9 生還、そして再会
「牙、美紅、なぞのイエティーさん。そして、なぜか、双葉ちゃん?
おかえりなさい!」
辺りは真っ暗。なのに、美桜はいつもどおりのスマイルだ。
双葉は、牙のジャンバーを着ている。グールのボロボロ血まみれな服の代わりに、牙が手渡したのだった。特筆すべきは、手袋を左手にしている。
「聞いてよ! 特売! 牛肉が!」
一番最後に現れたポップを見た瞬間、美桜が変わった。
「テメェ、どのツラ下げて戻ってきた、ポップコーン‼︎」
怒髪天をついて怒り出す、美桜。
「とっとと、消えな!」
《か、かーさ、ツンデレなんだから……》
「てめー、12年間女手一つで家庭守るのがどんだけ大変だったか!」
《いや、だから、とーさん、銀次を》
「問答無用! 入りなさい、みんな」
《ま、まて、かーさん!》
美桜がポップを睨む。その目が危なく光った。
牙たちの手を取り、家に向かいながら、
(さよなら、ポップくん……)
胸中に、呟いた。
━━そのとき、
「ソフトドリンク男いるか?」
狼男が現れた。
「地下迷宮を修復してたら、これを見つけて、届けに来たぞ」
狼男が咥えているのは、
「あ! それ、俺のポケベル!」
スケルトンブルーのポケベルだった。
「え? 若木、ポケベルなくしてたの? どおりで……」
「ちょいまて、ソフトドリンク男は? ……って、ポップコーン⁉︎」
ポップを見つけた狼男の尻尾が嬉しそうに左右に揺れる。
「久しぶり! ポップ!」
《ウェア》
「よかった、最近見ないから心配してたぞ」
《いや、俺は12年前に……。それより、ウェア、あのスクロールは、相手を選ぶと何度も言ったはずだ》
「? もう、もう忘れたぞ」
《あちゃー》
***
「はぁ」
海山双葉が、教室でため息をついた。
「どうしたの? 双葉。冬でもないに、変な手袋なんかして」
坂井喜美枝が近寄ってくる。
「この手袋の下には、愛が詰まってるの」
喜美枝が、双葉の顔の前で手を振る。
「はぁ? ちょっと大丈夫、双葉?」
「喜美枝、私は女神に全てを捧げた身。
この手袋を外す時、私は、クールに、グールに、愛の1/2チェンジを、涙々にするの。
だって、この手袋を外すととき、地球もぶっ飛くらい、痛いの!
なんかパパさんにもらったの」
「…………ええぇぇぇ⁈」
「? どうしたの、喜美枝、顔も首も真っ赤よ?」
「全てをミクに捧げたなんて、そんなアダルティワードを!」
貴美枝は辺りを見回す。
「ちょ、双葉!
こんなところで、そんなカミングアウトきついよ!」
「?????」
「……ところで、映画はできたの?」
「映画って?」
「牙くんのお母さんから電話来て、牙くんと双葉で自主制作映画を作ってるからって、あんたんとこの親への口裏合わせ、頼まれて。あたしも行ってることにしてとか……学校休んでまで、どういうこと?」
「あー……」
「しかも、あんたのこと<若木>って呼んでた。苗名聞いてあんたのことって、ピーンと来たけど」
「ごめん、喜美枝。赤羽くんのお母さん、ボケてて、何度名乗っても、わかってくれなくて」
「あー。わかる。牙くんのお母さん、ちょっとアレだもんねー。
なーーんだ、てっきり、牙くんと2人っきりで泊まり込みなんて、ミクと牙くんを二股かけてるのかと、思っちゃたよ!
……なんで、<若木>なのか、謎だけど」
「ほんと、謎よね」
双葉の後頭部に大粒の汗が、こっそり、伝った。
「双葉のとこのお父さん、映画楽しみにしてるらしいよ?」
「き、聞いてない……(どうしよう)」
「で、どんな映画なんよ?」
「そ、それは……」
「てか、男子と2人っきりで外泊って、どういうことかなー?」
「喜美枝……なんか、怖い」
「お邪魔しまーす」
赤羽宅前。
緑色の手袋をはめた美少女が立っていた。
今日は、なぜかとてもおしゃれな格好をしている。
「あら、また来たわね! ははーん、牙も隅には置けないわね!」
「いえ、今日は美紅さんに会いに……」
「ナンデスト‼︎」
美桜は卵の殻よりかたく固まった。
「ちょ、牙! 美紅! どういうこと⁉︎」
美紅の部屋。
「お父さん……」
12前年前の家族写真と、ポップコーンの箱を見つめる、美紅。
「ありがとう、一生忘れないよ……」
《まだ、生きとる(?)わ‼︎》
突然壁抜けして現れる、ポップ。
「お、お父ーさん!
生きてたの? 銀次は?」
《勝手に殺すな! どのシーンに、俺の死ぬとこ、あったかな?》
「お母さんが、お父さんは、死んだって……」
《か、母さん……》
泣きそうな、親父。
《頼む、美紅。俺を匿ってくれ》
「えぇぇっ⁈!」
そこへ、また玄関のチャイム。
「牙ー、今肉じゃが作ってるから、出て!」
美桜がキッチンから、牙を呼ぶ。
「お。おう。若木、ちょっと行ってくる!」
「あぁ」
階下からの声に、牙が部屋を飛び出す。
「肉じゃが苦手なんだよな。……どちら様……」
「ボンジュール! スウィートハート美紅!」
差し出される、千本の赤い薔薇!
「ぎ、銀次⁈」
「おまえじゃね〜‼︎
……上がるぞ、小僧! 我の美紅はどこだ?」
「ちょ、銀……」
「あら? 牙、どちらさ……」
美桜の手から、オタマが飛び落ちる。
「うわ。かーちゃん!」
それをキャッチする、牙。
「あ、あちち!」
「……み、美桜?」
「久しぶり、銀次くん」
美桜が笑った。




