第73話
『深夜くんの一個下の後輩の子で、同じ部活に所属してる女の子って、どのくらいいる?』
すると、すぐに返信が来た。
『どうしたの?』
『えっと、大体10人くらいかな』
多っ。深夜くんは確か美術部だったはずだけど、そんなに女子が多いんだろうか。
……もしかして、深夜くん目当てで沢山入部したとか?
恐ろしい想像が脳裏をよぎったけど、とりあえず考えないことにした。
『ごめん、ちょっと話したいことがあって。電話できる?』
『いいけど、ちょっと待って』
それから暫く待っていると、深夜くんから電話がかかってきた。
私はスワイプして電話に出る。
「ごめん、深夜くん。急に電話したいとか言っちゃって」
「いや、全然。それより、どうしたの?」
私は一つ一つ事情を説明した。正直、深夜くんが気に病むかもと思うと、言うのは躊躇われた。だが、ここで深夜くんに協力してもらうなら、正直に事情を話した方が良い。
私の説明が終わると、沈黙が流れた後、深夜くんが話し出す。
「……俺のせいで迷惑かけてるみたいでごてん」
「いや、悪いのは深夜くんじゃなくてえん罪をかぶせてきたその子だから」
私は即座に否定する。
確かに私は散々深夜くん目当ての女の子によって辛酸をなめる羽目になってきたが、それは深夜くんのせいではない。
「あと、その子だけど、心あたりがある」
「本当?」
深夜くんの言葉に、私は思わず喜色をにじませてたずねた。
「うん。……どうする?俺から怒っておこうか?」
「いや、とりあえず、まず私が話したいかな。深夜くん、その子と私を会わせてくれる?」
「良いけど……俺も影から見守っておくから。何かあったらまずいし」
「ありがとう」
深夜くんはどうも、この件に関して強く責任を感じているらしい。普段より低い声には負の感情が乗っている。
話さない方が良かったかなぁ。でも、協力してもらうなら隠し事はなぁ……。
後悔しても仕方ないが、やはり、申し訳なくなる。
「えーっと、その子の名前だけど、確か浦辺鈴だったはず。なんか、前々から俺に気がある感じで、何かと俺に話しかけてきて……」
なるほど。まあ、深夜くんはモテるのでそういう子がいてもおかしくない。
「ちなみに、私に冤罪をふっかけてきた理由について何か知ってる?」
一応聞いてみると、返ってきたのは重い答えだった。
「……多分、俺のせいだ」
「えっ。どういうこと?」
「いや……史詩夏は知らなくて良いよ。でも、その子はきっと、史詩夏と俺が……その、付き合ってると思ってるんじゃないかな……」
「ええっ!?」
なんだって。私と深夜くんが?そんなまさか。あり得ない。
私は何でそんな勘違いが……と思わず放心してしまった。
そもそも、私と彼女に接点はないはずなのに、一体どこで私の存在を知ったのだろう。謎すぎる。
「ごめん!絶対俺が勘違いさせちゃったんだ」
深夜くんは心底申し訳なさそうな声色で言った。
「いやいや、深夜くんは悪くないよ。その子が早とちりするような子なんでしょ……多分?」
まあ、恋する乙女というのは心配性なんじゃないだろうか。すぐ不安になったり喜んだり……それも恋の醍醐味だとは思うが、こういう勘違いはやめてほしい。
「ホントごめん……!」
深夜くんは私のフォローむなしく泣きそうな声で言った。
「謝らなくて良いよ。それより、その子、この後呼び出せない?場所はどこでもいいけど」
「いいよ。公園でいい?」
ぴこん、とすかさず深夜くんからマップが送られてきた。
なるほど。距離はそこそこだな。まあ、転移で行くのでどこでも良かったのだが。
「うん。17:30くらいにそっちに行くね」
「じゃあ、俺は影から見守ってるから」
「ありがとう」
私はそこで電話を切った。
ふぅ……と深くため息をつく。どっと疲れが押し寄せてきた。
いよいよ、会うのか。どんな子なんだろう。謝られたら許すとして、謝ってこなかったら?むしろ、逆上してきたら?
そうなったら……深夜くんに直接怒ってもらおうか。私から言っても無駄かもしれないが、好きな相手からなら聞くかもしれない。
深夜くんは迷惑をかけるけど、そのくらいはお願いしても許してくれるだろう。
私はすっと目を閉じた。頭の中には色々な想像が駆け巡っている。
正直、嫌な話になるだろうとは思った。
だが、やるしかない。
そのとき、深夜くんからラインが来た。
『浦辺、今すぐ行くって。もう公園に行ってても良いかも』
『分かった。ありがとう』
私は素早く返信してスマホを閉じる。
きっと、好きな人からの誘いに舞い上がってるんだろうなぁ。そんな子に、だまし討ちみたいで悪いな……と罪悪感がこみ上げる。
でも、やるしかないんだ。先に喧嘩をふっかけてきたのは向こうなのだから、それ相応の報いは受けてもらわなければ。
私は決意を固めて、呟いた。
「転移」
次の瞬間、私はあの公園にいた。
この公園には来たこともないが、なんだか懐かしくなる。昔は、よく公園で遊んでいたっけ。
一人ぼっちで、居場所がなくて……あれ、なんで居場所がなかったんだろう。ああ、そうだ、学校に馴染めてなかったんだ。
超人だから……あれ、でも、他にも理由があった気がする。なんだろう。
そんなことを考えていると、不意に足音が聞こえてきた。
軽快で、楽しそう。
その足音の主は走りながら公園に入ってくる。
そして、きょろきょろと周囲を見回した。
……あの子かな、浦辺さんは。
私は憂鬱な気分になりながら、彼女に足音を立てずに近づいた。
すぐ真後ろまで来る。
「浦辺さん、だよね?」
「ひっ!」
私が話しかけると、浦辺さんは驚いたように後ずさった。その顔には恐怖が浮かんでいる。
彼女は私を見た瞬間、目をつり上げて怒りを見せた。
……ああ、私、そんなに嫌われてるんだ。
ちくりと胸が痛む。でも、そうだよな。じゃないとここまでのことはしない。
覚悟が決まった。これだけ私を嫌っているなら、きっと、やったのも故意。軽い気持ちとかじゃない、明確に貶めるためのものだったはずだ。
それなら、私も容赦はしない。
「ちょっと、話があるんだけど、いいかな」
拒否権を与えるつもりはなかった。




