夏季の密やかな楽しみ
「サウナに行こう」
ある日、学校で、夏季はそんなことを言った。
聞いていた健太と和泉はポカンと夏季を見つめる。
「サウナ?」
「何故?」
2人が当然の質問をすると、夏季は満を持してと言った風に、満面の笑みを浮かべる。
「いいかい2人共。サウナはとっても楽しいんだよ」
「えっと、楽しい?」
いまいち要領が掴めず、健太は首を傾げる。
健太はサウナが楽しいと言われてもピンとこない。
そもそもサウナなど、健太にしてみればすすんで行きたい所ではない。
だというのに、こんなに目を輝かせて誘ってくる夏季が健太にしてみたら理解できなかった。
夏季はそんな健太の思考を看破して、口を回す。
「君達の言いたいことは理解できる。サウナなんておっさんの溜まり場だとでも思っていることだろう」
「いや、そんなに悪く言うつもりはないけど」
「だがしかぁし。サウナはとてもいいものなのだ!」
夏季は拳を固め、力説を始める。
2人は何故夏季がそこまでサウナを熱く語るのかちょっとついていけない。
和泉はちょんと手を上げた。
「なあ、夏季」
「はい和泉君」
「俺のイメージだと、サウナって暑いだけって感じで、我慢大会の側面が強いんだけど」
夏季はうんうんと腕を組んで頷く。
どうでもいいが、なんか上から目線でイラつく。
「そこがいいんだ。それがいいんだ!」
夏季は軽快に話をするが、やっぱり2人には解らない。
そして、和泉はある結論に至った。
「・・・もしかして、夏季はMなのか?」
「え、なんだって?」
意味が解らなかった。
「だ、だって、暑いのが、苦しいのが好きなんだろ? それってつまり苦しいのを喜ぶ性癖っていうこと」
「ちっがーう!!」
バンと、夏季は机を叩いた。
「違うよ和泉君。人を特殊性癖を持つ人間みたいに言わないでくれ」
焦ってそう叫ぶと、それを喜んで聞きつける人物がいた。
「あら? それは興味深いお話ね」
朱希は座って話している3人を見下ろしながら、いや、正確には夏季を見ながら、ニヤリと悪い笑みを浮かべる。
夏季はうんざりしながら性悪な妹を見上げた。
「ごめんなさい。ちょっと話が聞こえてしまったの。サウナを熱く語るその人が、机をバンバン叩くものだから、五月蠅くて」
気が付くと、こちらに注目している生徒が数人。
思わず力が入ってしまったらしい。
視線を他の生徒に向けると、サッと視線を外す生徒達。
夏季達3人が話している分にはいいが、そこに朱希が加わるとなると、トラブルの香りがほのかに漂う。
それにわざわざ関わろうとは思わないだろう。
それを悪いとは思わない。
むしろ、大きい声を出して、トラブルを引き起こしてごめんと謝罪したい。
「あ、四季、さん」
和泉はオドオドしながら椅子を少し引いた。
この間の件で、朱希には強い口調で叱咤された和泉は、朱希に対し苦手意識を持ってしまったらしい。
そうでなくとも、最近までボッチだった和泉からしたら、学年、あるいは学校一の美人ともいうべき朱希に声をかけられるだけで、キョどってしまうのは仕方のないことかもしれない。
朱希はそんな和泉を一瞥するだけで、眼中から外す。
たいして興味はないだろうし、自分が苦手意識を持たれていることは解っているだろうから、無理に話しかけはしないのだろう。
それよりも、だ。
嗜虐的な笑みを浮かべる朱希は、夏季に向かってチロリと舌を出して唇を舐める。
その仕草だけで、ある種の人間なら興奮して悶絶するのだろうが。
「面白い話が聞こえたもので、思わず席を立ってしまったわ。話を端的に言うのなら、草村君が女子に甚振られることを至高の喜びと感じる、変態中の変態と聞こえたのだけれど。間違いはないわね? いえ、間違いなど有り得ないわね?」
「違うよ? 全然違うよ? なんでそんなことになっているの? 不要に僕を貶めるのはやめてくれないかな四季さん」
血管をぴくぴくさせながら、正当な弁解をする夏季であったが、朱希はフフンと鼻を鳴らす。
「言い訳は見苦しいわよ草村君。既に証拠は挙がっているわ。例えば、あなたが放課後。女子の靴箱を見回って、上履きをクンクン嗅いでいることとか」
「止めろぉ!! マジでそういう話をさも事実であるかのように言わないでもらえないかな!!」
「あら、違うというの?」
「違う。全然違う。あっ、宮崎さん。そんな警戒するように僕を見ないで。そ、それにクラスのみんなも、違うから。いつもの四季さんの悪戯だから」
「あらそうかしら。謂れもない冤罪だとでも言いたいの?」
「ああ、その通り!」
「ふーん。じゃあ、これはどうかしら?」
嗜虐心たっぷりに、朱希は平然と爆弾を投下する。
「女子の胸を揉んだりする変態、だとか?」




