第3話 ジョーカーが集まるBAR
バーだ。BARだ。間違いない。
これまで訪れた2つの秘境はこんなんじゃなかった。片方は小島、もう片方は雲の島だった。どっちもファンタジーだった。
でもここはBARだ。明らかに人工物だ。
あのペンギンはバーテンダー……なのだろうか。黒い長帽子を被って、タキシードスーツを着ている。手に持ったグラスを、それは丁寧な手さばきで拭いて……手? ヒレか、アレは。
カウンターテーブルには1人だけついている。白いロン毛のおじ様だ。渋い。マントの付いたダークなスーツを着ている。吸血鬼とかがしそうな恰好だ。筋肉質で、胸板が厚い。
「第8次元からお客様が来るのは初めてですね」
ペンギンが喋った。
「第8次元……?」
「ここは8つの次元と繋がるBAR、ジョーカー・パーティでございます。全ての次元の中心点であり、特異点。ま、ただのBARですね」
いや、明らかにただのBARじゃありませんけども。
よく見ると、わたしが入ってきた扉以外にも8つの扉がある。カウンター外に7つ、カウンターの中に1つ。それぞれ別の次元に繋がっているのだろうか。
「おっと、ご紹介が遅れました。私はこのBARのバーテンダーであり店主の『マスター・ペンギン』です」
やっぱりペンギンなんだ。
「あの、わたし……」
「お嬢ちゃん」
白髪のおじ様が手に持ったロックグラスをカランと揺らす。
「BARに来ていつまでも突っ立てるなよ。座りな」
「は、はい……」
わたしはおじ様から2席空けて座る。
「こちら、当店のルールでございます」
マスターから1枚のラミネート加工された紙を渡される。紙には7つのルールが書いてあった。
・1つ、店内における暴力行為・戦闘行為禁止。
・2つ、客同士の物品交換禁止。
・3つ、他次元(自分が住んでいる次元と違う次元)へ飛ぼうとする行為禁止。
・4つ、マスターの言いつけは絶対。
・5つ、不法侵入禁止(不法侵入者は店内の全員で排除しましょ♪)。
・6つ、飲食の持ち込みはマスターが許可すればOK。
・7つ、お酒は二十歳になってから(ノンアルカクテルもあるよ♪)。
暴力行為は禁止か。ちょっと安心。
いまカウンターに座っているおじ様、明らかにレベル違うし、襲われたらどうしようもないからね。穏やかな感じだからそんなことしないと思うけど。
「お飲み物は何にいたしましょう?」
「あ、えっと……」
カウンターにあるメニュー表を見てみる。
「ね、値段が書いて無いんですけど……」
「全て無料ですよ」
逆に怖い。
「メニューにあるもの……何もわからない。お、おすすめでお願いします」
「かしこまりました」
マスター・ペンギンは酒棚に体を向ける。
「お嬢ちゃん。ここに来る人間にしては、よわっちそうだな」
「え、えっとぉ……」
「俺はエデン。第3次元の魔王だ」
「ま、魔王……!?」
嘘……じゃないかも。纏うオーラは魔王っぽい。いや、魔王なんて見たことないけどさ。
「わたしは氷室メメです。シーカーをやってます」
「シーカー? なんだいそりゃ」
「ダンジョンを漁って、持ち帰った物品を売ったりして生活している者です」
「冒険者みたいなもんか。しかし、お嬢ちゃんじゃミノタウロスにも勝てないんじゃないか? レベル15って、なんの冗談かと思ったぜ」
なんでわたしのレベルわかるんだこの人……。
「レベルの低さを補えるだけのスキルや魔法でも持ってるのか?」
「いいえ。スキルは……逃げ足という逃げる速度が上がるものだけ。魔法は、初級レベルの火炎魔法と冷気魔法しか使えません」
「はっはっは! それは弱すぎる。よーし、この大魔王エデン様がいっちょ教育してやるよ」
「教育?」
「こっちの魔法を教えてやるよ」
他次元の、魔法!?
「え、いいんですか? そういうのしちゃって……」
「ここは情報の交換は禁止されてねぇからな。今日の俺は美味い酒が飲めて気分が良い。特別大魔王サービスだ」
い、いいのだろうか。魔王に教えを乞うなんて。本当にこのおじ様が魔王かどうかはまだわからないけどさ。いや、きっとこの人は本当に魔王だよ。直感がそう言ってるよ。
怖いけど……でも、現状わたしの成長がどん詰まっているのは事実。このままじゃどう頑張ってもスローライフなんて無理だし……。
「よろしくお願いします」
魔王の手も借りたい状況だ。
「任せな。まずはお嬢ちゃんの世界の魔法体系を教えてくれ」
「魔法体系……ってなんですか?」
「魔法のシステム、仕組みさ。次元によって魔法の在り方は違うからな。科学で魔法を作ったり、精霊に魔法を使わせたり。中には巨大ロボットで魔法を扱う世界もあったっけな」
と、ここでカクテルが到着した。
「ヴァリュプラッチェでございます」
エデンさんはカクテルグラスに手を向ける。『まず飲め』ってことだろう。
「ま、まったく知らないお酒です……」
海を思わせるアクアマリン色のお酒だ。綺麗……。
「第2次元の深海にのみ存在する果物『ヴァリュス』の果汁と、第3次元に存在する黄金林『プラッチェ』の樹液を混ぜたカクテルになります。深海のように深い味わいですよ」
なにを言ってるか全然わからないけど、とりあえず飲んでみよう。
カクテルグラスを手に持ち、口を付ける。
「……!?」
海に――落ちた。
深海だ。どんどん深く、落ちていく。暗闇に落ちた……と思ったら、急に体は浮上を始め、海を物凄いスピードで上がっていった。太陽の光がとんどん近づいてきて、気付いたらわたしは海から飛び出し、快晴の空の下へ飛び出していた。
照り輝く太陽、ネイビーの海、水色の空。全身を爽やかさが駆け巡る――
「おいっっっしい……!」
口に入れた瞬間はアルコールを強く感じた。深くズッシリと来る味だった。けれど舌を通ると甘く爽やかな味と香りが口内に広がった。このギャップが本当に心地よくて、凄まじい爽快感を得ることができた。ここまでの疲れが一口で溶けた……凄いなコレ。
「マスターの入れる酒は全次元でナンバーワンさ」
誇らしげにエデンさんは言う。
「確かに。少なくとも、わたしが今まで飲んだお酒の中では1番美味しかったです」
「ありがたいお言葉です」
ペンギンのマスターはニッコリと笑う。かわいい。声は低いけど。
「あ、そうだ。魔法の話でしたね」
わたしはお酒から魔法へと話を戻す。
わたしはわたしの次元、第8次元の魔法体系について詳しく話す。話が進むにつれ、エデン様の顔は困惑の色を見せ、最後は苦笑した。
そしてエデンさんは、わたしを思いっきり見下した顔で、こう言い放った。
「お前んとこの魔法、レベルひっく!」
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