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第76話

 好き……好き?


「深夜くんが、私のことを……?」

「そうだよ」


 深夜くんはジッと私を見つめて言った。

 それは……えっと、恋愛的な意味で、ということだろうか。いや、この雰囲気からして、多分そうだろう。

 ……そんな気配あった?

 まず浮かんだのは疑問だった。

 私、全然気づかなかった。深夜くんが私を好きだとか、想像もしなかった。

 だって、彼はそういうの鈍感そうに見えたし、私は彼とそこまで仲良くもない。

 さっきだって、彼の新しい、知らない一面を見たばかりだ。


「えっと……それは……」


 私がどう返せば良いか分からずもごもごしていると、深夜くんは苦笑した。


「ごめん、こんなこと言って。史詩夏は多分、俺のこと、そういう意味で好きなわけじゃないでしょ」

「え……っと、うん……」


 そりゃあ、深夜くんのことは素敵な人だとは思うけど、別に恋愛的に好きなわけじゃない。

 私は深夜くんみたいな、モテまくる人と付き合うのは大変そうだと思うから、無意識に恋愛対象から外していた。

 私がおずおずと頷くと、深夜くんは少し苦しそうな顔をして微笑む。


「分かってた、けど、俺のこと、少しは意識してほしかったんだ。付き合うとかはまだ考えられないかもしれないけどさ、俺のこと、ちょっとずつ異性として見てよ」


 深夜くんを、異性として……いや、まあ、異性としては見ているんだけれど。

 でも、うーん、そうか……。深夜くんと恋人になる未来が、この先にあるんだろうか。私はちょっと考えてみる。

 だって、深夜くんはこの通り優しいし、気遣いもできるし、私と同じ超人だし、同世代の男子の中では多分一番身近な相手だ。

 付き合ったら、きっと優しくリードしてくれそうな気がする。

 顔だってもちろんイケメンだし、運動神経は私よりか劣るにしろ良いし、勉強だって、それなりにできるイメージがある。

 うーん、完璧では?もう人として完璧では?

 私と合うかといえば、どちらかといえば合うだろう。私はマイペースだが深夜くんはそんな私に合わせてくれるだろうし、適度に愛情を注いでくれそうだ。

 でも、正直、恋する相手ではない……気がする。今まで恋についてあまり考えたこともなかったが、好みのタイプは一応ある。

 私のことをよく理解してくれて、私と同じ趣味を持っていて、私が尊敬できる人、だ。

 深夜くんは半分くらいはそれに当てはまっているけれど、完璧に当てはまっているわけではない。

 とどのつまり、今は付き合うとか、とてもではないが無理だ。


「分かった……けど、付き合うとかは、無理だと思う」

「……そっか。でも、俺、諦めないよ」

「えっ」


 力強く返されて、私は口を半開きにした。


「俺、もう、史詩夏のこと好きじゃない自分が想像できないから」

「そ、そうなんですか」

「うん」


 そんなに好かれる要素あったかな、私。記憶を辿ってみても、ただそれなりに普通に仲良くなった記憶しかない。

 でも、まあ、深夜くんからすると私は特別なのだろうか?……あまり理解はできないが。


「えっと、友達として仲良くしてくれたりは……?」

「史詩夏は、友達から恋人になるのは嫌?」

「嫌、ではないけど」

「じゃあ、今は友達のままでいいよ」


 よ、良かった。友達を失わなくてすみそうだ。

 いや、でも、自分のことを好きな相手を友達としてずっと側にキープしておくって、わりと最低では?


「や、やっぱり、もう会わない方が良いかも」


 私が一転、意見を変えると、深夜くんはすっと顔から笑みを消して真顔になった。

 えっ、なに。


「……史詩夏がどうしてもって言うならそうするけど、俺、すごく悲しくなるよ」

「じゃ、じゃあ、やめます……」


 や、やめて……そんな目で見ないで……。

 私は良心の呵責に耐えきれず言った。途端に、深夜くんの顔に笑顔が戻る。


「友達として、まずはよろしく」

「う、うん」


 私は緊張しながら頷いた。

 その後、家に帰ってからも、私の熱は冷めなかった。

 しかし、やるべきことを思い出して、ハッとする。

 とりあえず奈江子さんには警察行きをやめると言って、代わりに記者に会いに行くことにした。

 だが、次の日、思わぬことが起きた。

 なぜか記事は消えており、代わりに謝罪文が出ていたのである。


“『三浦史詩夏、いじめ疑惑』の記事につきまして、深くお詫び申し上げます。我々は虚偽の申告を元に誤った記事を作成してしまっておりました。三浦史詩夏さんは一切のいじめを行っておらず、あの記事は全てデマでした。責任をとって担当記者は辞任させていただきました。二度とこのようなことが起こらないように、再発防止に努めさせていただきます。”


 て、展開が早すぎないか?

 なんか謝られてるし、記者辞任してるし。

 私、何もしてないんだけども。

 呆気にとられて、暫く放心してしまう。

 その後、奈江子さんにも記事のことを話し、二人して疑問符を浮かべた。

 とにかく、こんなわけで、事態は思わぬ形で終わった。

 謝罪文によって世論は一転し、私への評価は概ね回復した。だが、明菜ちゃんとの関係は崩壊したし、浦辺さんは不登校になってしまったらしい。

 今回の事件の余波は大きい。主に私の精神のすり減り具合がひどい。

 私は神藤さんとの任務を再開したが、あまり任務に身が入らなかった。

 それでも、ある程度当初の目的は達成できるようになっており、基本危険度Bクラスの討伐は1分以内でできる。何の問題もない。

 なんか釈然としないが、まあ、とりあえずこれで一件落着だ。





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