3 今日は、デートか、買い物か⁈ 〜夕焼けの告白
「ごめんね、若木くん」
厚底ブーツにメガネの地味美紅と、清涼少年・若木が歩いている。
若木はその腕にいくつものカラフルな箱を抱え、ブランドロゴのついた買い袋もこれでもかってほど、ぶらさげている。
「牙に断られちゃって……まぁ、あの子じゃその袋ひとつがやっとかも」
「い、いえ、おねえさん。ぼ、僕は……」
言い淀む暇もあればこそ、美紅が一人でセレクトショップに入っていく。
「あ、おね━━美紅さん‼︎」
かっこよく決めようとしていた若木はがっかり。
(どうしたら、いいんだ? どうしたら、男として見てもらえるんだ?)
たまたま、牙の代役をゲットしたが。これじゃまるで━━ただの、荷物持ちである。
「ありがと、若木くん」
ミラクルな跳躍で、箱が5、6個上に足された。
羽でも隠し持っているかのような、軽やかさだ。
「……あ⭐︎」
美紅が何かを発見し、メガネからはみ出しそうなくらい、瞳を大きく輝かす。
立ち止まり、振り返った、その純な瞳が自分を見ている。
若木は、心臓が大爆発しそうになった。
……あやうく、死ぬとこだ。
「若木くんって、何型?」
美紅が指差す先。
献血カーが停まってる。
『881』
牙のポケベルに、喜美枝からメッセージが届いた。
バイトで貯めた貯金でGETしたポケベルは、マットブラックの宝物だ。
めんどくさい姉の誘いを回避し、自室でソーダアイス食ってた牙は、
「坂井さん?」
不思議そうに瞬いた。
「ヤバイ?? なにが??」
まだ不慣れなため、打ち込むのに時間がかるうえに、牙のうちは黒電話。
<#>も<*>もありゃしね〜。
公衆電話に走って、慣れない操作するか、黒電話で電話するか……。
(でも……、家の電話だと)
パート休みの母親に聞こえる。からかわれるに決定!
(どうしようかな)
公衆電話ミッションがきつい、貧血少年……。
じゃあ、なんで買ったの⁈ というツッコミは置いといて。
牙はさりげな〜〜く、リビングをチェックした。
「やりぃ!」
夕飯の買い物にでもいったのか、母親は不在だった。
「もしもし? 坂井さん??」
家の電話ルートにした。
ベルなんて牙にはもったいなかった。
黒電話の受話器を持ち上げ、ダイヤルを回した。
「牙くん⁈」
小学生のときから見知っている彼女は、いまではなぜだろう、双葉の親友だ。
「やばいよ! 双葉が……」
「え?」
「牙くんに、恋のライバル見参! けんさん、みとこーもんだよ!」
アホ毛ポニーに、心の中でデコピンする。
「落ち着いて、坂井さん! いったい……」
「双葉に好きな人ができちゃったみたいなの‼︎」
「え……」
「もーう、モタモタしてるから!」
「で、でも、僕、もう……」
「それが、聞き出せたのは、」
「う、うん」
「ミクって名前だけ」
「…………は?」
牙は固まった。
「あ〜、なんかくらっくらする」
献血終了後。
若木は、うず高く積まれた箱などを運びつつつ、右にふらふら、左にふらふら。
まるでどこかの貧血少年みたいな顔をしていた。
対する美紅は、頬は薔薇色。瞳はうるうる。唇も髪もつやつや。いつもより、艶やかである。
若木は、胸が高鳴るのを感じた。だが、美紅はお構いなしにシッピングを続ける。
(な。情けない。なんとか、いいとこみせなきゃ……)
ふと、美紅の足が止まる。
(?)
美紅は、親子連れを見ていた。その横顔がさっきまでと別人のようだ。
風船を持つ子供と両親が、歩いていく。
楽しそうに笑う父親の背中を、美紅は、ひどく悲しそうな目で見つめていた。彼女の口元が、一瞬だけ、迷子のように震えた。
(そういえば……)
寂しそうな顔に胸が痛む。
(赤羽の家って、母子家庭だもんな……。
俺も、昔は……)
「美紅さん……」
何か声をかけたかった。だが、体がもうフラフラだった 。
若木の目が泳いだ。
ぐるぐるしながら、お魚みたいに泳いだ。
「は‼︎ あれは」
先行く美紅に声をかける。
若木の視線の先に━━映画館があった。
「美紅さん、映画、観ません? 俺、映画なら、誰にも負けない自信があります!」
なにその無駄な自信……って、誰か、ツッコミ入れてくれ。
……そんなやつは、もちろんいない。
「は? ━━え、い、が⁈」
宇宙人でも見るような目で、美紅は若木を見た。
「?? 知ってます? ここの、<キャラメルぷぷりんヨーグルトポップコーン>が、このモールで群を抜いておいしいらしくて!」
「……」
美紅の目が、危なく光った。
「私。ポップコーンって、大嫌いなの!」
「え⁈ ……え、えぇぇ⁈」
美紅はなぜか、ちょー機嫌悪い。
(? 何か理由があるのか……??)
若木はなんだか、段々泣きたくなってきた。
情けないし、かっこ悪いし。美紅は不機嫌だし、荷物重すぎるのに、まだ買い物されちゃうし。
献血で具合悪いし。
気づくと、あたりは朱色に染まってきた。
子供の帰る時間だ。
(でもでも、こんないみふな現状を打破せねば!)
若葉の脳裏によみがえる〜♪ ヴァンパイア・アイズの主題歌!
(CD買った)
♪砂のお城に甦る、黄泉蛙!
甦る、黄泉蛙、よ〜みがえり!
ヴァンパイア!
ゔあんぱいいあ〜〜〜♪
(そうだ、やっくんのように、強くなるんだ!)
「み、美紅さん!」
若木は、走ると、真っ向から、美紅に言った。
「俺、美紅さんが好きです!」




