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私と買い物

「ほう、左様ですか」


坊ちゃまから預かったネックレスを包装してもらおうとそれの販売先の有名ブランドのコーナーのカウンターの前でお嬢様がこちらでドレスをお求めになったと聞かされた。


「はい。そちらにもよく似合いますので、大丈夫かと」


安心してそうですかと答えると店員が箱を開けて中を確認した。

それから後ろの棚から何かを取り出して見せてくる。


「実はお揃いのピアスがございまして、いかがでしょうか」


いかがでしょうかと言われても代理で来ている以上何とも答えようがない。

差し出された黒い布のトレーの上に置かれたそれは確かにネックレスと同じ薔薇がひとつずつ乗っている。

花自体も小さく中央にだけ配置されたダイヤもネックレスのそれよりは小さかった。


「私では決めかねますので、主人に聞いて参ります」


そう答えて暇を頂き、店のスペースから出て端へと寄り電話を取り出す。

あまりこういう事でお仕事の手を休めたくはないのだが、仕方ないと電話を掛けるとあっさりと坊ちゃまは電話に出られた。


『どうした?』

「実は相談がございまして」

『相談?』

「はい、今、デパートで包装をお願いしたのですが実は」


かくかくしかじかなのですと事情を説明する。


「ピアスの穴は開いてらっしゃいましたか」


そう尋ねれば坊ちゃまがううむと唸った。

普段、お目にかからない姿は私ではどうにも分かりかねる。


『確か、開いていたと思う。彼女が来た日にピアスをしていた』

「左様ですか、では、いかが致しましょう」

『そうだな、せっかくだから、一緒に包んで貰ってくれ。足りない分は後日とお願いしてくれないか』

「かしこまりました」


電話を切りその旨を店員に伝えると快く返事をしてくれ早速包装いたしますと頭を下げる。


「赤い包装紙に金のリボンでお願いいたします」


そう付け加えるとはいと元気な返事が返ってきた。

大急ぎで仕上げてくれたそれを受け取り封筒ごと店員に代金を払う。


「足りない分は後日でお願いしたいのですが、よろしいでしょうか」


えぇ、大丈夫ですと、前金扱いでそれを受け取ってくれ、請求書という形で残りの金額が書かれた紙を受け取る。


「では、確かに。主人に伝えます」


頭を下げ小さな紙袋を受け取って店を後にする。

いやはや高いものだ。

二つで軽くそこら辺の若者の月収を越えてしまう。

しっかりと袋を持ち足早に店を後にした。




お店の奥の小さな部屋へと案内されて立派なソファに座ると名刺を渡されて自己紹介をされた。

武井さんと仰るその方は素敵な40代くらいの男性だった。


「あ、笹川と申します」


慌てて立ち上がり頭を下げる。

どうぞ座っていただいて構いませんと落ち着いた口調で言われまた座りぼんやりと彼を見た。

というか、こんな部屋がある事自体知らなかったし、佐久間さんの名がそんな風に扱われていることも知らなかった。


「まずはお茶をお持ちします。お紅茶でよろしいですか?」


それは無料ですかと聞きたくなるのを堪えて頷く。

なんだ、これ。

お茶まで出てくるってVIP待遇過ぎる。

庶民にはもう分からない世界だ。

見計らったように女性の店員さんが紅茶をカップに淹れて持ってきてくれる。

目の前の背の低いテーブルに置く時に手が震えていたのは気のせいじゃない。


「あとは何をお求めになりますか」


自分だけ座っているのがすごく気まずくてカップを取って紅茶を飲む。

ティーパックのそれとは違ってすごく香りが良い。

たぶん、ブランド物だ。


「えっと靴と、バッグと。あとアクセサリーと、いや、必要な物全部です」


何も持っていない事が恥ずかしくてカップを置いて俯く。

そんな私を気にも留めないようにかしこまりましたと言い部屋を出て行く。


あれ、一人残されても、困るんですけど。

と、不安になり、残った紅茶をとりあえず飲んで立ち上がる。

いや、しかし、勝手に出るのはまずい。

うろうろしていると不意にノックがされて慌ててソファへと戻る。


「失礼致します」


彼を筆頭にずらりと数名の店員がそれぞれのカタログを持ちドアの先に立っていた。


「まずは靴から選んで頂きます」


へ?と首を傾げる。

売り場へは行かないってこと?

っていうか、それって……。

そう彼が言うと後ろに控えていた一人がカタログを持って私の前に立つ。


「ドレスにはこちらはいかがでしょうか」


開いたページにはたくさんの靴。

それのひとつを示されて、はぁ、と言いながら頷く。

ではお持ちしますと店員はその場から立ち去り次はコートのカタログが目の前に来た。


こうやって買い物をする物なのかと、思う。

白いファーが付いたロングコートを勧められ、もう、言われるがまま頷いた。





気付けばもう終業時間でベルで気付き伸びをする。

そうか彼女は佐久間の名を出したかと昼間の電話を思い出し笑みを浮かべる。

一人では何かと不安だったが店側がきっとフォローしてくれてるに違いない。

今日はまっすぐに帰ろうと立ち上がり身支度をしてオフィスを出る。

階段で下へと下りて皆に声を掛けてからその場を後にする。

自社ビルのそこは上の三フロアだけがオフィスであとは倉庫だ。

故にめったに立ち寄らないフロアをエレベーターが流れていくのを見ながらあっという間に一階へと着く。

受付嬢に見送られガラスのドアを出ると連絡もしていないのに酒井が待っていた。


「お疲れさまです」


頭を下げる彼と車へと行き乗り込む。

後部座席に昨日と同じようにアクセサリーの袋が置いてあった。

それを手に取り中を確認して頷く。


「悪かったな、手間を取らせて」


声を掛けると車を出すところでいえいえと首を振りハンドルを握った。

他愛も無い世間話をしながら自宅へと辿り着き車を降りる。


「もし差し支えなければですが、プレゼントは私が預かっておきましょうか」


その言葉にうんっと頷く。

確かに鞄に入れたらせっかく綺麗に仕上げてもらったリボンがつぶれてしまう。

酒井ならきっと自宅へと持ち帰り綺麗なまま保管してくれるだろう。


「お願いするよ」


そう答え胸元から小さな袋を出して彼に差し出す。


「お釣りなんて言ったのに足りなくて悪かったね」


彼がそれを両手で頭を下げながら頂戴いたしますと受け取り満足してマンションの中へと入った。

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