羽。俺なんか気に障ること言った?」
「べ、べつに……」
「ほら。ラーメンも餃子も、今、俺が全部食っちまったぜ。安心しな」
今って、一体いつ⁈ ってくらいの速さで空になった丼と皿を、若木は牙に見せた。
まだアレな匂いがするが、おやじが手速く食器を洗ってくれたり、若木が緑のリュックから取り出した柑橘類の香り漂うスプレーを使ってくれたりして、ちょっと増しになった。
「ほら、サラダは食えよな」
「は、はい……」
床に座ったまま、牙は若木がよこしたサラダを犬みたいに平らげた(いや、箸は使ったけど)。
「うおっ⁈」
━━1秒後、それを思いっきり吐き出した。
「な、なんか入ってる⁈」
歯に引っかかって、牙の口から生えてるキャベツ以外の唾液混じりの何かを、若木は何事にも動じない顔で奪い去って、
「あ、ラッキー。見てよ、源さん!」
「大当たりィ〜! はいこれ、ホップステップあとちょっと餃子1つプレゼント!」
唾液つき当たりクジと交換に、瞬きできない速さで作られた餃子が、若木の前に出現した。
「ヤリィ!」
100年間寝ても覚めても好きで好きでたまらなかった異性にプロポーズされたような、幸福絶頂な顔で、若木はそれを噛み締めた。
それからまた例のクールな声で、
「……あ、やべ……。赤羽忘れてた……。また気絶してるよコイツ」
そう言ったのであった。




