第19話 レベルキャップの真実
呪われている?
わたしが? 他のシーカーも?
「な~るほどね。精霊を取り込めばそりゃレベルもマナも得られるわ。神秘を獲得すればそれらは得られる。でも、勝手に精霊取り込んだらやばくない?」
「やばいだろう。そこらの魔族だったら余裕で拒絶反応で死ぬぞ」
何を話しているのかさっぱりわからない。
「いいかお嬢ちゃん。精霊ってのは、地球を巡る自然エネルギーと精神エネルギーが融合して生まれる神秘生物だ。そんで、精霊石ってのは恐らくその精霊が何らかの手段で石にされて出来たブツなんだ」
なるほど?
「飲めば確かに超常の力を得られる。だがな、精霊には意思がある。防衛本能がある。無理やり他生物に摂取されたとなっちゃ抵抗もするさ。その抵抗ってのが……」
「呪い……」
「そう。レベル制限ぐらいで済んでいるならまだマシだぜ。全然、呪いで死ぬこともあり得る」
シーカーを志望する際にはシーカーの適正検査を受ける。血液とか尿とかとられて適性を測られるのだ。検査で弾かれる人間も大勢いる。
もしかして、あの検査で測っていたのは『呪いへの強さ』だったりするのだろうか。
精霊石を吞んだことで死んだ人間は記録上存在しない。けど、あの弾かれた人達がもしも、精霊石を口にしていたら……。
「呪いは子世代にも続くだろうな。第2世代だったか? そいつらも漏れなく呪いを受けているだろうぜ。精霊石を飲んだ連中よりは呪いのレベルは低いだろうが」
そういえば第2世代は第1世代に比べ、レベルの上限が高いと聞いたことがある。
エデンさんの言っていること、合ってるかも……。
「の、呪いを解く方法はあるんですか?」
「ある」
「教えてください!」
「対話だ。自分の内に居る精霊と対話し、和解すれば呪いも解いてくれるさ。でもいまはやめておけ。お嬢ちゃんのレベルで精霊と向き合ったら、間違いなく精神を喰われて体の主導権を持っていかれるぞ」
それは困る。
「じゃあ、レベルの上限を上げることはできないんだ……」
「いんや、できんじゃね?」
ミー君が軽い調子で言う。
「ミー……」
「あ、マスター! 第3次元の枝豆追加ね!」
「かしこまりました」
「いや、枝豆よりも!」
わたしはつい立ち上がってしまう。
「レベルの上限、上げられるの!?」
もしそれができたなら、わたしの世界で言うとかな~~~~~~~り凄いというか、ヤバいことなんだけども。
「うん。呪いを解くことは無理だけど、緩和はいけるっしょ」
「その方法、教えて!」
「死ねばいい」
「え……?」
「精霊に餌を与えなければ呪いは弱くなる」
ミー君は珍しく真面目な顔をして、
「精霊は自然エネルギーと精神エネルギーを糧にしている。いまもメメちゃんの内に居る精霊はメメちゃんの中でメメちゃんの自然エネルギーと精神エネルギーを吸収して生きているわけだ。メメちゃんが食べた物や呼吸と共に取り込んだ外気から自然エネルギーを吸収、メメちゃんが抱いた喜び、怒り、悲しみなどの感情から精神エネルギーを吸収している」
「でも……精霊石を飲んでから呼吸が浅くなったとか、感情が薄くなったとか無いけど」
食べる量も変わっていない。
「量自体は微々たるものでいいんだ。最低限生きて、宿主に呪いを掛けるだけならね。でもさ、メメちゃんが一切のエネルギー供給を絶ったらどうだろう? メメちゃんが食事をせず、空気を吸わず、精神も無にしたら?」
「精霊は呪いを掛ける余力が無くなる?」
「そう!」
「で、どうやって死んで生き返るの?」
「それは……あれ、メメちゃんとこは蘇生できないの?」
できません。仮死状態でもいいのなら、最新の医療技術を使えばなんとかなるだろうけど……『レベルの上限あげたいんで仮死状態にして復活させてください』、なんてどこの病院も聞いてくれないだろう。
「マスター」
エデンさんがマスターに声を掛ける。
「なんでしょう」
「店内で禁止されているのは戦闘行為だ。他者を治すだけなら問題無いよな?」
「はい」
「ならお嬢ちゃんが自殺して俺が治せばいい。俺は死後1時間までなら蘇生できる」
「……」
それはそれで無茶苦茶な。
「しかし、賭けだな」
「大体30分ってとこですかね。30分死ねば、精霊は生きたままで呪いだけを弱くできる。精霊が死んじゃったらレベルまで失うから、やり過ぎはダメだ。つっても、精霊の強弱なんて様々だし、宿主が10分死んだだけで息絶える精霊も居る……ここの調整は難しいですね」
この2人をもってしても『難しい』か。
「疑問なんだけど、1度精霊を弱らせたからって、またわたしが万全になって精霊もわたしのエネルギーを吸収して万全になったら、また呪いも強まるんじゃないの?」
「呪縛ってのは1度緩めたらそのままさ。もう1度締めたいなら掛け直すしかない。が、1度呪いを解いてまた掛け直す力を、取り込まれた精霊が持っているとは思えないね」
「ふーん……」
じゃあホントに死ねばレベル上限上がるんだ。
でも、もしわたしが自殺して、エデンさんが治してくれなかったら?
魔王様を信用できなきゃ踏み切れないよね。これ。
「どうする嬢ちゃん。さっきも言ったがこれは賭けだ。憶測に憶測を重ねたやり方だ。下手すりゃ体内の精霊が死ぬこともあるし、精霊が余計なことをして俺の蘇生魔法をディスペルするかもしれない。自殺してそのまま……ってこともあり得る」
ペンギンのマスターが、エデンさんが、ミー君が、わたしを試すような目つきで見てくる。
「マスター、自殺に使える道具はありますか?」
わたしが問うと、ペンギンのマスターはカウンター内の引き出しを開き、中から何かを取り出してわたしの目の前のカウンターに置いた。
マスターがくれたもの、それは、拳銃だ。
「嬢ちゃん、本気か? 魔王の俺を、人類の敵を信じるのかい?」
わたしは拳銃を手に取り、こめかみに銃口を当てる。
「全てはスローライフを送るため……わたしが大金を稼ぐためには、レベルが要る」
「死んだら安寧もクソも無いだろう」
「のんびりできない人生なら要らない」
わたしは撃鉄を起こし、引き金を――引いた。
わたしは頭蓋に強い衝撃を受け、天井を見上げて寝転んだ。死んだ後も数秒は意識はあるんだな~、なんて思っていたら――何も感じなくなった。




