大団円
「え? 銀次、かーちゃん?
……どういう関係?」
牙が言う。
「別に。大学の同期よ」
「大学? ほんとに??」
「上に行ってなさい、牙」
「う、うん……」
かなり疑ってる目だ。
「美桜、どゆこと?
まさかおまえ、ポップコーンと結婚してたのくわぁ!」
大ショック顔の銀次。
美桜が一転、冷たく睨んだ。
「いまさら、なにかしら?
私はもう、家庭があるの、あなたなんかに構ってられないの!」
肩の髪を払って、背を向け、料理作りを再開する。
肉じゃがのいい香り。野菜を手ぎわよく切る音。
「そんな〜! な、美桜! ビューティフル美桜!
美桜だって我のこと……」
振り返った美桜の目が、鋭く光った。
その手に、スペア包丁。
「ひ、ひえ〜〜〜〜っ!」
銀次は、情けない声を出した。
「参ったよ、銀次がストーカーで、しかも、かーちゃんと知り合いっぽくて……なんなんだよ」
牙が部屋に戻ると、おしゃれ双葉が壁に耳を当てていた。
「なにやって……」
ピーンと来た。
そっちは、美紅の部屋の方だ。
「おまえもなぁ!」
恋すると、<男>は変わる。
「だって、なぜか美紅さんの部屋に通してくれないから……」
ルーズソックスに、黒いミニスカート。オフホワイトのジャケット。どこまでも乙女な双葉。
違うのは、親父くさいグローブを、左手にはめてることくらいだ。
双葉はそこに、グールを封印しているのだ。
牙が呆れる横で、聞こえてくる声を、双葉が懸命に聞いている。
美紅はピッチで誰かと盛り上がっている。
「お、男じゃないよな? 男じゃ!」
「おまえなぁ」
「頼む! 赤羽、美紅さんの交友関係を教えてくれ!」
「知らん」
「大学って、出会いがたくさんあるってドラマで観た。心配だ」
しばらく壁に耳を当てていたが、双葉は不意に、牙に向き合う。
「あーあ……愛に生きると決めたけど、美紅さんには会えないし、もう若木の姿で、バイトもなんもできねーな」
「若木……」
牙はため息をついた。
「これで、ほんとによかったのか?」
そこに響く、高い無機質な電子音。
青いプラスチックの中で、淡い緑色のバックライトが点滅する。
双葉は腰につけていたスケルトンブルーのボケベルを見た。
中の基盤や乾電池が透けて見える、おしゃれなタイプだった。
「美紅さん⁈」
双葉にはすぐわかった。
受信した画面に映るのは、美紅の11桁のピッチの番号だった。
もちろん、暗記している。
双葉は、弾かれたように、美紅の部屋の方を見た。
そしてすぐ、公衆電話に走った。
『999(ありがとう)』
液晶の緑色の光の中で眩しく輝くメッセージに、双葉は最高の笑みを浮かべた。
「美紅さん、俺、美紅さんに一生着いていきます!」
受話器を置いたその背中を見つめ、牙はそっと呟いた。
「若木、かっこよすぎだろ」
⭐︎おしまい?⭐︎




