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シークレット・ブラッド  作者: うさぎさん⭐︎
【第1部】シークレット・ラビリンス(はじまりの物語)/ 第1章 デイタイム・ラビリンス

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4/5

3 貧血少年・清涼少年①



「はぁ」

 今日も青白い顔をした牙。 

 恨めしそうに真っ青な空を仰いで、さりげなーく太陽とは目を合わせないようにし、愛チャリに乗って、坂道を行く。

 コウモリのプリントTシャツに、ベージュのハーフパンツ姿だ。グリーンのキャップはおしゃれではなく、単に日除けだ。

 土曜日。今日はバイトの日である。

「はぁ……。結局、双葉さんと映画には行けなかったし、昼休みデートも無理だったし、一緒に帰るなんて夢のような話は、双葉さんが風をも追い越すような勢いで帰っちゃうから、夢のまた夢だし」

 自宅から約3分。事務所に到着。みんなには内緒にしてるけど(家族にはバレちゃったけど)、牙はご近所の総合病院でクリーンスタッフを━━要するに、掃除をしているのだ。

 学校あるし、体も朝も弱いから土曜だけだけどね。

 ━━病院のすぐそばのアパートの3階の一室が事務所になってて(狭いけど)、牙は息を乱して、手すりにすがって、階段を上った。

 なんも入ってない愛用の青鞄と一緒に。

「はぁはぁ……エレベーターがあればいいのに……」

 時間かけて事務所の玄関に辿り着いた牙は、開かれた黒い玄関ドアやら、その下側に並んだたくさんの靴なんかを見、気を引き締めた。

「おはようございます!」

 玄関と台所が仲良くくっついていて、流しの横の、台の前のラックに入ったタイムカードが縦に並んでいる。

 そこから『赤羽 牙』と弱々しい文字(牙直筆)で書かれたカードを取り出し、台の上の機械にそれを入れる。

 ……牙はこれが苦手だ。カードを機械に少し入れたら手を離せばいいのに、ついつい力を入れてカードを機械の口の中に突っ込んじゃうのである。

 おかげでカードの文字は位置がずれたり、重なったりで、あとで手書きでそれをどうにかわかるように直したりで、あんま、タイムカードの意味がない。

「……よし、今日はわりとうまくいったぞ」

 なんとか慣れてきてうまい具合に時間やらが打ち込まれたので、牙は右手で微妙なガッツポーズをした。嬉しそうだが、目が真剣だ。

 で、台所とみんながいる部屋を繋ぐ、開かれたガラス戸の(狭い)隙間から身を乗り出し、

「おはようございまぁす!」

 もう一度言った。

「おはよう」

「おはよう」

 戸のそばに座ってた人たちが挨拶を返してくれる。

 バイト仲間は主におばさん。あと、おじさんやらおじいさんやら、若い女の人。

 あとは牙みたいな少年青年連中ってとこだ。

 牙は、人々と壁とテーブルの(狭い)間を進んで、部屋の奥のロッカーへ向かった。

「おはよう」

「よお」

「はよ」

 ロッカーの前で話してた牙と似たような年頃の男2人と挨拶する。

 ロッカーから、グリーン系の作業服を取り出して、牙はガラス戸の向こうの台所のところで素早く着替えて、ロッカー前に戻ってくる。

 愛鞄と私服はマイロッカーへ。

 野郎どもと少し話していると、すぐ時間になって、病院へ向かう。

 牙は9時から12時半まで働いている。

 体弱いので、それでも結構つらいのだ。

 病院掃除の朝は早い。よく知らんが、だいたい他の人達は6時くらいに来て働いているらしい。 朝礼とかもあるらしいが、参加したことはない。

  一応ここは会社ではなく、組合なので上下関係はない。

 一応代表みたいな人はいるが、なんでだか、あんま顔を見せない。今日もいなかった。

 で、必要な物を用意したり、カートを運んだりして、牙たち若い男たちやおじさんやらが受け持ってる4階へ行く。

 ここまでやるのになんだかんだで10分くらいかかる(カート、エレベーターで運んだりするのに時間かかるんだな)。

 で、まぁ、牙は時間が終わるまで病室やらトイレやら廊下やらを掃除するわけだ。 

 掃除を甘く見てはいけない。時間は無情だ。

 あれやこれや割り当てられた物を汗だくになってやっているうちに「うそだろ⁈」ってくらい早く時は過ぎていく。

「まだあれもこれも終わってないのに~」とか泣き言いっているうちに、タイムアウト。

 まぁ、そんな感じだ。

 で、まぁ、今日の牙もそんな感じだった……といっておこう。

 ちょっくら失敗やらかして泣いた……なんてことは秘密だ。


「はぁ〜疲れたぁ」

 事務所に戻りつつ、牙はまた泣き言を吐いた。もう倒れそうだ。

 なぜか患者さんにもらってしまったお菓子で、ポケットが膨らんでいる。

 いらないと言ってもくれるので仕方ないのだ。

 あと、事務所でもお菓子をくれる。

 ダイエット中の女の子とかだったらどうすんだろ……。とか、最近ダイエット始めた大学生の遊び人な姉・美紅みくのことをちょっと考えた。

 ━━でもすぐやめた。家族とは言ってもしょせん他人事だからだ。

「おつかれ」

 肩を叩かれて、よろけつつも振り返ると、そこにはクールビューティーと牙が密かにあだなしているバイト仲間の、海山若木うみやま わかぎがいた。


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