2 貧血少年・冷血少女②
海山双葉。
別名、クール双葉、冷血双葉、なんか怖そうな女、ぜってぇ泣かねぇ海山。などなど……。
気のいい(涙もろい)生徒の多いここ、太陽学園において、少々異質な存在である。
一応友だちづきあいはしてるし、一応笑いもするが、学校が終わると掃除当番もサボる勢いで、丘を転げ落ちそうなほどのスピードで下校していく。
放課後や休日、彼女との約束を取り付けたヤツは男女問わずいない……らしい。
彼女の伝説は、他にもいろいろあって、特に有名なのが、去年の学園祭の演劇大会においてグランプリを取った感動の名作(観たヤツみんな大泣きした!)『ウサ公物語』を観ても、一滴も涙を流さなかった。
どころか、「フフン」とかいって鼻で笑っていたという話だ。
血も涙もないヤツとか言われてもいる。
彼女がこの高校に入る前の経歴を知っているヤツは誰もいない。
そのクール双葉に果敢に挑む少年がいた。
そう。赤羽牙である!
「ふっ、双葉さん、おはよう!!」
自分をかわいい呼ばわりする女子たちを振り切って、双葉の席の前まで来た牙は、開口一番そう言った。
対する双葉は、
「……おはよう」
血も凍えるような声(クラスのメガネの似合う秀才男子・小林談/それを聞いた牙は、「そんなことないっ! 血も燃え立つような、綺麗な声だ」と思いっきり否定した)。
「あ、あの、ふ、双葉さん。今日の放課後お暇でしょうか?」
『海山双葉、放課後とか休日は誰とも会わん伝説』をぶち壊そうと、牙は意気込む。
「悪いけど、暇じゃないの」
「……そうですか」
あくまでクールに断る双葉。
しかし、フラれてもフラれても牙は、(ああ、双葉さんかっこいー。一生ついていくぜぇ)と、全然こりないのである。
「あ、あの、それじゃ、双葉さん、日曜日お暇ですか?
今ヒットしてる洋画の『世界一の吸血鬼』ってヤツ、観に行きません?」
「……悪いけど、あたし、毎日忙しいの」
「すみません」
海山双葉の放課後エーンド休日。謎である。
なぜにそんなに忙しいのか……?
「じゃ、双葉さん‼︎ 昼休み、抜け出して、丘の下のコンビニまで買い物に行きません?」
「……赤羽くんと一緒に行ったら、帰ってくる頃には放課後になってるわ」
「ごめんなさい」
冷血少女とまるでその犬のような貧血少年。実はこいつら、太陽学園の名物なのである。
体育。本日の女子のメニューは、バスケである。
順番待ちの双葉は、太陽学園指定の青いジャージ姿で、体育館の壁に背を当てて体育座りし、膝の上でバスケットボールを弄んでいる。
試合やってる女子たちを眺める、その茶色のクールぅな瞳。色素の薄いボブ・ヘア。
彼女はいつも、地味だがセンスのある黒や茶のヘアピンで前髪を留めている。
そのため、その形のよいおでこや、ちょっと気の強そうな眉毛を堪能できた。
もっとも、あんまり見てると睨まれるので、そんなコトするヤツはあんまいない。……例の貧血犬少年くらいだ。
「牙くんってさ、絶対双葉のこと好きなんだよっ!」
双葉の隣で体育座り中の某女の子こと坂井喜美枝が、力一杯そう言った。
ポニーテールのなかなかチャーミングなお嬢さんである。
「ふーん」
「だってさぁ、毎日毎日、双葉にモーションかけてるじゃん。
なのに、双葉ったら冷たいよぉ。牙くんかわいそーじゃない?」
「別に」
「もう。ほんと、つれないんだから。双葉って男の子に興味ないの?」
「別に」
「牙くんのどこが不満なのぉ?
知ってる? 牙くんってかわいーから、実はすっごぉぉい人気あるんだよ?」
「ふーん」
「もおぉ。双葉は、去年牙くんとクラス違ったから、知らないかもしれないけどね、牙くんってね、去年とかの━━特に夏はさ、体弱いからさぁ、よく休んでたし、学校来てもすぐ保健室って感じでさぁ、あんまり授業出てなかったんだよ。
なのに、今年はさ、遅刻しても毎日通学してさ、すっごいがんばってんじゃん。
それってさ、きっと――双葉いるからだよ」
「あっそ」
「あんないい子、他にいないよ⁈ 牙くんって、小学生の時、なんかアレだったらしいけど――いや、知らないんならいいんだけど――、でも今は完璧双葉一筋だよ⁈」
「だったら、喜美枝が付き合えば?」
「あー、もうっ、人が真剣に話してんのに‼︎
双葉あんたその性格直したほうがいいよっ⁈」
「別に」
噛みつく喜美枝に、どうでもよさげな双葉。
この2人、結構いいコンビなのかもしれない……。




