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朱希に甚振られる夏季

 夏季は目を見開き、顎をガクガクさせながら口をパクパク動かし硬直した。


(うおおおおおおおい朱希ぃーーーー!! 今ここでそれを言うのかぁ!!)


 夏季は心の中で絶叫した。


 忘れるのではなかったのか?

 許してくれるのではなかったのか?

 学校で言いふらさないのではなかったのか?


 まさかここで、クラス中が注目している中で、それを言うとは。


 夏季が先程と違ってすぐに否定せず硬直したことで、教室内は「え、そうなの?」という空気になっていた。

 それに気が付いた夏季はブンブンと首を横に振って全力で否定する。


「ち、違う! 僕はそんなことしていない!!」


 朱希に、そして、クラスに響くように夏季は声を荒げた。

 しかし、この妹はどこまでも夏季を追い詰める。


「本当に? それを私の目を見ながら言えるのかしら?」


「い、いえ、いぇ、言えるよ!」


「随分と挙動が不審ね。どこかやましいことがあるんじゃない?」


 ブンブンブン!!


 全力で首を動かす。

 ちょっとそれ以上稼働したら人の構造からして不味いんじゃないかと思わせるほどに。


「じゃあ、質問を変えましょう」


「な、何?」


 夏季はゴクリと喉を鳴らす。


(な、何を言うつもりだこの野郎)


「私の胸を触ったわよね? あの時」


「つつつつつつつつつつーーーーーー!!!!」


 ぽっと顔を赤らめながら、朱希は絨毯爆撃を開始した。

 夏季は真っ青になる。


 ガタガタガタガガタ!!


 この瞬間、座っているクラス中の人間が立ち上がり、夏季に注目した。


「草村?」

「まさか」

「おい、マジかよ?」

「あ、あの野郎。俺の四季さんの、胸を!」

「お前のじゃ断じてないが、四季さんのおぱーいを!」

「嘘、草村君やっぱり変態?」

「サイテー」

「草村君。だいったーん」


「ちっがーう!! 違う。違うよ。有り得ないよ。絶対ないよ。マジマジ!!」


 全員が夏季に注目する中、朱希は夏季にしか見えない角度で、ニマニマしながら、観察、堪能していた。


(朱希ーー!! てめえ! そりゃ、俺が悪いけど、悪いけれども! これはあんまりじゃないか!!)


 これでは本当に学校に居場所がなくなる。

 それどころか、問答無用で退学に追い込まれてしまう。


(お、おま、お前、これやばいやつだぞ。本当に俺、退学になっちゃうぞ?)


 夏季はプルプルとワンコの様に震えた。


 朱希はそれを見て、十分に堪能したと言わんばかりに目を伏した。


「冗談よ」


「「「え?」」」


「草村君にそんな度胸があるわけがないじゃない。だからこれはただの冗談よ」


 ・・・。


「な、なんだ冗談かよ」

「まあ草村君だしね。無害でしょ」

「あ、あたしは最初からわ分かってたよ」

「そうそう。草村にそんな度胸ねーって」


 夏季はへなへなとその場に座り込んだ。


「はぁ~~~」


 なんとか事なきを得たか。

 いや、ただむやみやたらに朱希に引っ掻き回されただけなのだが。


 へたり込んでいる夏季に、健太と和泉が憐れみの声を上げた。


「・・・お疲れ」

「きょ、今日は酷かったな」


(もう、何も考えたくねぇ)


 夏季は力なく顔を上げると、今にも噴き出しそうな顔をした朱希がいた。


(こ、この野郎!)


*********


「あーきぃー!!」


「キャーーー! 痛い痛いお兄ちゃん痛いぃーー!!」


 帰って来た夏季は、両手を朱希のこめかみに持ってきて、ぐりぐりを慣行した。


 最初は軽いじゃれ合いだと思っていた朱希だったが、夏季がガチであると分かると、悲鳴を上げて逃げようとするが、夏季はそれを許さず、かなりキツイ折檻となる。


 朱希は涙目で助けを求めたが、今回ばかりはそうはいかない。

 もし健太が傍にいたら、そろそろ止めるだろうと思われる事態にまで夏季の折檻は及んだが、一向に手を緩めなかった。


「お兄ちゃん。マジ、マジで今回はあたしが悪かったです。ホント反省してます。許して。痛い痛い。冗談抜きで痛いです! ごめんなさーい許して~!」


「はぁはぁはぁ。本当に反省してるか?」


「・・・してます。ほんと、サーセンした」


「その適当な返しは反省してねーな!!」


「あ、ごめんなさい。お兄様。本当にしています。ごめんなさい!」


 朱希は直立するとこれから企業面接かと思わせるような見事な礼をした。

 それはそれでふざけてるんじゃないかと思わないでもないが、まあ、許してやるとしよう。


「マジでな。今日のはなかったぞ。危うく俺の学生生活終了かと思ったわ」


「いやいや、本当にそんなことするわけないじゃん。冗談で済ませたでしょ?」


「事が大きくなると冗談で済まなくなることだってあるんだよ」


 夏季は大きく息を吐く。

 今回は本当にひやっとした。

 朱希には冗談の境が見えておらず、危ういところがあるので、しっかりとお仕置きをしておかなければならない。


 こめかみを癒すように撫でる朱希をジロリと睨む。

 朱希はビクッとなって目に涙を浮かべた。


「うう。そろそろ許してよぉ」


「・・・まあ、問題なかったからいいが、これからは気を付けろよ?」


「・・・はい。これからは吟味して行動します」


 これからもふざけて絡んでくるというわけだ。

 夏季も軽い悪ふざけであれば乗ってやらないでもない。

 今回は酷かったけど。


「あ、ねえ。そういえばさ」


「ん?」


 朱希は気分を切り替えるつもりなのか、話題を振った。


「サウナほんとに行くの?」


「ん? おお。行こうと思ってる」


 夏季は大きく頷いた。


「お兄ちゃんサウナ好きねぇ。おっさんなの?」


 夏季はムッとなった。


「いや、その認識間違ってるって。別にサウナに行くのはおじさんだけじゃないぞ。今サウナーって増えてるんだ」


「サウナーねぇ」


 イマイチ理解できないのか、朱希は首を捻る。


「言っておくが、サウナは男だけじゃなく、女性にもいいものなんだぞ?」


「え、なんで?」


「代謝が良くなって、肌がすべすべになる」


「kwsk聞こうか」


 朱希は居住まいを正し、夏季のサウナ講義を拝聴する気になった。


「血流がよくなるからな。代謝も上がり、美容にも効果的だ。ダイエットにもなるし」


「あー、確かにサウナに入ると体重減るよね」


「いや、それは汗で水分が一時的に減ってるだけだ。サウナの後にはちゃんと水分補給しないと脱水症状になる」


「じゃあ、何で痩せるの? あ、これも代謝か」


 夏季は大きく頷く。


「血流が良くなれば、胃腸も整うからな。自律神経も整うし。ストレス軽減にも繋がる。どうだ、サウナの良さ。解ったか?」


「ふむふむ。ほぉ。確かにこれは行ってみる価値があるかも」


「最初は高温サウナじゃなくて、ミストサウナとか塩サウナとかいいかもな」


「おしゃれ! そういうのもありますか」


「あるんだ。暑いだけがサウナじゃない」


「なるほどなるほど。分かってきたよ」


「まあ、そんなわけで、週末、和泉君と温泉サウナ行ってくるよ」


 朱希は首を傾げた。


「橘君は連れて行かないの?」


「生憎バイトだってさ」


「あちゃちゃ~。お兄ちゃんとしては、サウナを布教したいんじゃないの?」


「それなー。でも、しょうがない。今回は和泉君との仲を深めるつもりで行ってくるよ」


「うーん。彼な~。ちょっとナヨナヨってしてるよね?」


 夏季は苦笑する。


「そう言ってやるな。あれで話すといい奴だぞ?」


「ま、悪い人ではないのは分かる。たまにイラっとするけど」


 性格が真っすぐで、勝気な朱希とは価値観が合わないかもしれない。

 だが、夏季は和泉の気持ちが解る部分もある。

 今回のお出かけは2人の距離を縮めるにはちょうど良いと思えた。

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