7 愛のメモリー
なぜだか、あんなに嫌いだった父親を呼んでいた。
唇が、唇を塞ぐ寸前━━。
「ん……」
目を覚ました牙は見た。
大きな背中。
(あぁ、《《親父だったんだ》》……)
《美紅! 牙!》
響き渡る声に、銀次は美紅から顔を離した。
「貴様、な、なぜ……」
《12年かけて、復活したのは、おまえだけじゃないぜ。
……時間がかかり、まだ、ほぼ霊体だが》
目を覚ました若木も見ている。
まだ、体が動かないが。
《美紅、牙。
やっと会えたな。
……愛してるぞ》
「お父さん……」
美紅の中に、父親との温かい記憶が蘇る。
抱っこしてくれた、父。
母に叱られて泣く自分に、優ししてくれた、父。
いなくなって、本当は寂しかったことも……。
「お、お父さん……」
《美紅》
美紅が、父親の腕の中で、泣きじゃくる。
それを見た牙、若木も涙し━━、
牙は。見た。
「……双葉さん?」
<グール>が美少女になるのを……。
《さーて、ベイベー》
シークレット・ブラッド━━ポップが、銀次へ振り返る。
《俺の大事な子供たちになにした?》
銀次が真っ青になる。
《なにした??》
ポップの拳が、銀次の顔面にクリティカル・ヒットする。
「霊体なのに〜〜〜⁈
こ、これで勝ったと、お、おもうなよぉぉ!!」
鼻血が宙を舞った。
***
聖地の帰り道。
牙が訊いた。
「とーちゃん、若木を元に戻す方法って、ないの?」
《うーん、愛する者の血を吸うんだったか、吸わせるんだったか……》
「どっち?」
その時。
「待て。逃しません!」
馬だった。真っ白い馬が、競馬ファン泣かせに走ってくる。
「主役の銀様をボコった報復、受けてください」
『主役⁈!』
全員の顔色が変わる。
《主役はパパだよーん》
「ばかいえ! 俺だ」
「僕」
「わたくし」
「銀河一閃!」
馬が体当たりしてくる! 速い。
「きゃああ‼︎」
美紅が早々に、目を回して倒れる。
「馬のくせに〜〜〜、きゅぅぅ」
「ああ⁈ 美紅さん‼︎」
《美紅!》
「ねーちゃん!」
わなわなと双葉が振り向く。
「よくも、俺の美紅さんを……!」
《待て、美紅を譲った覚えはない!》
「あぁ、今泣けそだったのに! ……お父さん!」
《誰が、お父さんだよーん!》
馬が嘶く。
「再び! 銀河一閃!」
「銀河って、ただ体当たりじゃん!
あぁれ〜〜〜‼︎」
「赤羽?!」
今度は牙がダウン。
「くそ、弱キャラばっか狙いやがって!
こうなったら、お父さん。イエティー、トライアングルアタックを!」
《つーん》
「つーんって、お父さん?」
《君のお父さんじゃ、ないもーん》
「きゃ、ポップ様ったら、や・き・も・ち♡」
馬がこちらを窺っている。
「申し遅れました。我が名は……」
「こなくそっ‼︎」
双葉はなぜか、背負っていたリュックサックから、くまのぬいぐるみを取り出した。
古びた、利発そうかつかわいらしいぬいぐるみだ。
「頼む、みんな、ちょと見ないで……」
双葉の瞳が潤み、涙と共に、瞬きひとつ許さないスピードで、グールチェンジする。
「ググググググググ!」
「えー、ここからは、コホン。わたくし、プリティーイエテー雪音立花が翻訳いたします! 出番も確保!
さきほどのグググは、
『そこいらの下級グールと一緒にされちゃ、困るぜ!』 ですわ♡」
《パパ、知らないよーん》
「ググググ、ググググ」
「『美紅さん。美紅さん』」
気づくと、美紅は、グールに抱き起こされている。
「ググググググ。グググググウググ」
「『よかった、気づいて。不埒な馬はやっつけました』」
《……チッ、馴れ馴れしい》
「?」
「ねーちゃん、頼む。
若木を元に戻すために、血を……かくかくしかじか」
「えぇ⁈ 血を吸うか、吸わせるか??」
目の前には、死体のようなグール。
「ぇぇと……」
「まさか、やなの?」
「えーと……ごめんなさい」
「そんな! 若木はねーちゃんのために!!!」
牙がいつもとは別人のように喰ってかかろうとする。
「グググググ」
「『いいんだ、赤羽』」
「……」
美紅はため息をついた。
「わかったわよ。━━お吸いなさい」
右手を差し出す。
「ググググ、ググググググ」
「『美紅さん、愛してます』」




