第42話 ファスエッジダンジョン(2)
ボス部屋の外はまた広い空間が広がっており、中央に魔法陣が設置されている。
「この魔法陣は?」
「地上に戻る為の物よ。10階層毎のボスを倒せば直ぐに地上に戻ることが出来るの。」
オレの問いかけにマリーが答える。
つまりボスさえ倒せば帰りの事は考えなくてもいいという事だ。
「その代わり一度帰るとまた今来た道を来なくちゃダメだけどな。」
エイルはだからこそ準備をしっかりして、一気に進まなければならないと言う。
この空間には魔物は絶対に現れないらしい。
危険があるとしたら他の冒険者や盗賊だが、略奪目的でここまで来るやつはまずいないだろうと判断し、見張りはなしで全員で休む事にした。
目が覚めるとディルとマリーが既に起き、食事の準備をしていた。
オレが体を起こすと、隣でくっついて寝ていたミルファも目を覚まし、二人で起きていく。
「おはようございます。今日も頑張っていきますよ。」
今日という表現が正しいのかは分からないが、挨拶がてらにそう言った。
「おはよー。今日からはディルもエイルも参加するからね。レイジくんの出番はないかもよ~。」
昨日はオレとミルファの二人で戦い進んできた。
相手が強くなる中で10階層進むまで休憩出来ないことを考えると、ここらでエイル達も参戦して先へ進もうという事だろう。
皆が食事を取る中、未だ起きてこないエイルをマリーは起こしに行き、全員準備が出来次第出発する事となった。
11階層目、ホブゴブリンが現れ、相手が強くなってるのが分かった。
それも必ず3匹以上の群れで襲いかかってくる。
確かにエイル達が参戦しないと無駄に時間が掛かってただろう。
もう一方の魔物が緑のスライムだ。
コイツが地味に厄介で、飛ばしてくる粘液に毒が含まれていた。
オレはこれを足に受けてしまい少し大変な思いをしてしまった。
12階層目、槍モグラという槍を持ったモグラが出てくる。
コイツは少し素早いが、攻撃が弱く相手にはならなかった。
そして尻尾に鉄球をつけた猫も現れるが、エイルとディルによって何も出来ずに倒されていく。
しかし、実はこの尻尾がそこそこの値段で取引されている。
それを知っているエイルがこの猫を狩ろうと探し回ろうとしたが、マリーに先を急ぐと止められていた。
13階層目、巨大イモムシと毛虫のセットが現れるが、これをミルファが悲鳴をあげながら一掃する。
どうやら小さい頃のトラウマでこういう幼虫系は何よりもダメらしい。
予想だがその犯人はケントだろう。自分にもそういう悪戯をした記憶があるので何となく察する事が出来た。
14階層目、巨大なタマネギが襲ってくる。
飛ばしてくる液体は触れなくても周囲にいる者の涙腺を刺激し、視界を奪ってくる。
意外にもこのタマネギは非常に美味だ。
この国ではここにしか現れないので、王都の高級レストランでしか扱われていないらしい。
このフロアにはアフラ草などの植物が非常に多く生えている。
その中の惰眠草に手を伸ばしたら実はこれが魔物で、吐いた花粉で眠らされてしまった。
マリーの魔法で直ぐに起きることが出来たが、この先からは常に鑑定してから摘む事にした。
15階層目、丸いモフモフが転がっている。凄くモフりたい。
そんな願いも虚しく、ディルに射抜かれてしまう。
その後に出現するのもミルファとディルに簡単に射抜かれてく。
他に現れたのが大きめの鴉だ。鑑定すると、ブラッククロウと出た。
そのままじゃねぇか!と叫びたかったが、ここは敢えて弄らずスルーを決め込む。
コイツは山間部にも多発するらしく、その羽は装備の装飾などに使われる為、そこそこの需要があるらしい。
16階層目、ここはオレにとって嫌なフロアだ。
出現する魔物はゾンビだ。
ゾンビが襲ってくるこのフロアにはT-ウイルスが蔓延しているに違いない。
即座にファイアで焼き尽くしてウイルスごと燃やしてしまう。いや、多分ウイルスはないだろうが。
更には薄らとその姿が確認できるゴーストが邪魔をする。
そのままの意味でホントに邪魔をするだけなのだが、兎に角ウザい。
たまには自分がやると、マリーのホーリーで消滅させながら進んだが、その姿の確認に戸惑ってしまい少々時間が掛かってしまった。
17階層目、ここに現れる牛、ワイルドカウは少し時間を掛けてでも狩る事にした。
こいつの肉は最高級食材らしく、部位によっては1キロで数万とかになるらしい。
その為なるべく傷を少なく倒さなければいけなく、特に火魔法は厳禁だと言われた。
もう一種のダークリンクスは厄介さの割には素材は安く、冒険者には好まれる事のない魔物らしい。
それでもワイルドカウを集めるのに邪魔なコイツも一緒に倒していたら、かなりの数を討伐していたらしい。
18階層目、ここに出現する魔物は魔法を使ってきた。
体長が20~30センチ程で尖った耳に真っ赤な目、先が鈎状になった尻尾を持つ悪魔のような魔物、インプだ。
状態異常を起こす魔法を多用してくるが、稀にファイアなども混ぜてくる。
それでも動きは早くもないので攻撃は楽に当てる事ができた。
19階層目、蛇と言うよりコブラになるのだろうか。
鑑定で見ると、マスクスネークとなってるので蛇なのだろう。
攻撃性の高い蛇、それだけで特別な事は何もない魔物である。
それよりも別の魔物であるレッサードラゴンが厄介だ。
ドラゴンと名付けられてるだけあり、今までの魔物より確実に強い。
爪での攻撃と噛みつきで休む事なく攻めてくる。
それでもオレ達の相手ではなく、問題なく討伐していく。
そしてボスが待ち受ける20階層目、その入口の扉の前に立つ。
「あーやっと着いたな。ここを抜ければようやく休めるわ。」
「けど此処のボスってアイツよね。十分注意しないとこっちが殺られるわよ。」
何やら物騒な話をしている。
ここのボスの事らしいが、ヤバそうなので聞いてみる事にした。
「そんなに危ない魔物なんですか?」
「ああ、見た目はただの大きい鼠なんだけどな、雷を操る珍しい種族なんだよ。魔法だったら中級以上って事だからな。注意しろよ。」
雷を操る鼠と聞き、オレにはある物が頭を過ぎる。
いや、この時代を生きてる人類は大半の人がそれを連想するだろう。
「ソイツって黄色いですか?」
気になって聞いてしまった。
「いや、黒いな。黄色ってなんだよ。」
違うみたいだ。決してピカ◯ュウではないようだ。
名前もサンダーラットと言うらしい。
扉を開け中へと入っていく。
中にいたのは漆黒の鼠だ。エイルの話通りである。
入ると同時にディルが矢を射る。
しかし、いち早くそれを察知したサンダーラットは飛んでくる矢に向けて小さな電撃を放つ。
矢は一瞬で消え去り、サンダーラットはこちらに向け威嚇してくる。
オレとエイルは走りだし、左右からの挟撃体勢に入る。
しかしサンダーラットはまた電撃を放ってくる。しかも左右同時にだ。
エイルはそれを躱すが、オレは直撃は避けつつも左肩に食らってしまう。
避けながらだったので掠る程度だったはずだ。それでも激痛が走り、そこから先が痺れて動かない。
エイルはそのまま攻撃をするが、全身に球体の雷を出し防御している。
危険を察知したエイルも一旦下がることにした。
「あっぶねーなー。レイジ、大丈夫か?」
「はい。左腕が痺れましたが、もう動くようになってきました。」
このエイルとの会話中にある作戦が浮かんだ。
「エイルさん、今みたく攻撃仕掛ける振りをして球体の防御を出させてくれませんか?ちょっと考えがあるんで。」
エイルは承諾しサンダーラットにフェイントを混ぜながら接近していく。
オレはその背後を少し距離をとって追いかけていく。
そして、エイルが手に持つダガーを構えた瞬間また球体の雷で防ごうとした。
その瞬間オレは身体の後ろに隠しながら魔力を貯めていたウォーターボールを放つ。
その雷を吸収した水球はサンダーラットに二重のダメージを与え、サンダーラットは動かなくなった。
ギリギリ生きているようだったが、しっかり止めを刺した所で先へ進む扉が開いた。




