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偽憶



私は起きたことがない。

起きたことがないから、何一つ見たことがない。

ずっと眠っているから、何一つ見たことがない。


私に布団を被せてくれる感触も。

私の頭を撫でてくれる感触も。


私はそれらを感じるけれど、目が覚めたことのない私にはそれが現実だという確証は何一つ無い。


私の目蓋は今日も閉じたまま。



私はたぶん、この家で暮らしている。


目が覚めたことが無いから分からないけど、こじんまりした2階建ての家だ。

眠ったままの私は、誰かに抱かれて階段を登ったような気がする。

だから私の家は階段のある二階建ての家。壁は赤いレンガだと思う。

目が覚めたことが無いから分からないけど、私はなんとなくそう思う。



この家で私はお母さまと二人で暮らしている。


毎朝私をベッドから出して椅子にそっと乗せて、寝る時間になったらそっとベッドに戻して優しく頭を撫でて何かを話してくれるお母さまと。

目が覚めたことがないから分からないけど、なんとなくそんな気がする。

私は誰かに抱きしめられて、誰かに優しく頭を撫でられて、誰かに話しかけられているのだ。


きっとそれは私を愛してるお母さまに違いない。



私はお母さまをどうしても見たかった。


どんな人なんだろう。私に何を言ってるのだろう。

私は必死で目蓋を開こうとした。

どうしてもどうしてもお母さまが見たかった。

私は目を覚ましたかった。


けれど、必死に必死に開こうとした目蓋の先に見えたのは、真紅のドレスを着た顔のない人だった。

黒いモヤが顔にかかったその人はきっとお母さま。

私はお母さまの顔を見ることが出来なかった。


いや、もしかしたら私は目蓋すら開いてなかったのかもしれない。

あれは私が見た夢だったのかもしれない。

だって私はお母さまを見たことがないのだから、お母さまがどんな姿かわかるはずもないのだから。



私は今日も目を醒ませない。




End.



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