第5話 完全詠唱魔法
「創星の時来たり」
魔法の効果が上昇する。
「光より速く、風よりも鋭く」
魔法が一段階進化する。
「暗き闇を照らし」
マナ消費が減少する。
「天を焦がせ」
魔法威力が上昇する。
「連なる三ツ首は番犬の証」
次に発動する魔法を3発にする。
「踊れ火衝星――フレイム」
目の前に劫火が具現する。
巨岩すら飲み込む大きさ、鋼すら容易く溶かす灼熱。爆熱の炎の塊……それが3つ。
放つ。
目の前のゴブリン3匹とスライム10匹は跡形も無く消し飛び、3つの炎の塊は岩の壁に激突。壁にどでかい穴を作った。
「お、オーバーキル……」
これが、エデンさんの次元の『完全詠唱魔法』。
なるほど。わたしが使ってこのレベルなんだ。『お前んとこの魔法、レベルひっく!』と言われても仕方ないなこりゃ……。
しかも、まだこの『先』がある。なんせわたしはまだ全然どの魔法も慣れていない。熟練度が低い。適正と熟練度は別。あらゆる魔法が使えるようになったと言っても、まだどの魔法もレベル1程度。
それで、この威力。
一体、バフ魔法も攻撃魔法も全部極めた状態で撃ったら……どうなるんだコレ。
「無詠唱で撃つと1つ1つの魔法の効果が30%以上落ちる……単独ならまだしも、『コンボ魔法』でそれぞれの魔法の効力が30%落ちると考えると、かなりの威力ダウンだ」
時間短縮のメリットより、威力低下のデメリットの方が大きくなる。ただ、無詠唱は無詠唱で使いどころが無いわけじゃない。咄嗟の時に完全詠唱魔法は使えないからね。無詠唱で魔法が撃てるよう努力することも無駄じゃないだろう。
エデンさんと勇者さんに教えてもらったこのコンボ魔法の詠唱文、凄く良い。わたしの知っている詠唱文を全部繋げたら相当な量になるけど、2人が考えてくれた詠唱文は短い。ホントに短い。そのせいか、バフ系魔法は攻撃魔法を撃つと同時に全部切れちゃうけども。
「……詠唱文の変更、魔法名の省略……これを酒の席で簡単にやっちゃうんだもんなぁ」
難しいのはMP管理……マナ消費はクラウンスキルの賢者と魔法のダウンで大分軽減しているけど、それでもわたしの総MPの3分の1を1度に持っていかれる。
しかし、この程度のマナ消費でこれだけの火力が出せるのだ。凄い、凄すぎるよ。この魔法があればシーカーの最初の壁、ミノタウロスにだって勝てるかもしれない。
「次、エデンさん達に会ったらちゃんとお礼しなくちゃ」
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散々魔法の試し撃ちをした後、わたしはダンジョンを出た。すっかり外は夜だった。
家に帰り、畳の上で1日を振り返る。
朝、ダンジョンでBAR型秘境発見。秘境で極上の酒を飲み、エデンさんと勇者さんに魔法を教えてもらう。ついでに2人と飲み友になる。
昼、秘境からダンジョンへ帰還。魔法を試す。結果、『コンボフレイム(命名:わたし)』と『コンボアイス(命名:わたし)』を習得。
夜、家に帰り、今後の予定を考える。
「……狙おうか。昇格」
ビギナーランクシーカー卒業の時は来た。
シーカーのランクは7つ。
ビギナーランク。
ブロンズランク。
シルバーランク。
ゴールドランク。
プラチナランク。
ステラランク。
マスターランク。
ビギナーランクからブロンズランクに上がる条件はミノタウロスの角をギルド協会に提出すること(同格のモンスターの一部でもOK)。角を献上した後、実技テストを受け、合格すると昇格となる。
シーカーランクの高さは強さの証明。ギルドに入りやすくなるし、使えるショップも増えるし、使えるアイテムも増える。受けられる講習も増える。ダンジョンへの入場料も安くなる。良いことずくめだ。
これだけ強力な魔法を使えるようになったんだ。狙わない手は無い。
驕りはない。いくら火力を手に入れたからって、防御面は依然として雑魚。ミノタウロスは牛面の人型モンスターで、背は3m、手には巨大な斧を持っている。1撃受ければ死ぬ。互いに1撃で死ぬ。条件は五分と言っていい。
「勝負を分けるのは……戦術」
ミノタウロスは『原初のダンジョン・オリジン』の5層に存在する。
オリジンは異空間型ダンジョン。全ての層が異空間。1~4層は樹海で、5層は火山だったかな。ミノタウロスの出没頻度は低いけど、時間をかけて歩き回っていれば必ず出会うことができる。
火山……開けた場所だ。不意打ちを喰らうことは無い。
スキルの逃げ足で他のモンスターとの戦闘は避け、ミノタウロスを見つけても逃げ足で距離を取りつつ詠唱し、コンボ魔法を発動させて倒す。
「大筋はこんな感じ。逃げ足を十全に活かすために装備は軽めでいこう」
なんか……楽しい。
今までは戦術以前の問題だったから、こうやって『勝ち筋』を作れることが嬉しくて楽しい。
それに、エデンさんや勇者さんから聞いた別次元の魔法の話も興味深かった。
魔法は思っていた以上に奥が深い。もっと探求したい……『魔法の真髄』を。
◆BAR『ジョーカー・パーティ』◆
第2次元の勇者と第3次元の魔王は氷室が帰った後も酒を飲み明かしていた。
「しっかし! 面白い子ですね。あの第8次元の!」
「ほう。お前も気づいたか。奴の特異性に」
「はい。ステータスには表示されない部分……あの子には誰に対しても物怖じしない度胸があります。それにすぐにこの場や我々に慣れた順応性……あれらは後天的に身に着けられるものじゃない」
「俺もお前も、威圧だけで花を枯らせ、水を干すことができる。雑魚なら覇気だけでショック死させることもできる。だがあの小娘はどうだ? 大魔王と不敗の勇者を前にして、普通に話していたぞ」
「彼女なら、他の客相手にも対応できそうですね」
話す2人のもとに、マスター・ペンギンが作った焼き鳥が配られる。
「第4次元に生息する酒鳥バリバリスの壺焼きと、第5次元に生息する怪鳥ドンダリの燻製です」
「「おぉ~!」」
2人は串を手に取り、焼き鳥を頬張る。
「それにしても、ウチの次元は相変わらずつまんないですよ。俺にビビッてモンスターは悪さしないし。世界は平和平穏。モンスターどころか人間まで俺を恐れおののく始末……どいつもこいつも奴隷みたいにへりくだりやがる」
「それはこっちも同じだよ。骨のある奴が1人も居らん! これだけ鍛えたというのに、全力を出せる相手が居ないのは寂しい事この上無い!」
「あーあ! マオさんが俺の次元に居たらなぁ!」
「ホントそれなぁ! 絶対、俺達は同じ次元に居るべきだったよなぁ!? お前なら俺の好敵手になれたわ!」
酒が入り、愚痴が加速する2人。
マスター・ペンギンはやれやれといった感じで次のカクテルを用意するのであった。
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