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存在しない白亜の城



美しい大理石の真っ白な彫刻がたくさん飾られている。


それは女神のように神々しいものや、戦士のような勇ましいものもある彫刻だ。



彫刻の頭には桃色や水色や橙色や黄色、華やかな花々の冠が飾られてる。


白い彫刻は、その色合いに相応しく、白い台座に並べられていて、高い白い壁で中を囲っている。


人々が決して触れられぬよう高い壁の台座に飾られている。


子供たちは、道を通るたびに彫刻たちを見上げ、見惚れた。


こんなに素晴らしい彫刻や花で飾られた中はいったいどんなに素晴らしいのだろうか。


きっと壮大な白亜の城が建てられているのだろう、と。


壁は高く、中は一切外からは見ることはできない。



人々は決して見ることの出来ない白亜の城に想いを馳せた。



----------




ルプナは虫取り網を片手に、ウォータースライダーの入り口でため息をついた。


ルプナの仕事はウォータースライダーの水を綺麗にすることだ。

水に浮かぶゴミを毎日拾って、そのゴミを売ることで微々たる食料を得ることが出来ている。


ゴミは1つ1つは軽くても、たくさん拾えば重くなる。

11歳になったばかりの少女には少々厳しい労働だ。



けれど、働かなければ、この地球では生き残れない。



ルプナは働かないで死ぬより、働きながら生きる道を選んだ少女である。気合を入れるように「よし」と呟き、黄色いウォータースライダーに足を踏み出した。



虫取り網でゴミを拾い、背中に背負った透明なプラスチックのボックスに入れていく。今日もウォータースライダーはゴミでいっぱいだ。



アンティークドールの生首。


弦が切れているヴァイオリン。


古いゲームソフト。


電池の切れた懐中電灯。



たくさんのゴミを、ルプナは虫取り網で拾って、プラスチックのボックスに入れていく。



ルプナがウォータースライダーの終わりにたどり着いた頃には、もう夕方だった。

いつものようにプラスチックのボックスは人々が捨てたゴミでいっぱいだ。



ルプナはプラスチックのボックスを背中から下ろして、ウォータースライダーの終わりにいる水色のロボットに渡した。


水色のロボットはプラスチックのボックスをボリボリと食べる。

ロボットの中で人々のゴミがぐしゃぐしゃになる。



全てを食べ終えたロボットは、ルプナに小さなクロワッサンを一つ渡した。

ルプナはロボットに「ありがとう」と言った。

ロボットはルプナにぺこりと礼をして、ウィーンと音を立てながらスタッフルームに向かって行った。



ルプナが虫取り網を片手にウォータースライダーの入り口に帰ろうとした時、足元に不思議な感触が当たった。


ゴミだろうか。



ルプナが足元を見ると、ソレと目があった。



それは小さな三角の積み木だった。


丸い二つの目が、じっとルプナを見ていた。



ルプナはソレを虫取り網で拾った。



拾われたソレは、ルプナの手の上からルプナをじっと見る。



「…」


「…」



ルプナはクロワッサンをソレに近づけた。



「食べる…?」



ソレはクロワッサンをじっと見る。



ソレはクロワッサンにえいっと体当たりをした。


どうやらお気に召さなかったらしい。



クロワッサンが飛んでいく。


クロワッサンは流れるプールにボチャと落ちてしまった。



ルプナは積み木をそっと地面に置いて、クロワッサンを拾いに行くことにした。



三角の積み木は、じっとルプナを見ていた。




流れるプールにルプナが来たのは初めてのことだ。

ルプナの担当はウォータースライダーであり、流れるプールのゴミ拾いをしたことは無い。



ルプナはビート板の上に座り、流れるプールを流れながら、クロワッサンをきょろきょろ探す。



すると、流れるプールの下から恐竜の形をした積木たちが浮かんできた。



20個ほどの恐竜の積み木たちがビート板の上のルプナを興味深そうに見る。



ルプナが虫取り網で積み木を拾おうとすると、流れるプールの先の洞窟に積み木たちは逃げて行った。



「洞窟の先に何があるのかしら」



ルプナはビート板に乗って流れるプールの先の洞窟に入る。



洞窟は暗くて、水も底が見えない。



ただ、たくさんの積み木たちからの目線を感じた。


積み木たちはルプナをじっと見つめる。



「あなたたちは誰なの?」


「私たちは恐竜」



ルプナの問いかけに、洞窟のどこからか声が響いた。



「恐竜はずっと昔に滅んだはずだわ」


「肉体が滅びても記憶は残り続けるのよ」

 


積み木の恐竜たちが鳴き、吠え、唸る。


暗い洞窟内に恐竜たちの悲鳴が響く。



プールから出てきた恐竜の積み木が、ルプナの手に、足に触れる。



ルプナの手や足を通して、恐竜たちの記憶が流れる。


まるでほんとうの白亜紀のような錯覚をルプナは感じた。



積み木は恐竜たちの記憶。



人々のゴミに紛れて、こっそり、けれども確かに現代まで生き残ってきた記憶だ。



ルプナは、真っ暗な水に沈んでいく。



ルプナは積み木の恐竜たちを撫で、そっと目を閉じた。



----------




太陽が登る。


美しい白い壁でそこは覆われている。


美しい大理石の彫刻がたくさん飾られている。


昨日まで無かった新しい彫刻が飾られている。


虫取り網を持った幼い愛らしい少女の白い彫刻。



人々は今日も道を歩きながら、中には何があるんだろうと誰も見たことのない白亜の城に想いを馳せる。


今日も、外からは決して中を見ることが出来ない。




End.



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― 新着の感想 ―
[一言] 白亜の記憶、とても美しくて温かくて恐ろしかったです。 記憶に想いを馳せるのは、自ら囚われにいくようなものなのかもしれないと、このお話を読んで思いました。 ルプナはこんなにも能動的に、自発的…
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