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第8話 BAR再び

 家に帰り、わたしはあのBARのあるダンジョン、Dランクダンジョン『ヴァルラン』について調べた。

 攻略されてないだろうな……と思って調べたのだが、まったくと言っていいほど無傷だった。これはおかしい。Dランクダンジョンなんて初日でかなり探索が進むものだけど……。


 『ヴァルラン』の口コミを見てみる。


『今回のヴァルランムズ過ぎ。ゲート全然見つかんないし、落とし穴だらけで進めない』

『第2層行ったけど、第2層は分かれ道多すぎクソマップ』

『だっる! 最悪のアップデート! 早く誰か攻略してくれ! こんなダンジョン!』


 あーらら、皆さん苦労してらっしゃる。確かに変なマップだったかな。分かれ道の数は常軌を逸していた。わたしはユニークスキルを頼りに進んだから迷うこと無かったけど(帰りも来た道戻るだけだったしね)。


 この調子ならすぐに攻略される心配は無さそうだ。


「明後日は実技試験かぁ……」


 実技試験は確か試験官との1対1だったはず。

 試験官は協会が雇ったシルバーランク以上のシーカー。試験官側はハンデとして武器を使わず、魔法を中心として戦う。


「ん~、困ったな」


 コンボファイアは使えない。下手したら殺してしまう。

 コンボアイスで氷漬けにするのが1番手っ取り早いけど、詠唱の『隙』をどう埋めようか。


 受験者側(こっち)は武器・防具の持ち込みOKだけど、スクロールや消費アイテムの持ち込みはNG。ミノタウロス戦の時のように、スクロール魔法で隙を埋めることはできない。


 戦う場所は半径10m程の円形のフィールド。相手は魔法(飛び道具)中心。逃げ回って詠唱を済ませるのは現実的じゃない。そもそもわたしの逃げ足は、シルバーランク以上のシーカーには通用しない。


 わたしはあらゆる魔法に適性を持つ。だから強い魔法を単発で使うこともできる。けれど、シングルで魔法を使った場合はマナ消費が大きいし、熟練度が低いから強力な魔法でも弱くなってしまう。


 攻撃の手はコンボアイスでいい。 

 問題は防御。防御の術が必要だ。


「よし。明日、またあのBARに行って相談しよう」


 っと、一方的に教えてもらうばかりじゃ悪いから、ちゃんと手土産も持って行こう。



 --- 



 翌日。

 早速ダンジョン『ヴァルラン』に足を運び、秘境『ジョーカー・パーティ』の扉を開いた。


「ハロー、ウェルカム。マドモアゼル」


 前と同じで、ペンギンのマスターが笑顔で迎えてくれる。


「こんにちはマスター」


 BARには客が2人。

 客はわたしに目もくれず、酒を飲んでいる。飲み比べしている感じだ。


「どうしたのじゃエデン。顔が赤いぞ?」

「そっちこそ目がとろけてるぜ。ヘルプス」


 白髪のおじ、エデンさんと……赤毛のロリっ子が居る。蝙蝠のような羽と、悪魔然とした角を持つ赤毛幼女。この子も只者じゃ無いんだろうね……。


「お、2日振りだな。嬢ちゃん」


 エデンさんがわたしに気付いた。


「どうも」

「む? 何奴じゃそいつは」


 わたしはとりあえずカウンター席に居る幼女に挨拶する。


「第8次元の一般人です。氷室メメって言います」

「ほう。第8次元の人間を見るのは初めてじゃ。わしはヘルプス=ルドルフ=ケルト=H=マーズじゃ! ヘルプスと呼べ!」

「はい。ヘルプスさん」


 わたしはエデンさんの隣に座る。


「ヘルプスさんはどこ出身なんですか?」

「わしは第5次元の魔王じゃ! すでに世界は制しておる」

「へぇ~」


 もう魔王ぐらいじゃ驚かなくなってきた。


「ところで嬢ちゃん、またなにか困りごとか?」


 エデンさんは喜々として聞いてくる。久々に孫に会ったお爺ちゃんのようだ。ガテン系のツンデレお爺ちゃんね。


「はい。ですが、相談の前にこの前のお礼を」

「お礼?」

「マスター。物の交換は禁止ですけど、このBARの中でちょっと貸す分にはいいですよね?」


 ペンギンのマスターは頷き、


「はい。かまいませんとも」

「では」


 わたしは紙束をエデンさんに渡す。


「なんだいこりゃ」

「わたしの自作小説です」

「小説だぁ?」

「はい。つまらないものですが、こちらの次元の雰囲気や情報を効率よく伝えられるかな、と思いまして」

「なるほどな。俺がこっちの次元の情報を流している分、お前もお前の次元の情報を俺に流そうってわけか」

「その通り。情報交換です」


 こっちのちんけな魔法技術の情報じゃ、等価な情報交換にならないしね。こっちの文明の情報なら良い交換になるだろう。


「はっは! いいだろう。読んでやる」

「おい! 読んだページはわしによこせ」


 30歳までに大金を稼ぐ。その目標のため、1度志したのが作家への道だ。

 けどまぁ、どこに応募しても二次選考止まりで、その道は諦めた。いま読んでもらっている作品も落選したものだ。悲恋系の話。オーソドックスな話で、特に捻りも無い。


 流通している有名な本では無く、自作の小説を持って来たのは経費削減のためだ。自作小説はコピー用紙代だけで済むもんね。


 わたしはマスターから貰ったカクテルを飲みつつ、2人が読み終わるのを待つ。


「う、うぐぐっ……!」

「くぅ……!」


「え?」


 魔王2人は、目頭を押さえて泣き出した。


「なんということだ……なんで、もう少しちゃんと腹を割って話していれば……こんなことには……!」

「不器用じゃ……! なんて不器用なんじゃ、結子(ゆいこ)修二(しゅうじ)も……!」


「えぇ……」


 マスターがちょいちょいとヒレでわたしの肩を叩いた。耳を貸せ、ということだろうか。わたしはカウンターに耳を寄せる。


「……魔法等の技術は他の次元の方が圧倒的に進んでいますが、実は、文学においては第8次元が1番進んでいるのですよ」

「……ああ、そうなんですね」


 だからわたし程度が書いた本でもこんなに感動するんだ。


「嬢ちゃん、お前は天才だ。今年1泣いたぞ俺は……」

「わしもじゃ~!!! おおーん! おおーん!!!」


 にしても感動し過ぎでしょう。


「えーっと、じゃ、わたしの話をしてもいいですか?」

「ああ」

「わしも聞くぞぉ~!」

「実はですね……」


 わたしは自分の現状を2人に話す。

 話を聞き終えると、エデンさんは「ふむ」と酒を一口。そして、


「相手が魔法しか使わないなら、防御には魔法陣を使えばいい」

「魔法陣を……どう使うんですか?」

「魔法陣の特性は?」

「魔法やマナ等を留める、です」

「ならば、魔法陣を盾に使えば魔法は防げるだろう?」


 あー、なるほど。って。


「それは無理ですよ」

「なぜだ?」

「魔法陣は何かに描かないと使えないんですよ? たとえば、魔法陣を紙に描いて、それを盾にしたとします。相手が出した攻撃魔法が魔法陣に当たった場合、その器である紙にも攻撃は伝わり、器は魔法によって破壊され、魔法陣は魔法を吸収する前に消えてなくなる。壁にはならない」


 盾に魔法陣を描くというのはアリだけど、相手の魔法攻撃の余波で少しでも盾が凹んだら魔法陣は歪み効力を失う。わたしはそんな上等の盾を持ってないし、やっぱり魔法陣を防御に使うというのは難しい。


「はあ~~~~~~~~~~!」


 ヘルプスさんが大きいため息をする。


「おぬしの次元は、レベルがひっくいのう」

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― 新着の感想 ―
何か第8次元って、魔法とかは特にレベルが低いけど、文学以外にも音楽とか絵画とか漫画とか(笑)はレベル高いんじゃないかとか思えて来ました。
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