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私と彼の看病

彼が居なくなった隙に部屋を出て風呂場へと向かう。

パジャマと下着を脱いで洗濯機の中へ入れ浴室のドアを開けた。

もあっと湯気が顔に当たり暖かい空気が逃げないうちに中へはいる。

汗だらけの身体を手桶を使いお湯を浴びて軽く流し湯船に沈む。

はふっと息を吐き出し顔も半分くらい沈める。

いつもより温く感じるのはまだ微熱が残ってるからだろう。


あんまり長湯しない方が良いかなと考えしばらくして体が温まったら浴槽から出てさっとボディタオルにボディソープを付けて軽く全身をこすった。

手桶で泡を流し湯洗いで洗顔を済ませ風呂場を後にする。

バスタオルで水気を取り替えのパジャマに着替えて纏めていた髪を下ろす。

引き戸の扉を開け廊下にでると流石にひんやりとしている。

スリッパ代わりのデッキシューズをひっかけリビングへ向かう。

明かりが点いたそこでは彼が私を待ちかまえていた。


「さっぱりした?」


その問いに頷くと向かいの席に座るようにと促される。

部屋はとても暖かくなっていて、エアコンがフル稼働しているようだ。

キッチンに消えていた彼は小さな土鍋を手に戻ってくるとそれを鍋敷き代わりの新聞の上へと置き蓋を開けた。

ふわりと甘い香りが鼻孔をくすぐり中には真っ白などろどろのお粥が入っている。


作ってくれたんですかというように彼を見上げるとにこにこと優しく笑い横の食器棚からとんすいとレンゲを取ってくれた。

よく見るとお粥の上には梅干しと昆布の佃煮が乗っている。


「しっかり食べて治さないと」


そう言いつつお粥をよそってくれありがたくはふはふ言いながらそれを食べた。

よく考えてみれば2食ぶりくらいのご飯だ。


「美味しい?」


こくりと頷く。とろんとしたそれはちょうど食べ頃の温度になっていて塩が効いている昔ながらの酸っぱい梅干しと柔らかく椎茸と共に煮られた昆布がよくあっている。


「そうか、それならよかった」


テーブルに腕組みをしそれに顔を乗せて私を見ながら彼が言う。

ところでと思う。

壁の時計はもう午後2時を回っている。

それなのにどうしてここにいるんだろう。


「サボっちゃったんだ」


ははっと気持ち良いくらいに爽やかに彼は言ってのけ、私は反対にうなだれた。

もしかしてもしかしなくてもそれは私のせいだ。

その様子に大丈夫だよとにこにこ笑う彼が逆に痛ましい。


「でも佐久間さん怒られちゃいません?部下の方に」


がらがらしたおばあちゃんみたいな声で言うと彼は笑いを堪えながら首を振った。


「大丈夫、どうにかするから」


そうですか、と頷く。

どんなに心配したって結局私には何も出来ない。


「本当にすみません」


頭を下げた私に彼は手を伸ばしてぽんぽんと二回ほど撫でてくれた。

その手が気持ち良くて何だか覚えてるような気がした。


「笹川君だって俺が熱だしたら同じ事しない?」


確かにと思う。

するに決まってる大事件だ。

社長さんが風邪なんて引いて動けなかったら会社が大混乱だ。

あれ。

でも、私は社長じゃないし、でも、彼が社長じゃなくてもきっと看病する。

それって……。

なんか変なこと考えて顔が赤くなる。

そんな事あり得ないのにとあわあわする。

そんな私の様子にまた心配そうに彼が額に手をやる。


「まだちょっと熱あるね、洗い物とか良いから寝なさい」


ほらほらと急かされ立ち上がって自室へと戻った。

帰り間際にハイと渡されたのはコンビニで売ってるフルーツのど飴でありがたくさっそく封を開けてひとつ頂くことにした。

安っぽい甘さのオレンジはスースーと薄荷の味も混ざり喉を鋳やしてくれてそうだった。

飴を口に入れたまま横になる。

リビングの考えの続きが否応無く出てくる。

どうでも良い人の看病なんてしない。

例え同居人だったとしても会社を休んでまでしたりしない。

つまり佐久間礼は私のことを?


ぶはっとまた赤くなり胸もドキドキしてきた。

いや、もう止めよう。

変に邪推して彼を困らせるようなことはしたくない。

とにかく今は体を治すことを最優先にしないと、とベッドに置きっぱなしだった薬瓶から錠剤を出して残っていた水で飲みほして、目を閉じた。




彼女が部屋に引っ込んでからまあ一安心だなと携帯の電源を入れる。

起動画面を見つつうんざりした気分になる。

すぐに画面には不在着信52件の文字が浮かぶ。

52件て。

それをスクロールして確認する。

まあ大体は祐樹からで取りあえず掛けてみることにする。

深呼吸をしてからボタンを押し耳につける。

呼び出し音も禄にせずに祐樹が出た。


『あ?』


ヤクザみたいだ。嫌、俺が悪いんだけど。


「もしもし、俺」

『で?』

「いや、ごめん。すみません」

『で?』

「……申し訳ありませんでした」

『ま、終わったことだからな。もういいよ、七年突っ走ってきてるし。取りあえずお前は風邪って事にしといた』

「いや、本当に悪かったよ」


もう彼に足を向けて寝れないなあなんて思いながら電話の向こうがやけに静かなことに気づく。


「祐樹もしかしてまだ社に居る?」

『ん』

「うちの会社ノーザンじゃないの」

『お前はいつもしてんだろ。だからたまには俺だってな』

「分かった、今から行くよ」


ぷつっと一方的に電話を切ってすぐに酒井に電話をする。

もう寝ようと言う時間にも関わらず快諾してくれ、5分ほどで着くという。

ソファに投げっぱなしのネクタイと上着を身につけ鞄を持ってそっと玄関を出た。




かちゃんと小さな音がしてウトウトしていたのに目が覚めた。

彼が家から出ていったのだ。


俺の会社はノー残業なんだ。


そんな風に言っていたのに彼はいつも残業して帰ってくる。

そんなに忙しいのに休ませてしまったんだ、それでもうこんなに遅いのに今から行かなくちゃいけないんだと、一人で勝手に落ち込む。

涙まで出そうになって、それでいて、わがままな私が顔を出す。


一人にしないで欲しかったなぁ、と。

何だか寂しいなぁ、と。


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