第78話
いつも通り神藤さんと任務をする。
危険度Bクラスを倒して倒して倒しまくる。
その帰り、神藤さんは徐に何かを取り出した。
「君にやる」
「なんですか、これ」
「卒業祝いだ」
「えっ」
あの、神藤さんが。私に、卒業祝い。
驚きのあまり若干放心してしまったが、恐る恐るプレゼントを見る。
綺麗に包装された外観。リボンからしても、多分お店の人にやってもらったのだろう。
そこまで大きくないが、中身は一体何だろうか。
「中、見ても良いですか?」
「……別に良いが」
私は緊張してプレゼントを開ける。
中から出てきたのは、綺麗なハンカチだった。おお、ちゃんと程よくもらって嬉しいものだ。
すごい、あの神藤さんが、ちゃんとちょうど良いものをプレゼントしている。そもそもプレゼントすること自体にも驚きだが、更にセンスもそれなりに良いものを選んでいることが驚愕である。
「おぉ……」
「……どうだ」
神藤さんはこちらを見ずにそう尋ねる。照れているのだろうか。
私は目を細めて尋ねる。
「これ、神藤さんが選んだんですか?」
「……宇佐美さんに聞いた」
神藤さんは素っ気なく返した。
「ああ、どうりで。センス良いなと思いました」
私はうんうんと頷く。この感じ、絶対同性じゃないと選べない。絶妙なセンスだ。
神藤さんは少し怒ったように言った。
「なんだと。私が選んだらセンスが悪いと言いたいのか」
「まあ、概ねセンスは期待できない気がしますね」
そりゃそうだろう、と当たり前のように言った。
神藤さんは眉をひそめる。
あぁ、そんなに眉をひそめたらしわになりそうなものだが。しかし神藤さんは若々しい姿で、些細なしわはむしろこの人をより魅力的に見せている。
美しい人、と聞かれて思い浮かぶのは森先輩、神藤さん、そして深夜くんだ。森先輩は中性的で普遍的な美、神藤さんは色気があって退廃的な美、深夜くんは甘く爽やかな若々しい美。三者三様の魅力がある。
とまあ、そんなことはよくて、私は純粋にプレゼントに喜んだ。
神藤さんが私にプレゼントをあげようと思うなんて考えもしなかった。だけど、こうしてくれたということは、私たちの仲はそれなりに深まっているという認識で良いだろう。
バディとして、順調そのもの。
私は神藤さんを見上げて、しっかりと頭を下げた。
「ありがとうございます。大切に使います」
「……好きにしろ」
神藤さんは素っ気なく返した。
この人は本当に素直じゃない。でも、表情をよく見ると、さりげなく喜んでいるようにも見える。最近私が気づけるようになったことだ。
「そういえば、神藤さんの誕生日っていつですか?」
私も何かお祝いを、と思ったところで、ふと気になって尋ねた。
「誕生日?さあ、いつだったか」
「自分の誕生日を忘れたんですか」
平然と答える神藤さんに、私は呆れる。まあ、確かにこの人なら誕生日など気にしなさそうだとは思うが。
神藤さんはどこか遠くを見つめ、悲しげな表情をしていた。
それを見て、私は何か、誕生日に嫌な思い出でもあるのかと不思議に思う。
「私の誕生日など、誰も祝ってくれなかったからな。だんだん私もどうでもよくなった」
「誰もって、両親にもですか?」
「ああ」
わぁ……。さりげなく垣間見える神藤さんの家庭環境の酷さに返す言葉がない。
神藤さんのこの人間離れは、人間らしく扱われなかったせいなのかもしれないと、最近思う。
神藤さんの両親は聞く限りほとんど育児放棄をしていて、神藤さんは超人ということで周りにも打ち解けられなかった。
そうして普通を学ぶことなく大人になった彼は、今でも歪だ。
「じゃあ、私が祝うので、これからは覚えてください」
私はこの人を幸せにしたいと思う。可哀想な人なのに、自分ではそれに気づいていない。いや、認められないのかもしれない。
だが、この人はきっと悲しいのを我慢しているだけなのだ。最近気づいた。
神藤さんは、つらいとき、それをどうにかして論理的な事象に結びつけて正当化するか、それができないのなら認めない。
私はそのやり方だと、本当の意味で幸せにはなれないと思う。だから、私だけでも優しくして、普通の幸せを知ってもらいたいのだ。
私の言葉に、神藤さんは私から目をそらした。そして、小さく頷く。
「……分かった。調べておく」
「ちゃんと教えてくださいよ。できれば今日中に!」
「善処する」
神藤さんはしおらしく言った。
私はそれに満足して微笑む。
「神藤さんが誕生日を伝えてくれたら、私の誕生日も伝えます。来年はお祝いしてください」
「いや、君の誕生日は知っている。知っていて、君に会った」
「え」
確かに思い返すと、神藤さんと出会ったのは私の誕生日だ。私が15歳になった日。
誕生日を知っている理由は、まあ、隊員ホームページに載っているので特に気にならない。あ、それでいえば、私も神藤さんのホームページを見れば良いのか。でも、せっかくなら本人の口から聞こう。
しかし、なぜ神藤さんはわざわざ誕生日に会いに来たのだろうか?
「15歳になれば、ある程度大人だと見なせる。もちろん18歳まで待つ方が健全だったが、それには時間がなかった」
「時間がなかったって……」
それは一体、と言う前に、神藤さんは言った。
「私は、死ぬんだ」




