第75話
その瞬間、浦辺さんは完全に凍り付く。
さっと顔を青ざめさせて、信じられないというように目を見開いて後ろを振り返った。
深夜くんは暗い目をしていた。浦辺さんを見つめる視線はどこまでも冷たく、私は見たことがない彼の姿に少し怖いと思った。
浦辺さんは後ずさりして、私にぶつかる。
「深夜くん、証拠は掴めたし、もう大丈夫だよ」
私は落ち着いて深夜くんに語りかけた。
しかし、深夜くんは首を横に振る。
「史詩夏が良くても俺が良くない。浦辺さん、散々史詩夏のこと好き勝手言ってたけど、どういうつもり?第一、お前と史詩夏ってなんの面識もないよね?」
み、深夜くんが人に対してお前って言ってる……。
浦辺さんの顔はこちらからは見えない。だが、その体が震えていることは分かった。
「ち、違うんです、先輩、これは……私っ、先輩のために!」
「何が俺のためなの?ただ自分の都合だけで史詩夏を傷つけたんだよね?」
「わ、私……あ……」
浦辺さんは涙声で言った。
彼女は再び、腕をがりがりとひっかく。ああ……これは……きついだろうな、この子にとっては。
「お前はさっきなんて言った?史詩夏のことを気に食わなかった?それはお前が史詩夏に嫉妬していただけだろ。それが史詩夏を傷つけて良い理由になるとでも?」
「そ、それは、でも」
その後も、深夜くんは浦辺さんを滅茶苦茶問い詰め、思い切り泣かせていた。
もう、最後の方は浦辺さんは地面にうずくまって号泣していた。私も流石に可哀想になるレベルだった。
ちなみに深夜くんが具体的に何を言ったかは、ちょっと、あまり語りたくない。
とにかく、怒った深夜くんは途轍もなく怖かったとだけ言っておく。
深夜くんは散々浦辺さんを詰問して泣かせた後、ゆっくりと深呼吸して私を見た。
「とにかく、こいつのことは放っておいて、行こうよ」
「……そうだね。もう特に話すこともないし」
私は内心ちょっと深夜くんに怯えつつも、なんとか答えた。
深夜くん、私のために怒ってくれてるんだよね。だったら怯えるべきじゃない。そう、分かってはいる。
だが、怖い。ぶっちゃけ深夜くんの知らない一面を見てしまって滅茶苦茶怖い。
私ってまだまだ深夜くんと仲良くないんだな……と感じながら、私は深夜くんと共に公園を後にした。
二人で薄暗くなってきた道を歩く。
深夜くんは相変わらずピリピリした雰囲気だし、私は私で何を言えば良いのか分からず沈黙している。
結果生まれる悲しいほどの沈黙。
いやいや、勇気を出せ、私。深夜くんにちゃんとお礼を言わなければ。
「深夜くん、今日は本当にありがとう」
私の言葉に、深夜くんはハッとしたように顔をあげた。
「いや、全然。史詩夏のこと、もっと早く助けに行った方が良いかと思ったけど、証拠もとらないといけないよな……と思ったらなかなか踏み込めなくてさ」
「踏み込まなくて良かったよ。おかげで証拠はバッチリ」
「良かった」
私が微笑むと、深夜くんも私に微笑み返した。その目には先ほどまでの憎悪は見えない。むしろ、甘くて優しい感じの目だ。
良かった。いつもの深夜くんに戻ってくれて。
私はホッとして胸をなで下ろした。
「私、警察に行った方が良いのかな」
「え、逆に行かない選択肢があるの?」
おお。思ったより、深夜くんは一度嫌った相手に辛辣なのかもしれない。滅茶苦茶容赦がない。
「だって、あの子、まだ中学生だし」
それを言ったら私も中学生だけど、若気の至りというのは誰にでもあると思う。
「でも、あれは意図的に史詩夏を貶めようとしてたでしょ。立派な犯罪だよ」
深夜くんは説得するように私に言った。
私はそれに頷きつつ、どうするべきか決めきれずに悩む。
「とりあえず、記事は消してもらうつもり。あとは、明菜ちゃんから本当のことを伝えてもらって、それを記事にして流せば、それでいいかなって。警察沙汰にするほどのことじゃない気がして……」
深夜くんには甘いと言われてしまうかもしれないけど、それだけすれば、向こうも懲りるんじゃないかと思うのだ。
第一、さっきも深夜くんに責められて、ほとんど錯乱していたし。
あそこまで好きな人に罵倒されたら、普通の人は立ち直れないのではないだろうか。二度とそんなことをしようとも思わないと思う。
それに、やりすぎて逆恨みされるのも怖い。
それらのことを深夜くんに伝えると、深夜くんは厳しい表情をして考え込んだ。
「……史詩夏がそれで良いなら、俺は何も言わないよ」
「うん。私、あの子の将来を潰したくないから」
私がそう言うと、深夜くんは目を細めて小さく笑った。
そういえば、と私は思う。
「そもそも、なんであの子、私たちの仲をあそこまで誤解してたんだろう」
「それは……」
「深夜くんが自分のせいって言ってたのも、なんで?」
私が問いかけると、深夜くんは突如立ち止まって私を見た。
私もつられて立ち止まる。
どうしたんだろう。深夜くんは目を泳がせて、口を小さく動かしている。
「……からだよ」
「え、なんて?」
私は聞き取れずに聞き返す。
深夜くんは拳をぎゅっと握りしめて、私の目を射貫いた。
「俺が、周りに誤解させたからなんだ」
「え……」
それって、どういうことだろう。
えーっと、つまり、深夜くんがわざと私たちが恋人であるかのように周りに話した、ということだろうか。
……なんで?
訳が分からず呆気にとられる。
一方、深夜くんは頬を赤くしてこちらを見つめた。
「俺、皆が誤解すれば良いと思ったんだ。俺たちのこと」
「なんで、そんなこと」
「だって、好きだから」
投げられた言葉に、私は反応できずに目を瞬かせる。
頭が真っ白になった。
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もしかしなくても、史詩夏って15歳ですよね?変更しました。




