第18話 呪い
「1週間後だぞ! 1週間後の6月9日、場所は第2習義場のボックスルームだ! あそこなら手合わせできる。ボクの名前で1ルーム借りといてやるよ。決闘に負けたら白雪から手を引けよ……氷室メメ!」
決闘の日時・場所を決め、その場は解散となった。
不知火ちゃんはまたサンドバッグを叩き始めた。八雲ちゃんも不知火ちゃんに付き添いトレーニングエリアに残るそうだ。わたしはトレーニングエリアに残らず帰宅することにした。
八雲ちゃんは別れ際、頭をペコペコと下げて、
「す、すみません! 私のせいでこんな展開になっちゃって……」
気にしないでいいよ。とだけ言っておいた。
結果的に唯一の可能性を拾ったのかもしれない。苦難な道ではあるけど。
1週間でテレポーターのインファイター対策……できるだろうか。
日を跨いで、わたしは早速あの怪物達が集まるBARへ向かった。
ちなみにBARのあるダンジョン・ヴァルランはその複雑な構造から大不人気となった。『旨味も無い癖に無駄にむずい』――それがダンジョンレビューのトップにあった。暫く攻略されることは無さそう。
いつも通りダンジョンに入って(ブロンズランクに上がったから入場料が1万円から7千円に減った!)秘境の位置まで歩いていく。
壁の魔法陣をユニークスキルで操り、扉を発現。扉を開いて中へと入る。
「あ、メメちゃんちーっす!」
「よう嬢ちゃん。もう酒は抜けたのかい?」
「飲んだの何日前だと思ってるんですか……」
第2次元の勇者様と第3次元の魔王様がカウンターで横並びだ。勇者と魔王なのに、この2人は仲がいい。
「この前のメメちゃんの飲みっぷり暴れっぷりは凄かったからなぁ」
「この俺にヘッドロックかましてきやがったからな」
「……その節はすみません」
ランクアップしたあの日の夜、わたしはこのBARで飲んだのだが……羽目を外し過ぎた。飲んで、気が付いたらこのBARのソファーで寝かされていた。飲んでいた時の記憶は無く、マスターに聞くと……第2次元の勇者の口にちくわをねじ込んだり、第3次元の魔王にヘッドロックしたり、第5次元のロリ魔王を抱っこして撫でたりしていたらしい……怖ろしや……。
店内における暴力行為は禁止のため、マスターにも優しく怒られた。
「マスター。『ヴァリュプラッチェ』と『多次元ポテトサラダ』をお願いします」
「かしこまりました」
ペンギンのマスターに注文してからカウンター席に座る。左隣にエデンさん、そのさらに隣に勇者が居る。
「そういえば、第2次元の勇者さんはお名前なんでしたっけ?」
「あれ……この前飲んだ時に言ったんだけどな……」
肩を落とす勇者様。
すみません、微塵も覚えてないです。
「オレはミーティアだよ。メメちゃんと同じで22歳! 気軽にミー君って呼んでね。敬語もいんないよ」
「わかった」
「え? ホントにミー君って呼んでくれるの!?」
なぜか勇者さんは身を乗り出してくる。
「うん」
「じゃ、じゃあ試しに1度……呼んでみてくれない?」
「ミー君。これでいい?」
「……う、嬉しい! やった! 同世代の女の子が! オレを様付けせずに呼んでくれた……!」
勇者さんは金髪で、青い目をしていて、端正な顔つきだ。性格は軟派だけど憎めないタイプ。人にモテそうだな、と思う。モテそうというのは男女問わず、恋愛友愛問わずの話だ。
しかし……なぜかこの人からは孤独感のようなものを感じる。
ミー君は座り直し、酒をぐびっと飲んでマスターにおかわりを頼む。
「今日はただ飲みに来たのか? それとも……」
「それともの方です。1週間後にある女の子と決闘することになったのですが、その女の子が強くて……皆さんの知恵をお借りしたいんです」
「俺達が教えた魔法でも太刀打ちできないのか?」
「できないですね。テレポート使いのインファイターなんです。いや、インファイターかどうかはまだ定かではないですけど。とにかく、詠唱する間は与えてくれないかと思います」
「ほう。テレポート使いか」
「テレポートもやっぱりエデンさんの世界じゃそこまで価値は無いんですか?」
「いいや。疑似的にテレポートできるやつは多く居るが、手間を掛けずにテレポートできるやつは稀だよ。有用だしな。だからこそ、面倒な部分もあるが」
「面倒?」
「テレポート使いはどこでもどこまでもその能力に注目されちまう。そいつは純正のテレポート使いなんだろ? だとしたらある意味不運だな。平穏な日々は送れないだろう」
なるほど。そういう見方もあるか。
確かにもしもテレポートが使えたら引っ張りだこで、どこでも酷使されそう。スローライフなんて一生送れないだろうなぁ。
「テレポート使いは厄介だな。だが相手がインファイターなら近づいてきたところを拳で沈めればいい」
「レベル差が35以上あるんですよ。わたしはレベル15で、あっちは推定レベル50以上……」
「あのよ嬢ちゃん、いつまでレベル15のままでいるつもりだ? 俺達を頼る前に、まずレベルを上げろよ」
「いや、上がらないんですよ。レベル15が上限なんですから」
「??? 上限? なに言ってるんだ? レベル15が上限なわけ無いだろう。な?」
エデンさんはミー君に意見を求める。
「そっすね。どの次元でもレベルは150が上限ですよ。あ、でもオレはレベル1000ですけど!」
「知ってるよ。俺もそうだ。基本は150が上限で、そっからスキルやらアイテムやらでレベルの上限を伸ばしていく。これが常だ」
「ま、待ってください!」
わたしの知っている常識と違いすぎる。
「わたしの次元ではレベルの上限は個体によってバラバラです。レベル150が上限、という人は誰1人居ません」
「え!? そんなのあり得るの?」
「まぁ、次元によってルールが違うってのはよくあることだ。魔法を機械で発動したり、魔法の概念が無い代わりに格闘術が異様に発達していたりな。ちなみにお嬢ちゃん、お嬢ちゃんの世界じゃどうやってレベルを得る? 神託か? 生まれつきか?」
「えっと、精霊石というアイテムを呑み込んでレベルを得ます。あと、レベルを得た人間同士の子供の中には生まれつきレベルを持っている人が居ます。そういう人たちは第2世代って呼ばれています」
「精霊石ってのはなんだ?」
わたしは指で500円玉ぐらいの輪っかを作る。
「これぐらいの大きさで、生物っぽい模様が描いてある石です」
「それって、精霊が封じ込まれた石じゃね?」
ミー君がわたしの輪っかを指さして言う。
「え?」
「はっはっは! こりゃ笑いもんだな」
エデンさんは血のように真っ赤なワインを飲み干し、わたしを見る。
「お嬢ちゃんはどうやら呪いへの耐性が低かったようだ」
「呪い? ……どういうことですか」
「お嬢ちゃん……いや、お嬢ちゃんの世界でシーカーをやっている奴は全員な」
エデンさんは歪に笑い、
「呪われているんだよ」




