閑話 冤罪少女の末路
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どうして、どうして。頭の中をぐるぐる回るのはそんな疑問ばかりだ。
何を間違えたんだろう。本当なら、私は今頃、深夜先輩と付き合っていたはずなのに。
布団にくるまって考えるのは、あのとき見た、恐ろしいほど冷たい目をした深夜先輩の姿。それから紡がれた言葉は、どれも私を責め立てるもので。優しい深夜先輩が絶対言うはずないと思っていた、悪口雑言だった。
初めから、気に入らなかった。私の一歳年上の、北海道中から……いや、国中から期待されている人。
美しい容姿も、華々しい経歴も、全部、私には手に入らないもの。
私は小さい頃から、かわいいかわいいと褒められて育った。超人の子よりもかわいいんじゃないか、と言われることもあって、私は自然と自分が途轍もなくかわいいと理解した。
実際、男の子たちからはとてもモテたし、女の子たちからは僻まれたり羨まれたりした。
その度に優越感に浸って、着実に自信をつけていった。
選り取り見取りの男の子たち。でも、皆つまらない。この私にふさわしい人はいないの?そんな思いで、まだマシな男の子と付き合いつつも、私の心は晴れなかった。
そんなとき、現れた運命の人。
私でも目を見張るほどかっこいい男の人。優しくて、賢くて、それに強い。だって超人だもの。特別な人。
深夜先輩は、私にとって理想的な人だった。
早速アプローチをしてみたけど、深夜先輩は全く私に振り向いてくれなかった。それでもめげずに同じ部活に入って、ひたすら深夜先輩にアタックする日々。
さりげない上目遣いも、ボディタッチも、褒め言葉も。全部全部計算尽く。こうすれば、どんな男の子もイチコロだった。
それなのに。
それなのに、深夜先輩は、一切私になびく気配がなかった。
そんなとき、深夜先輩の同期の噂が聞こえてきた。最年少戦闘隊員、三浦史詩夏。ニュースに出ていた顔を見て、思わず呆気にとられた。
この世に、こんなに美しい人がいるの?
私は信じられなかった。今まで、私よりかわいい人なんていなかったのに。
悔しくて悔しくてたまらなかった。私をチヤホヤする男の子たちも、三浦の話をして盛り上がる。かわいすぎる、あんな人が隣の中学にいるんだって?そんな風に騒いで、私のことなんてどうでも良くなったみたい。
私は三浦に怒りがこみ上げてきた。深夜先輩の同期という、私が絶対に手に入れられないものを持っていて、私よりかわいくて、おまけに将来を嘱望されてるなんて。
許せない。私より優れているなんて認めない。腕をガリガリとかきながら、私は三浦の話をなるべく聞かないようにした。
でも、それでも、そのときはまだ許せた。だって、深夜先輩は、きっと三浦にも当たり障りのない態度だろうから。私に対してあんなに靡かないのだ。大丈夫だって、信じてた。
あるときから、先輩はとても勉強に勤しむようになった。ただでさえ頭がいい人なのに、努力をしたから、もう誰も追いつけないだろうと皆言っていた。
私は不思議だったけど、同時に素敵だと思った。勉強まで滅茶苦茶出来るなんて、ますます私の彼にふさわしい。
私は無理を言って先輩たちに頼んで、深夜先輩と一緒にカラオケに行く予定を作った。
深夜先輩は相変わらずかっこよかった。それに実は絵もうまくて、私は深夜先輩の絵が大好きだった。
深夜先輩、深夜先輩。大好き、大好き。早く私のことも好きになって。私のかわいさに、実はもう好きになってるけど、照れて言い出せないだけだったりしないかな?そんな甘い妄想をしてみたりもした。
でも、カラオケで、最低な出来事があった。
あろうことか、三浦史詩夏が現れたのだ。
扉を開けた先で誰かと話している様子の深夜先輩に嫌な予感がして、見てみたら、そこには一番会いたくない人がいた。
先輩たちはこぞって三浦を褒め立てる。深夜先輩との仲を邪推する人もいた。深夜先輩はそんな彼らに怒ったけど、内心満更でもなさそうなことは見え見えだった。
でも、そんな深夜先輩に、三浦は絶対付き合っているなどあり得ないと言った。
最悪、最悪。絶対嘘なくせに。内心ほくそ笑んでるんでしょ?こうやって会ったのも、きっとわざとだ。わざと私たちに見せつけようとしたんだ。深夜先輩は私のものだって。
なんて最低な人。死ねば良いのに。なにより、そんな最低な三浦に、深夜先輩が心底惚れているようだったのが許せなかった。
誰の目から見ても明らかなくらい、深夜先輩は三浦のことが好きだった。視線が熱いし、態度も柔らかいし、特別に思ってるのなんてすぐ分かる。
なのに、三浦はそれに気づいていないふりをする。この悪女。そうやって、男をたぶらかして楽しんでるんだ。最低、最っ低!
私はその瞬間から、三浦を絶対にこてんぱんに打ちのめすことを決めた。
皆にあの女の本性をばらしてやる。三浦が二度と表を歩けないようにしてやる。
私は初め、男の子たちを使おうと思った。だけど、男の子たちは相手が三浦だと知ると、全員無理だと逃げていった。
三浦が強いから、綺麗だから、北海道の希望だから、前に助けてもらったから。そうやって、誰も私に手を貸してくれない。
焦れた私は、仕方なく明菜に協力を頼むことにした。
明菜は私のお兄ちゃんのことが好きだった。お兄ちゃんと部活の大会で初めて会って、恋をしたらしい。それから、私にも近づくようになった。
私は正直お兄ちゃんを取られたくなかったし、明菜がいると男の子たちが明菜にデレデレするから好きじゃなかった。
お兄ちゃんは私のことをいつもかわいいと甘やかしてくれるし、かっこいい。そんなお兄ちゃんのことを好きになる女は多かったけど、皆、私がさりげなく蹴落としてきた。
明菜は性格も良くて、時々私の行動も窘める。それに対して、私は表面上はしおらしく受け入れて、内心はあの女、と虫唾が走るような気持ちでいた。
明菜は珍しく、私が蹴落とせなかった。だって、悪いことは結局できない人なのだ。周りからの評判だって良い。
明菜は私と友達だと思っていたらしい。私からすると意味が分からないけど、明菜は私に優しかった。
どうせお兄ちゃん狙いで好感度上げようとしてるだけだと思っていたけど、でも、明菜は本気で私を大切に思ってるみたいだった。
それが気に入らなくて、変な感じで。
明菜はとにかくお兄ちゃんのことが好きで好きで、そのためならなんだってしそうに見えた。だから、私は明菜に協力させることにした。
きっと普通にデマを流せと言っても聞かないだろうから、私がいじめられたことにしようと思った。
「明菜、話したいことがあるの……」
「どうしたの?」
私が涙目で話しかけると、明菜は心配そうに私を見る。それに、少しだけ胸が痛んだ気がしたけど、きっと気のせいだ。
私はあの女を壊したい一心で話した。
「三浦史詩夏って、いるでしょ?私、あの人にいじめられたの」
可哀想でしょ?明菜なら、協力してくれるよね?




