②続・海山双葉新伝説:下駄箱ラブレター事件‼︎
双葉がクールに登校し、下駄箱を開けると、下駄箱が破裂する勢いで、ハートのシールついた封筒が溢れ出し、辺りに散乱した。
「まぁた?」
ポニーテールを揺らし、学生鞄を持った坂井喜美枝が声を上げる。
「一体、誰が……」
双葉は手紙を無視し、上履きに履き替える。
「ちょ、読んであげないの?」
「興味ないから、男の子」
「あのねぇ……」
そこへ。
「おはようございます、双葉さん、坂井さん!」
奇跡的に朝の登園を果たした牙が、青い鞄をしょって、寄ってくる。
「赤羽くん!」
喜美枝の横を通り過ぎ、双葉は珍しく笑顔で牙に近いづいた。
「おはよう。って、大丈夫?」
牙は朝から真っ青だ。登校がきつかったのか。
「ありがと、双葉さん」
「ほんと、体弱いんだから。朝は食べたの?」
少しだけ離れたところで、喜美枝がそれを見ている。
もう、何ていうか、牙は双葉にデレデレだ。
双葉は……??
そう思って、喜美枝が近づいたとき。
「あれ?」
すっとんきょうな声を、牙は上げた。
「手紙?」
下駄箱の自分の上履きの上に、手紙が一通載っていた。
「なになに、牙くんに、ラブレター? 新手の勢力?」
牙が困った顔で、手紙を貴美枝に見せる。
そこには、血文字を真似した赤いデカデカとした文字で、
『果し状』
と書いてあった。
「果し状?」
「どゆこと?」
「早く、開けて!」
黄色い声に、牙はたじろぐ。
『果し状』
ボクの愛しい双葉ちゃんに、最近慣れ慣れしいんだよ!
放課後、B棟の屋上に来い!
PS.おまえの秘密を知ってるぞ〜⭐︎
***
放課後。
「お、屋上……」
屋上に上がるには、長すぎる階段と格闘が必要だ。
「はいはいはい」
双葉がめんどくさそうに言う。
「双葉さん、なぜ? 手紙は僕に」
「ほらよ。貴美枝が開封した。
あのおせっかい」
『双葉ちゃんへ』
好きです!
放課後、B棟の屋上で待ってます。
「えぇ〜⁈ 双葉さんも屋上⁈ 行くの?」
牙の目に、嫉妬の炎が一瞬浮かぶ。
「しかたねーだろ。よっと」
2段抜かしで、双葉は揚々と階段をクリアしていく。スカートが翻るのもお構いなしだ。牙しかいないからだろうか。
牙が手すりにすがって、登っていると、
「ほら」
双葉の手が、上から差し伸べられる。
「掴まれよ」
双葉の笑顔。
牙の心臓がひっくり返りそうになる。
「どうしてだよ……」
「なにが?」
階段ひっぱり上げられながら、牙が言った。
「まさか、手紙書いた人と付き合う気じゃ」
「まさか! 俺は男だぜ」
どこからどう見ても、女の子なんですけど。
という言葉を牙は飲み込む。
「しかたねぇじゃん。お前の秘密を知ってるって、言うんだから」
「僕の秘密? 僕の秘密って???」
「馬鹿野郎。決まってんだろ、おまえの秘密っていったら━━」
屋上。
強い風吹く、その場所に、そいつはいた。
「双葉ちゃん! ……赤羽牙」
凡庸な外見の男子生徒だった。黒い短髪も、顔も、なんていうか凡庸。
「来たね。待ってたよ!
赤羽牙。秘密をばらまかれたくなければ、双葉ちゃんから撤退しろ。
双葉ちゃん、さぁ、ボクとつきあおう! 苦労はさせないよ〜」
そいつが近づいてくる。
「想いだした! 若木、柔道部のエース、夕夜忍だよ」
「え? そのわりには、見た目、普通?」
庇うように、双葉の前に出た牙を押しのける。秒で牙が屋上に転がった。
「あかば……こいつ!」
「かわいいなぁ、双葉ちゃん」
双葉が、胸の前で腕を構える。ファイティングポーズだ。
「顔もマジかわいいし、クールな声もボク好みだし」
忍が、エロそうな目で、双葉を見た。
「胸も大きいし」
双葉が身を固くする。
「き、キモ……」
「ふたばちゃ〜〜ん、でへへへ」
「く、来るな、近寄るなっ! 変態‼︎」
次の瞬間、双葉が投げ飛ばされる。
「うげ」
目を開けると、
「ぐへへへへ、ふ〜た〜ば〜ちゃあん」
組み敷かれていた。
「なんで、こんな変態が強い……」
「ちゅう〜〜♡」
唇が近づいてくる。
「や、やめ!」
鳥肌が立つ。
「赤羽……たすけ」
上から水が降ってきた。
「な?」
見ると、バケツを持った喜美枝がいた。
「喜美枝、ナイス!」
「双葉、逃げるよ!」
「え? でも、赤羽くんが……」
「牙くんは強いから、平気よ!」
「強い??」
2人は逃走した。
「チッ」
忍が目を回したままの牙を蹴飛ばす。
「てめーのせいで、双葉ちゃんが逃げちゃっただろう!」
「え? なんのこと?」
「ともかく、秘密をバラされたくなければ、ボクの家来になれ!」
「秘密って?」
「おまえが、ホモだってこと」
「僕が、吸血鬼だってこと」
声が、不協和した。
風が4秒吹いた。
「ホモ?」
「吸血鬼??」
『どゆこと⁈』
今度はユニゾンする。
「あ〜〜、しまった!」
牙が髪を掻き乱す。
「なに、おま、吸血鬼って?」
「だぁれが、ホモだ‼︎」
「だってボク知ってるもん。小学校お前一緒だったろ」
「そだっけ?」
「《《黒板ホモ事件》》」
「━━言うなぁ!!!」
牙がすごむ。
「こなくそ! 僕の吸血鬼の血よ、こいつを倒せ!」
泣き目で牙が言った。
「ハーハーハー‼︎ 呼ばれて、飛び出たぜ!」
忍が驚いた瞳で牙を見た。
目が別人のように赤黒くなり、口端から白い牙が覗いている。
「あんまりオレ様の好みじゃねーなぁー……」
品定めをして、ため息をつく。
「ま、仕方ない。いただきます!」
牙が忍を捕まえ、首筋に平然とその白い牙を立てる。
━━忍はなぜか、恍惚とした表情を浮かべた。
翌日。
下校近い時間にやっと登校した牙は、下駄箱を開けた。
すると、
一通の手紙が、足もとに落ちた。
キラキラしたハート型のシールがついている。
『赤羽キバ様』
昨日から、貴方のことが頭から離れません。忘れられません。サイコーです!
一生、ついていきます!
〜あなたの忍〜
牙は、手紙を破いた。
「勘弁してください……」




