第71話
朝目覚めると、スマホには通知が沢山。
とりあえず茜から来たものを開く。
『まずいわよ!昨日の記事が一気に滅茶苦茶見られてる!ほら、北海道ニュースの検索数トップにまでなってるわ!』
『ええっ』
そんな馬鹿な。
しかし、見ると確かに私の記事がランキング一位だ。そんなことある?
どうやら、私は一夜で大炎上してしまったらしい。コメント欄を見ると、出るわ出るわ、悪口雑言。
『綺麗な顔してやることえげつないな』
『北海道の希望だと思ってたのに残念です』
『正体ばれててウケる』
『元からなんか性格悪そうだと思ってました。そしたらやっぱりこんな記事。信じられません。早く捕まってほしいです』
いやいや、なにそれ、私ってそんなに性格悪そうに見えるかな。
これ以上見ても仕方ない、と私はコメント欄を閉じた。それにしても、手のひら返しすごいな……。
ちょっと泣きそうになったが、まずは深呼吸。大丈夫、私は一人じゃない。
それから、茜に連絡する。
『これ、私はどうしたら良いかな』
『どうもしないで。今は私たちがなんとかするから。それより、明菜に連絡してみたけど、何も返事が返ってこないの。しかもブロックされた。これって黒じゃないかしら』
そんな……明菜ちゃんが、本当にデマを流したのか?
私は衝撃で頭が真っ白になった。
明菜ちゃんは絶対にそんなことをする子じゃなかった。きっと、事情があるはずだ。
だが、こうなってしまった以上、私も何も手を打たないわけにはいかない。
それから奈江子さんからのラインを見る。内容は、私のことを心配するものだった。
『あんな記事なんて気にしなくていい。あとは私がなんとかするから』
なんとかって……私は不安になって慌てて返信した。
『今は下手なことはしないで。奈江子さんまで悪く言われることがあるかもしれない』
『でも、史詩夏がこんな名誉毀損を受けてるのに、何もしないっていうのはできないわ。警察に相談しましょう』
『……分かった。でも、少し待って』
警察に相談するのは、もちろんだ。だが、その前にやるべきことがある。
私は奈江子さんを説得して、明後日の夜に警察に行くことを決めた。それまでは、様子見だ。
それから私は神藤さんからのラインを開いた。
『上から君の疑惑への説明を命じられた。今日は予定を変更して本部に行くことになる。9時になったら北海道駐在署に来い』
なるほど……これは、かなり大事になったかもしれない。私はうーんと唸った。
今の時間は6時。まだ9時まではたっぷり時間がある。
今日は日曜日だ。本当は明菜ちゃんと会いたかったが、ひとまずそれは後回しだ。まずは本部への説明に行かなければ。
私はゆっくりと目を閉じた。やらなければいけないことは沢山ある。
次に目を開けたとき、私は目に覚悟を宿した。
負けるわけにはいかない。こんな理不尽。
ひとまず服を着替えて、朝ご飯を食べた。それ自体は優雅な日曜日の朝そのもので、ネットの中の荒れようが嘘みたいだ。
それから、9時になるまでに何度も記事を読み返した。
記事に書いてあることをまとめると、こんな風になる。
1.被害に遭ったのは女子生徒。私の一つ下で同じ学校。おそらく訓練生で超能力者。
2.彼女は私のクラスメイトの男子と同じ部活に所属している。
3.彼女は一昨年の5月頃から継続していじめを受けており、主に訓練所で殴る蹴るなどの暴行を受けていた。
4.その他、いじめの内容は多岐に渡り、被害生徒は暴言をはかれ、周囲にデマを流され、孤立させられた。
5.三浦史詩夏は狡猾にいじめており、いじめの証拠はほとんどない。
……とまあ、これだけ聞くと、私の無実を証明するのは少し難しそうに見える。
なんせ向こうが証拠は出ないと言ってしまっているのだ。証言だけならいくらでもでっち上げられるし、嘘だと証明するのは難しい。
私は長らく自分一人で訓練を受けていたから、私がいじめていないと断言できる人はいない。
訓練所にはトイレや更衣室、シャワールームなど、誰にも見られない場所も多い。そこでいじめられたと証言されれば、否定するのは難しい。
私はクラスメイトとも特に親しくないので、実はクラスメイトの男子を好きだったと言われても驚かれこそすれ否定はされないだろう。
困った。特に反論できる材料がない。
頭を抱えていると、気づけば9時に迫っていた。
私は慌てて転移して、神藤さんと合流する。
本部に行くと、周囲の目がどことなく刺々しいような気がした。もちろん気のせいかもしれないが。
私は内心怯えつつ、自分は無実だと言い聞かせてお偉いさんと会う。
「単刀直入に言う。これは事実なのか?」
そう言って見せられた記事は紛れもない、先ほどまで私が見ていた記事だった。
私は勇気を振り絞って言った。
「私は無実です。絶対に、こんなことはしていません」
真っ直ぐお偉いさんを見つめた。確か、広報部の部長とかなんとか。
彼は暫く私を見ていたが、やがて、やれやれと肩を落とした。
「で、どうなんだ、神藤。君の見解は」
「やってないでしょうね」
即答だった。
私はその言葉に胸が熱くなる。神藤さんは、本当に私のことを信じてくれているんだ。私は、一人じゃないんだ。
その安堵で、少しだけ目頭が熱くなった。
「そうか……それなら、私が言うことはなにもない。私たちで声明を出す。そんな事実はないとな。君たちは何もしなくて良い」
「分かりました」
私は深々と頭を下げて、部屋を出た。
廊下を歩いていると、神藤さんが、不意に口を開く。
「君は何も悪くない。今回のことは、完全にデマを流した奴が悪い。君は何もしなくていい」
「……ありがとうございます。そう言っていただけると、私もホッとします」
私は感情を押し殺して言った。そんな優しい言葉をかけられたら、泣きそうになる。でも、こんなところで泣くわけにはいかない。
「後は大人に任せろ。君は何も見るな。ただ、任務をすればいい」
「はい。そうします」
「それから……」
神藤さんは、何か言いたげに私を見た。
私は不思議に思って神藤さんの言葉を待つ。
しかし、神藤さんは何かを言いかけて、また口を閉じた。
「……いや、何でもない」
「そうですか」
私はよく分からないがとりあえず納得し、それから二人で転移した。
「この後はどうしますか」
「君は今日は休め。何もするな」
「分かりました」
私は大人しく頷く。
神藤さんは私のことをジッと見つめた。
「無理は……するな。つらくなったら言え」
「え……あ、はい」
それだけ言って、神藤さんは早足に行ってしまった。
残された私は神藤さんの後ろ姿を見つめるばかりで、暫くぼーっとしていた。
……あれは、神藤さんなりの、優しさなんだろう。
不器用な人だなぁ、と苦笑する。
ぽろりと、目から涙があふれた。
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