②ラブソング〜雪夜の奇跡
テレビから伝わるニュースが、「今夜は雪になるでしょう」と告げている。
牙が、リモコンでチャンネルを変えようとしたとき。
「ね〜、牙。なんか食べるものない?」
上から美紅が降りてきた。
「また? ダイエットはどうしたんだよ」
「ん〜。骨でも、肉でも、なんでもいいから!」
「はぁ? ねーちゃん、犬でも飼ってるの?」
「たとえよ。た・と・え!」
美紅が、プリティイエティー立花に、目をやる。
赤羽家に居座り、家計を圧迫させる立花は、今日も、マシュマロを頬張っていた。しかも、カフェオレ片手に本を読みながらだ。
「立花ちゃん、読書中のとこ悪いけど、マシュマロ分けてくれない?」
「……はーい?」
「いや、だから、マシュマロ」
「あぁ」
本から目を移し、
「どうぞ」
立花は、袋を放った。
「あ。あら、よ!」
ダンス気味にキャッチし、美紅は訊いた。
「何、読んでるの?」
「魔術書ですわ」
「はぁ?」
首を傾げ、美紅は出て言った。
その日の夜。
牙が自分の部屋の窓から外を見ると、
「雪だ!」
雪が降っていた。
嬉しくて外に出ると、庭の木陰に誰か、いる。
「ねーちゃん?」
女の人っぽい影だった。
「……せ、聖魔さま?」
立花の声だった。
「なんだ、り……」
「っき、きちゃダメぇ!」
「え? なんで」
「わたくし、いま、その……
は、裸なんです!」
「裸? なんだ、いつも、裸じゃん」
気にせず、牙は歩を進めた。
真っ裸の女の子がそこにいた。
「な、な……!」
「やん、聖魔さま〜〜〜!」
胸を両腕で隠し、お約束に長い髪が大事なとこを隠していたが……。
「ぶわぁぁぁ‼︎」
鼻血を滝のように噴いて、牙が気絶した。
「……もうしわけありませんでした」
リビングで、美紅のギャル服を着た女の子が、謝る。
「その声、その喋り方……本当に立花さんみたいな??」
「立花本人ですわ」
人間の女の子だった。外見は、15〜16歳くらいか。
「い、一体どうして、」
ティッシュを大量に鼻に詰めた牙が言う。
吸血モードになりそうなのを、必死に抑えている。
「わたくし、もともとは、ウェアウルフやグリフォンと同じく、ポップ様のお供でした。
しかし、銀次の呪いであんな姿にされていました。
でも、めげずに12年、独学で、人間に戻る方法を探していたのです」
「へぇ、それはすごいわね!」
美紅が目を輝かす。
「どっかのワがつく誰かにも、見習ってほしいわ」
「だーかーらー、なんで、ねーちゃんはそう……う”」
牙が口を抑える。
その手の隙間から、白い牙が見え━━そなところで、牙はダッシュして、家を出て行った。
「あ、聖魔様⁈」
少年が目を開くと……
そこに、濁った血のような瞳。
口端から、鋭い牙が覗く。
「ハーハーハー! ついにオレの登場だぜぃ! 今日のハニーは、どこかなどこかな……って、なんだこの貧血感……」
息切れしながら、獲物を探す。
「あ、赤羽くん?」
目の前から、双葉と喜美枝が仲良くやってくる。
「牙くん?」
「小娘たちに構ってる暇なし!」
牙は、二人の横を駆け抜ける。
「ま、待て! 赤羽‼︎」
踵を返そうとする双葉。
それを、喜美枝が腕を取って制する。
「ちょと、双葉! ミクに逢わせるって約束は?」
「うん。こんな雪の日じゃなくても……ね、帰ろう」
と、二人の横を誰かが通り抜けて行った。
「あれ?」
双葉が首を傾げる。
流行りのギャル服を着た、年下? の女の子だった。
「聖魔様?」
男の首に齧りついた牙を見て、立花の足が止まった。
牙がフリーズした。
見る見る、顔が青ざめる。
見開かれた瞳が瞬き、黒い、いつもの目に戻る。
「み、見ないで……!」
牙はいきなり、逃げ出した。
トラウマが蘇る。
小学生の時の両思いだった、あの子。
噛みついてしまった、親友。
黒板に書かれた、忘れたい文字。
「あ……」
牙は転んだ。
瞳から、涙が溢れる。
「聖魔様……」
立花の声が近づいてくる。
牙は両手で耳を塞ぎ、目を硬く閉じた。
「どうなさいましたの?」
立花が、倒れたままの牙の前にしゃがむ。
「? だって……気持ち悪くないの? 怖くないの?」
恐る恐る座り直した牙に、
「まさか! ポップ様ので慣れてますわ!」
満面の笑みを浮かべる、立花。
無垢な笑みだった。
その笑顔に、牙は、みとれた。
二人に、優しく、雪が降っていた。




