第4話 別世界の魔法理論
魔法はマナを消費し超常の現象を起こす技。
それぞれの魔法には適正があり、適性が無い魔法は使用できない。魔法にはそれぞれ長文の詠唱文があって、その詠唱文を唱えることで発動できるが、極めれば詠唱文を省略することができる。熟練のシーカーは魔法名すら言わず、無言で魔法を発動できるらしい(俗に言う無詠唱魔法)。
他にも魔法陣が描かれたスクロールを使うことで魔法を発動できる。スクロールの使用には一切のマナ・適正は必要無い。
魔法よりもダンジョンで手に入れた武具やスキルを活かした武技の方が強力なため、魔法を主体に使うシーカーは少ない。あくまで魔法はサブウェポン。
これがわたしの知っている『魔法』。
「レベルひっく!」
第3次元の大魔王エデンさんは、わたしの魔法の説明を聞いて呆れてしまった。
「俺がお前の世界に行ったら10分で世界征服できるな。間違いない」
あまりにわたしの世界を馬鹿にしてくるので、さすがにちょっとムッとする。
「では、あなたの世界の高レベルな魔法とやらを教えてください」
「いいだろう。お嬢ちゃんの世界じゃ、完全詠唱魔法は無能の証、だったか?」
「はい」
魔法は手軽に使えてこそ。あくまでサポートの技術たる魔法を、時間かけて詠唱する……なんてことはしない。魔法に時間を使うぐらいなら殴った方が早い。詠唱文を省略できないのに魔法を使う人間は『馬鹿』と言われる。完全詠唱魔法は無能の証明だ。
「詠唱省略にデメリットは?」
「詠唱を省略する、あるいは無詠唱で魔法を使えば完全詠唱魔法より威力は30%~50%程落ちます」
「俺の世界と同じだな。なのに詠唱省略を推奨しているのか。救えねぇな」
エデンさんはため息交じりに、
「俺の世界じゃ無詠唱魔法こそ下手くその証、というか無知の証だった。普通は魔法はしっかり詠唱する。なんせ完全詠唱魔法は無詠唱魔法の100倍の威力を出すからな」
「え……?」
「ま、俺ぐらいになると敢えて無詠唱で魔法を使うがな。手加減のために」
わたしたちの世界じゃ完全詠唱魔法の威力を100とするなら省略魔法の威力は70程度。そこまでの差は無い。詠唱を省略できるメリットの方が大きい。けど、エデンさんの世界じゃ100倍差……? それなら全然、詠唱に時間を取られても――
「幸いにも俺とお前の世界の魔法体系は似ている。レベルに大きな差はあるがな」
エデンさんはお酒を飲みながら、第3次元の『魔法』を教えてくれる。
「いいか嬢ちゃん、俺の世界じゃ魔法ってのは単発ではまず使わない。魔法は合わせ技、色んな魔法を組み合わせて使うのが当たり前だ」
「はあ」
「合わせる魔法全てを詠唱し発動させることを、こっちの世界じゃ『完全詠唱』と呼んでいる」
いまいち要領が掴めない……。
「1番初歩の魔法構築を教えてやろう。
一定時間魔法の効果を上昇させる魔法『バグ』、
一定時間攻撃魔法を1段階進化させる魔法『アル』、
一定時間マナ消費を抑える魔法『ダズ』、
一定時間魔法威力を上げる魔法『ビジャ』、
次に使う魔法を3度発動させる魔法『シザーズ』。
これらを連続で発動させ、最後に攻撃系の魔法を発動させるんだ」
バフ系の魔法をひとしきり使ってから攻撃系の魔法で締める……か。これは、確かに有効かも。
「む? もしや、いま俺が挙げた魔法はそっちの世界じゃ無いのか?」
「いいえ、あります。ただ名前は少し違いますね。
魔法効果を上げる魔法は『ゲイン』、
攻撃魔法を進化させる魔法は『エボルヴ』、
マナ消費を抑える魔法は『ダウン』、
魔法威力を上げる魔法は『バースト』、
魔法を3度発動させる魔法は『トライアングル』。
確かにこれらを全て使用すれば魔法の威力は大きく上昇するでしょう……ただわたしには不可能ですね」
「なぜだ?」
「それらの魔法全てに対し適性を持ってません。わたしはバフ系の魔法も覚えようと努力しましたが、会得できたものはありませんでした」
わたしでなくとも、いま挙げられた魔法全ての適性を持つ人間なんてまず居ない。
「魔法の適性は人為的に上げることが可能だ。超簡単にな」
なんですと。
「ただ、お嬢ちゃんはもう何もせずとも全ての魔法に対し適性を得ているよ。ステータスを見てみな」
「?」
わたしは言われるがまま、「ステータスオープン」と口にし、目の前にステータスウィンドウを発生させる。
■名前:氷室メメ
■レベル:15
■ステータス
HP:230
MP:120
STM:320
STR:98
DEF:78
AGI:201
LUC:401
■ユニークスキル
・秘境発見
■クラウンスキル
・賢者
■スキル
・逃げ足
■魔法
・フレイム
・アイス
■耐性
・なし
■弱点
・なし
「賢者……?」
知らないスキルだ。
わたしは賢者の部分を指で触れ、説明文を開く。
『全ての魔法に適性を持ち、全ての魔法を通常の半分のマナで使用できるようになる。 習得条件:神と対話すること』
???
やばい。ハテナマークしか頭に浮かばない。
「スキルを習得する方法を全て答えよ」
エデンさんが問題文を投げかけてくる。
「レベルを上げる。なんらかの偉業を成す。スキルスクロールを使用する。モンスターを取り込む……」
「お前は2つ目を成したわけだ」
クラウンスキル……称号スキルとも呼ばれるそれは、偉業を成すことで得られるもの。ダンジョンを100回攻略するとか、ドラゴンを1000匹討伐するとか、そういう凄い事をして得られるものだ。
でも、これ……。
「賢者の習得条件は神と対話すること……? わたし、神と対話した覚えなんて――あ」
もしかして。とわたしはエデンさんを見る。けどエデンさんを手を振って否定する。
「ないない。確かに俺様はすんご~い大魔王だけど、断じて神じゃない。お前が対話した神は、そっちだよ」
エデンさんが目をやった先には、グラスを拭くペンギンの姿があった。ペンギンはわたしの視線に気づくと、ポッと顔を赤くした。
「マスターは神様の1人だからな。いや、神よりも上か」
「お恥ずかしい」
「え、えぇ!? じゃあ、エデンさんよりも上……!?」
「おうよ。ていうか、比較対象にならないよ。色んな意味で次元が違う」
「お恥ずかしい」
このペンギン……何者!?
「さぁ、残る障害は詠唱文か。お嬢ちゃんの世界じゃどうせ詠唱文も無駄に長いんだろ。あ、マスター、ペンと紙ナプキンもらっていいか? 嬢ちゃん向けの複合詠唱文をちょちょい書くからさ」
このおじ様も、何者……?
「――ちわーっす。って、あれ? なんかかわいい子居ますね」
『2』と書かれた扉から、知らない青年が現れた。
「どうもはじめまして。オレ、第2次元の勇者です」
「こ、こんにちは……第8次元の一般人です……」
「第8次元の人!? うっへぇ、始めて見た。って、あれ? 魔王さんはなにしてんすか?」
「ん? いま新入りの嬢ちゃんのために複合詠唱文をな……」
「へぇ。あ、そこもっと簡単にできますよ。この文を加えた方が威力も上がって……」
「ああ、なるほど……そういう解釈もアリか」
こらこら……魔王と勇者が合作で詠唱文を作り始めたよ……。
このBAR、一体なに!?
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