第77話
今日は私の卒業式。
体育館に入場して最初に目に入ったのは奈江子さんの涙ぐむ顔で、流石に早すぎだろうと苦笑する。
それから順調に自分の席につき、先生の話を聞く。
式はあっという間に終わった。拍子抜けするほどだった。
教室に戻り、先生の話を聞く。
先生には色々とお世話になった。ほとんど学校に行けていなかった私に、あれこれうまく行くように取り計らってくれていた。
先生の言葉が終わると、泣いている人もいた。
最後に写真を撮ることになり、私たちは移動する。
「はい、チーズ!」
軽く笑みを浮かべてシャッター音を聞く。
周りを見ると皆笑顔で、このクラスは良いクラスだったんだな、と私は他人事のように思った。
これから、彼らはそれぞれの道を歩んでいくんだろう。私が行けない高校にも行って……。それが少し羨ましい。私の未来は、もう決まっているから。
解散になった後、皆は卒業アルバムに名前やメッセージを書き始めた。
私には関係ないと帰ろうとすると、「あの」という言葉で引き留められる。
そこにいたのは、以前私に憧れていると言ってくれた女の子だった。
「良かったら、メッセージ書いてくれない?」
「もちろん」
「あっ、私も、三浦さんのに書いてもいい?」
「どうぞ」
私は彼女と卒業アルバムを交換し、メッセージを書く。
どうしようか。あまり会えなかったけど、仲良くしてくれてありがとうございます、とかで良いかな。
とりあえずメッセージを書き、顔を上げる。
すると、気づけば目の前には、沢山のクラスメイトがいた。
「私にも書いてほしい!」
「俺にも!」
「ぼ、僕も」
「え、あ、はい……」
皆のキラキラした視線をうけて、思わず目を白黒させる。
私、そんなにメッセージをねだられる要素あったか。やっぱり超人だから?
困惑しつつも、一人一人に丁寧にメッセージを書いていく。
正直名前も知らない人もいたが、全員にそれぞれ違うメッセージを書いた。ただ、内容は少し被ってしまったかもしれない。
なんとか全員分終わらせた。滅茶苦茶大変だった。ほとんどクラス全員の分を書いた気がする。
そういえば私のアルバムは……と思って見ると、ちょうど男子生徒がやってきて私にアルバムを差し出した。
「はい、これ」
「ありがとうございます」
中身を見ると、なんとそこにはびっしりとメッセージが。白紙部分は二ページもあったのに、全部埋まっている。
それを見て、私は少しだけ胸が熱くなった。
ほとんど関われなかったけれど、こうして、ちゃんと繋がりはあったのだ。これで私にも、一応青春の思い出ができた。
じーんと感極まっていると、先生に並ぶように言われる。
そうだ、この後は卒業生として校内を歩くのだ。そしてそのまま外に出て解散。
私は慌てて荷物をまとめ、外に出た。
列に並ぶ。三浦なので後ろの方だ。
私たちはゆっくり歩き出した。後輩たちが私たちを出迎えてくれる。
どことなく顔が死んでいたりする子もいたが、三年生と仲が良かった人も多かったのだろう。手を振ったり話す人もちらほら見られた。
私はその姿を見て、後輩って良いよね、と思った。
まあ、私の後輩とはもう関係が粉々に壊れているけれど。
明菜ちゃんと会いませんように、と願いながら、私は隠れるように歩いた。はぁ……本当に、あの件はろくなものじゃなかったな。
なんとか外に出て、奈江子さんを探す。
外は生徒と親でごった返していた。
皆、誰かと話したり写真を撮ったり、楽しそうだ。
私はふと、奈江子さんの後ろ姿を見つける。
「奈江子さん」
「っ、史詩夏……!」
振り向いた奈江子さんは、目を真っ赤に腫らして、嬉しそうに微笑んだ。
「ど、どうしたの、その顔」
「嬉しいのよぉっ!あの史詩夏が、こんなに大きくなって……!」
「はぁ」
奈江子さんは私の頭を撫でて、鼻歌でも歌いそうなほどニコニコ微笑んだ。
それから二人で写真を撮ったり、先生と話したりする。
全て終わると、奈江子さんは徐に言った。
「史詩夏、焼き肉行くよ」
「え、ホント?」
思わず目を輝かせる。
焼き肉は私の好物の一つだ。嬉しすぎて半ばスキップするように学校を後にする。
焼き肉店に着くと、おいしい焼き肉の匂いがした。
席に案内され、二人で早速注文する。
「どんどん食べちゃって!」
「うん!」
私は意気揚々と注文する。
カルビ、タン、ハラミ、ホルモン。調子に乗って結構頼んでしまった。
早速肉が届いて、焼きながら私たちは話し出す。
「でも、あの史詩夏がもう中学を卒業するとはねー」
「思い返してみると、色々あったね」
「ホントよぉ!最年少戦闘隊員になって、忙しくして……史詩夏は、本当に頑張ったと思うよ」
奈江子さんはそう言ってまた涙ぐむ。
私はそれに若干呆れつつも、感傷的な気持ちになって色々と思い出した。
入学したばかりの頃、クラスメイトから遠巻きにされたこと。毎日部活もせずに訓練に没頭したこと。気づけば最年少戦闘隊員になっていたこと。そのせいで青春なんて縁もなく働き続けたこと。
戦闘隊員は特例で、何歳からでも、何歳でも働けた。私はおかげでずっと仕事だ。依頼をこなしてこなして……それを繰り返した。
たまに嫌になることもあった。戦闘隊員をやめたいと思ったこともあった。周りとどんどん遠ざかっていく自分。それが嫌で、怖くて。
でも、私にしかできないこともあった。人を救うことだ。
私は社会に貢献できて、それが嬉しかった。
更に今年は神藤さんとも出会って、バディとして慌ただしくして。
デマ事件は……思い出したくない。深夜くんの告白については、まだ心の整理がついていない。
色々あったなぁ、としみじみ思う。
私は頑張っていたのだろうか。ただすべきことをし続けただけだった。運命に従って……というと大層な感じだが、でも本当にそうだった。
私自身で決めたことなんて大してない。流されるままやってきただけ。
それが良かったのかは分からない。だが、なんだかんだ得られるものも多かった。私は確実に強くなったし、貯金も貯まった。
「奈江子さん、ありがとう」
私はふと思って言った。
奈江子さんは目を瞬かせる。
「それを言うなら、私の方こそ。史詩夏にいっぱい助けられてきたよ」
「そう?」
「もちろん」
奈江子さんは微笑んだ。
私もつられて微笑む。
焼けた肉をかじると、おいしいさが口いっぱいに広がった。
私は心から満たされるのを感じながら、一つの大きなことが終わったのを深く感じた。
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