第13話 祝杯
「おぉ~」
ブロンズランクのシーカーライセンス! 受付にてついに入手! これは正直かなり嬉しい……。
これで、夢のスローライフに少しだけ近づけた……。
「その腕でまだブロンズランクとはな」
そうわたしに声を掛けてきたのはマスターランクの実力者、水鏡さんだ。
「あ、水鏡さん。先ほどはどうもありがとうございました」
「構わん」
一応言っておくと水鏡さんはわたしより年下である。18歳だ。シーカーとして圧倒的な差があるから敬語で接しているけども。
「……ねぇ、あの方」
「……間違いない。マスターランクの……」
水鏡さんが登場したことでホールは騒がしくなってしまった。
「外で少し話さないか?」
水鏡さんからの提案。断ることはできない……。
「はい……」
わたしと水鏡さんはギルド協会本部から出て、クラシカルな街道を歩く。
「血液魔法陣にコンビネーション魔法……どちらも素晴らしい技だった」
水鏡さんは目を細める。
「一体どこでその技術を手に入れた?」
うわ。難しい質問来た。
秘境のBARで出会った魔王や勇者に教えてもらいました……と言ったら、馬鹿にするなと怒られるだろう。ここは誤魔化し一択。
「インスピレーション、ですね」
「ほう……」
「天から降ってきたって感じです。はい」
これで誤魔化せるだろうか……いや、さすがに無理か?
「天才、というやつか」
あれ? もしやこの人天然?
「魔法の技術はまだまだ発展途上だ。君なら、停滞している魔法技術を大きく発展させることができるかもしれない」
「いやいや、そんなこと……」
「魔法の技術が上がればシーカー全体を底上げできる。魔法を使えないシーカーは居ないからな。魔法技術の底上げは、我々の急務だ」
「凄いですね。水鏡さんはシーカー全体のことをお考えで……」
「シーカーの死亡数は多いからな。どうにかしてやりたい。マスターランクの人間として、私には皆を引っ張る責任がある」
凄い。年下には思えない。将軍の如き気高さ。
人としての格も、シーカーとしての格も、全然敵わない。
「今度、是非とも君の魔法技術を私に教えてほしいな」
それは……困る。
他次元の魔法技術を流布していいものか、真剣に考えたことはある。結論から言うと、わたしはこの技術を広めるべきではないと考えた。
例えばわたしがあげた技術で、誰かが誰かを傷つけたとして、その責任は背負えない。他次元の魔法技術は強力すぎる、というのが私見だ。誰もかれもがこの技術を持ってしまったら……世が混沌とするのは目に見えている。
わたしレベルでこの火力だよ? 例えば水鏡さんレベルで使ったらどんな威力になるか……計り知れない。悪人で強い人が他次元の技術を手に入れたら、何が起きるかわかったもんじゃない。それこそ、この次元にも魔王が現れてしまうかもしれない……いやまぁ、他次元の魔王を見ていると、魔王ってそんな悪いものにも思えないけどさ。
技術を独り占めにして悦に浸りたいわけじゃない。リスクを考え、ここは断る。
「それはできません」
「なぜだ?」
「え~っと……」
やばい。なにか言い訳しなくちゃ。言い訳言い訳……魔法技術独占、なぜ? なぜだろう? 考えろ……考えろ……!
「わたしは、この技術でナンバーワンになるつもりだからです」
口から出たのは、わたしの理想の逆をゆく言葉。
スローライフを目指すわたしにとって、ナンバーワンなんて称号は重荷でしかない。マジでいらない。けど今は意思は秘める。
「ナンバーワン……?」
「はい。わたしはこの魔法技術で水鏡さんも超えて、トップシーカーになるつもりです。だから、水鏡さんに技術を教えるわけにはいきません。ライバルを育てるわけにはいきません。自分勝手ですみませんが、納得してください」
どう、かな。
トップシーカーなんて目指してないし、水鏡さんを超えるつもりも毛頭ないけど、わたしが思いつく言い訳はこれしかなかった。
水鏡さんの反応は――
「ふふっ……あっはっは!」
大きく、笑った。
「いや失敬。シーカーになってからというもの、私に挑もうとする女性には出会わなくなったのでね。驚いた」
「挑む……というわけでは……」
あるのか。
「いい野心だ。面白い。受けて立つ!」
受けて立たれちゃったよ。
「私は私なりのやり方で、魔法技術を発展させるとしよう」
と、とりあえず、誤魔化せたからいっか。
---
「――っていうことがあったんです」
「それはそれは。波乱万丈、というやつですな」
BAR『ジョーカー・パーティ』にて、わたしはマスターに今日起きた出来事を話した。
「なぜか水鏡さんには気に入られたようで、連絡先を交換する羽目になりました。厄介事を持ち込まれなければいいのですが」
「太い人脈が増えたと、プラスに考えましょう」
ちなみに店内にはわたしとマスターしかいない。たまにはこういうのもいいものだ。
お酒は相変わらず美味しい。今日のカクテルは『パルポドリンコ』。第3次元のパルポという甘いお酒に同じく第3次元のドリンコという果物を合わせたあまーいカクテル。これがまた美味しい。今日の疲労が高級感のある甘さに溶かされていく。
「氷室様はやはり……アレですね」
「アレってなんですか? もったいぶらずに教えてください」
「あくまで私の私見ですが、氷室様はきっと、強者に好かれるのでしょうね」
「はい? なんですかそれ」
なにを言ってるんだこのペンギンは。
「強者ゆえに孤立した者には、氷室様の少し無遠慮な所が可愛らしいのかもしれません」
「あれぇ? マスター、ひょっとして口説いてますぅ~?」
「氷室様はひょっとしなくても酔ってますね」
ガタン! ガタン! ガタン! と、あちこちの扉が一斉に開いた。
「お、嬢ちゃん! 昇級試験はどうだった?」
「おー! 小娘! わしの教えた技術はどうじゃ! 上手く扱えたか!?」
「え? なになに? なんの話!」
大魔王&大魔王&勇者だ。あ~、一気に騒がしくなった。
「やはり、ですね」
マスターは穏やかな笑みを浮かべる。
静かに飲みたい気分だったけど……まぁいいか。今日は2年間登れなかった山を登れた日。相手が魔王でも勇者でも神様でも構わない。飲み明かそう!
「マスター! もう一杯!」
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