③どきどきビデオ鑑賞会
「いらっしゃいませ〜」
男性定員の接客ヴォイス。
美少女と、かわいい系の男子が、狭い入口から、店内に入ってくる。
レンタルビデオ屋『WING』。
双葉行きつけの店だった。
なぜ、双葉の姿かというと、いつも学校帰りに直にこの店来ているから。
「へぇ〜。こんなとこ、はじめて来た、あれ、なんだろ、この、のれん」
「バカ! そっちは……」
肌色とピンクのコーナーだった。
牙は回れ右した。
「は、ははは……」
「またおまえは、そういうアレを……」
ところ狭しと並ぶ棚。
<若木>の夢が、いっぱい詰まってる、棚。
目をキラキラさせてビデオテープを選ぶ双葉を、牙は赤くなりつつ、盗み見る。
(か、かわいい……)
いつもの冷血双葉とは、また違った感じにかわいい。
(だ、だめだ、こんなこと考えちゃ……)
「赤羽、決まったよ! 赤羽は何にする?」
ビデオ抱える双葉。太陽学園の制服がキマってる。白いブラウスに、青いベストとスカートだ。
「い、いや、僕はいいや」
ちなみに牙は、ワイシャツに、ブルーのスラックス。
レジカウンターに行くと、あからさまに定員の男性が牙を睨んできた。
「何この中学生? 双葉ちゃんのなに?」
「はは。金さん、ダチでーす!」
「……中学生?? きんさん???」
牙が不機嫌になる。目がすげく嫌がっている。
「双葉ちゃん、観たがってた、『ウィニングランデブー』入荷してるよ!」
「ほんと? 嬉しい‼︎」
今度は頬が、引きつりまくる。
(なんか、ムカつく)
「双葉さん!」
牙は双葉の手を取った。
「早く、行こう!」
「なんだよ、赤羽、痛てーなぁ」
双葉が手を解いて、振った。
「そんなにビデオ観たいなら、早く言えよ」
「ち、ちが……」
「?」
道を歩く2人。
ボブヘアがよく似合う双葉に、見惚れる。
薄い茶色の瞳は、クールな一重。
(僕たちって、はたからどう見えるんだろう)
「ただいま〜」
海山家。
白い、平均的な広さの、かわいい家だった。庭には自転車が3台、停まっている。
「お母さん、友達つれてきたよ」
「お友達?」
海山ママが嬉々としてやってくる。
「ま〜ぁ、可愛らしいお嬢さん」
「男です!」
牙が吠えた。
「お、おとこ?」
「制服、ズボンでしょ、お母さん」
「そ、そんな、こんな日が来るなんて……きょうは、お赤飯ね!」
「お母さん、なに言ってんの?」
双葉は呆れた。
とりあえず、階段攻略して、2階に上がる2人。
「こ、これが、双葉さんの部屋?」
白い壁に映画のでかいポスター。デスクには、最新のパソコン。
棚には、ビデオやCD、漫画本など。
気になるベッドは、かわいいピンク色。
「おまえ、何言ってんの」
双葉は急に制服を脱ぎ出した。
「ぎゃー!!! ふた、若木‼︎」
「なに? ふつう、着替えるだろ、帰宅したら」
「……」
牙は、後ろ向いて、手で顔を覆った。
ホラーだった。
いきなりホラー映画だった。
「あれ、これ……」
<世界一の吸血2>だった。
「もう続きが?」
謎だった。
双葉は、真剣に画面を観ている。
半袖に、ショートパンツ。ラフな格好から覗く、白い手足が眩しい。
思わず、また見惚れる。
ふと見ると、綺麗な指をした手が、絨毯の上に無造作に置かれている。
(手、繋ぎたいな)
息を呑んで、手を伸ばしかける。
それを必死で引っ込める。
(い、いかん! これは、若木。しかも、僕は振られん坊将軍……)
ため息が出る。
(双葉さん……。いいな、双葉さんに思われる人は)
一体どんな人?
(いや待て、双葉さんは若木。なら、若木に思われる人??)
映画に集中しすぎて、こっちにまるで気がつかない双葉。
(あぁ、このまま時間が止まらないかな……)
「お邪魔しました!」
「赤羽、送ってくよ」
「れぇ⁈ 双葉さん、夜道は危ないよ」
「んだと⁈」
部屋着にジャンバーひっかけて、双葉が追いかけてくる。
「俺は、男!」
「いや、どうも見ても、女の子でしょ。危ないよ」
「なんだと⁈」
帰り道。辺りの電灯は光ってるけど、やっぱり心配だ。
「も、もういいよ、帰りなよ」
「む〜。俺が弱いみたいに!」
「だってどうみても、女の子じゃないか!」
牙は、双葉のいる後ろの壁に、両手を勢いよくつけた。
「え……?」
壁に双葉を閉じ込める。
「無防備すぎ! 人の気も知らないで!」
「え、あの。赤羽?」
その時だった。
「わ〜〜ん!」
足元で、変な声がした。
犬だった。
とても、かわいい、ちわわ。
「か、かわい……飼い主さんはどこ?」
牙が呟く間もなく、
「うわぁぁぁぁ!!!」
双葉が勢いよく、抱きついてきた。
(え……)
「い。犬、犬犬犬⁉︎」
「だ、大丈夫、こんなかわいいワンちゃんは、噛みつかないよ」
「で、でも……」
双葉の柑橘類の香りがする。
牙は息を呑む。
女の子らしい柔らかい体が、自分に急接近している。
さらさらの、色素の薄い髪に手が届きそう。
もうなんつか、心臓が破裂しそうだ。
(やばい、なんか、しあわせ……)
「やっっぱり、だめぇぇぇ!!!」
気づくと、双葉は若木にチェンジしていた。
「え、泣いたの?」
「うるせぇ!」
若木のパンチが、牙の顔面に決まった。
「さっきから、バカにしやがって!」
若木が踵を返す。肩を怒らせて歩いていく。
「ま、待って……あれ? なんか、変だな……」
牙がおでこを押さえて、俯く。
顔を上げた瞬間、その瞳が、赤黒く光った。




