第20話 強者の日常
氷室が拳銃自殺した後、魔王エデンは右手から薄紫の光を発し、氷室の全身を光で包み込んだ。
勇者ミーティアは氷室の体を抱き上げ、BARのソファーに寝かせる。その後で、ミーティアも右手から青白い光を発し、先ほどのエデンの光と融合させる。
「これで良し」
ミーティアが指を鳴らすと、血の跡は全て消えて無くなった。簡略化した浄化魔法である。
「さすがエデンさん。魂の保管と肉体腐敗阻止を同時にやるとはね」
「お前さんは止血と……肉体組成記録をしているのか」
「必要無いとは思いますけどね~。念のため肉体の情報を保存して、最悪義体を作れるようにしました。魂さえあれば義体に入れて復活できる。その場合は一般人以下の能力になりますが、死ぬよりかはマシでしょう」
ミーティアはエデンの隣に座り直す。2人は氷室に掛けた魔法を維持しながら酒を嗜む。
「しかし、ホントにやりやがるとはな」
「やっぱメメちゃんの度胸凄いっすね。オレはさすがに、他次元の人間を信じて死ぬなんて無理だわ……」
「馬鹿だな」
「アホですね~。そこが可愛らしいんですけど」
マスター・ペンギンは2人の会話にくすりと笑う。
「だがどうするよ。レベルの上限が上がったところで、テレポート使いを相手にするのはきついぜ」
「相手はインファイターなんでしょ? だったらオレの勇者剣で……」
「いやいや、俺様の超魔拳が……」
「残念ですが、お2人の技は氷室様にはまだ早いかと」
マスターは2人の前に枝豆を置く。
「マスターには、何かアイディアがあるみたいだな」
マスターはグラスを拭き、
「明日、第4次元のジュリザード様がいらっしゃいます。彼女に任せましょう」
うげっ。と、勇者と魔王は苦い顔をする。
「ジュリ婆かぁ。武術といえばあの人だけど……」
「もう120歳だろ。人間の120歳といえば死んでいてもおかしくない歳のはずだ」
「おかしくないというか、死んでます。普通」
「人にモノ教える体力あるのかよ」
「それは問題ないんじゃないっすか。あの人のパワフルさならね」
2人は思い出す。ジュリザードが酒に酔い暴れた日の事を……魔法やスキルを使わなかったとはいえ、たんこぶ&打撲を作る羽目になった時の事を……。
「それにしても嬢ちゃんはわかってるのかねぇ。このまま強くなったらどうなるか」
「本人はスローライフを望んでますけど、強者にそんなものは許されない」
生まれついての強者である2人は語る。
「安く息をできるのは雑魚だけさ。強けりゃ必然と責任を乗せられる。厄介事を押し付けられる。強者に安息はねぇ」
「最強は不自由ですよ。オレはさ~、まぁまぁの騎士になって、そこそこの貴族が住んでるお城に勤めてさ、仕事は真面目にやって、休みの日は女の子をナンパして、たまに良い思いもすれば、たまにビンタと罵声を喰らったりして、そんな風にのんびり生きていきたかった。なのに」
ミーティアはワイングラスを掲げる。
そのグラスに映る自分の顔を見る。
「よくわからん剣を引き抜いた瞬間、このあり様ですよ。世界を救えと言われ、巨悪を全部倒したら四六時中悪党に狙われるようになってさ。知的生物を何千万体殺したことか。王様や貴族には恐れられ、民衆からは讃えられ。飲みに行けば頼んでも無いのに豪華絢爛な食事を出された。街を歩けばみんな膝をついて頭を下げる。女の子をナンパすれば仮面のような笑顔で頷かれる。年下も同い年も年上もみんな様付け……あー、嫌になる」
「嬢ちゃんはどうなるかね。俺達と同じ道を辿るのか、はたまた全く別の道を見せてくれるのか……」
2人は酒を飲み干し、同時に「おかわり」と口にした。
好きなお酒
氷室→カクテル
エデン→ウォッカとワインを交互に飲む
ミーティア→安酒(高級酒は口に合わないらしい)
ノア→ワイン系(赤ワインに限る)




