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第21話 上限解放

 暗い海をひたすら落ちていた。

 真っ裸で落ちていた。

 見上げた先には水面があって、水面の先には黒い太陽が見える。

 無気力。なにもやる気が出ない。泳いで上に行こうとか、呼吸をしようとか、一切考えられない。

 この世界はなに? 死後の世界?


『残念。君はまだ死んでいないよ。お姫様』


 耳に声が届いた。

 男性の声だ。優しい、声だ。


『ごめんね。こんな方法とらせちゃって。僕達だって恨みがあって呪いを掛けたわけじゃないんだ。条件反射みたいなものでね』


 まさか、この人――


『推測は間違っているけど、呪いを緩和させる方法としては正しい。生と死の狭間に居る君なら、魂のみが浮いている君なら、こうして話ができる』


 海の中、わたしは誰かに後ろから抱き締められた。

 ゴツゴツとした手が、わたしの唇を結ぶ。

 耳元で、誰かが喋る。囁き声が、脳に響く。


『……これで、呪縛は緩んだ。またね姫様。今度はお互いの顔を見て、お互いの目を見て、話をしよう。自信を持って……君はとても、魅力的な女性だよ』


 全身を包む海の感触が――消える。



 --- 



「ッ!!!」


 上半身を起こす。 

 瞼を全開にする。

 周囲を見る。 


 見知ったBARだ。BARのカウンターには可愛いペンギンが居る。


 傍にはわたしに対して手をかざすエデンさんと、グラス片手に笑っているミー君が居る。

 わたしは自分の頬を触る。感触がある。触る感触も、触られる感触も。次にエデンさんの頭を触ってみる。おじ様の少しパサっとした髪の感触が、手に当たる……。


「……なんのつもりだ、嬢ちゃん」

「いえ、生きていることの確認を」

「それでなぜ俺を触る?」

「さて、なぜでしょう」


 まだ頭が少しボーっとする。

 わたしはソファーから立ち上がり、グッと全身に力を込める。


「どうやら大丈夫そうだな」

「はい、万全です。良かったぁ……ちゃんと生き返れて」

「喜ぶのはまだ早いんじゃない? レベルの上限が上がったかどうか、重要なのはそこでしょ」

「そうですね。早速試してきます」


 第8次元に繋がる扉へ歩いていく。


「お待ちください氷室様」


 マスターに呼び止められた。わたしはカウンターの方を振り返る。


「なんでしょうか?」

「明日の夜、またこちらへいらしてください」

「……? はい。予定は無いのでいいですよ。それでは」


 足早にBARを出た。いまはいち早くレベルが上がるかどうかを試したかったから、話は長引かせなかった。


 レベルが上がらず、絶望した日々。わたしはあの暗闇から本当に抜け出せたのか。


 洞窟(ダンジョン)を歩き、モンスターを探す。


「来たね」


 泥が地面から湧き上がり、小鬼(ゴブリン)犬人(コボルト)巨大手(ハンド)の形になる。

 正式名称はクレイゴブリン、クレイコボルト、クレイハンド。粘土質のモンスター達で、物理攻撃に強い。けど魔法には弱いので、


「踊れ火衝星――フレイム」


 完全詠唱コンボフレイムで焼き払う。

 そして手をかざし、ステータスウィンドウを出す。


「上がっている……」


 レベルが16に上がっている。

 スライムを1000匹倒しても上がらなかったレベルが、ミノタウロスを倒してもビクともしなかったレベルが……上がっている。


「よっっっっし!!!」


 嬉しい。これで、『努力が実る』!


「まずはこの階のモンスターを狩って、レベルを20まで持っていこう。この階のモンスターは実力で言えばわたしより下だけど、レベルはわたしよりも上。1日で20まではいける……!」


 まさかまたレベル上げができるなんて。

 わたしにはコンボ魔法がある。だからジャイアントキリング……格上を倒すことも可能。レベルの離れた相手を倒せば経験値が大量に貰える。レベルは簡単に上げられる。


 順調にいけば、決戦の日までにレベル40はいける。


「……少し、少しだけだけど……希望が見えてきた……!」


 しかし、この時のわたしは知らなかった。

 次の日に思いもよらぬ地獄が待っていることを。

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