第12話 ビギナーvsプラチナ
ざわざわとする協会員席。
フルフルと震えるドレッドヘアー。
「あ~! 凄い! 凄いよぉ! 俺をこんなキレさせたやついねぇよマジか! センスの塊だわ氷室ちゃぁん! レベル10ちょっとの分際で!? クソみたいなスキルしか持っていない分際で!? 俺に勝てるとか思っちゃってるの~!?」
宝城は狂ったように笑い、両手でゴシゴシと顔を擦り始めた。なにあの人、こわっ。
協会員のお姉さんはフィールドに踏み入り、
「えっと、試験に賭け事を持ち込むわけには……」
「――やらせろ」
部屋に入ってきた女性がピシャリと言った。
銀髪でロングヘアーの美少女。わたしはその人を……いや、全員その人を知っていた。
「マスターランク(最上位ランク)の水鏡天花様…………!?」
協会員のお姉さんがその名を口にする。
3人しか存在しないマスターランク。レベル120の怪物……!
生で見るのは初めてだけど、写真では何百回と見た。シーカー専門ニュースサイトを開けば必ずなにかしらの見出しになっている。
髪と同じ銀色の軽鎧を装備し、腰には刀を差している。纏う覇気はこの場に居る誰もが息を呑む程。あの自信家の宝城ですら気圧されている。
「協会に立ち寄ったら、何やら騒がしかったのでな。見学に来た」
水鏡さんはフィールドの外周を周り、さっきまでわたしが座っていた席につく。2つ隣の志麻さんはさすがに居たたまれなくなったのか、椅子から離れ、地べたに座った。
「話は聞いていた。もしもそこの眼鏡の受験者が試験官に勝利したならば、試験官のランクを1つ落とそう。私の権限を使ってな」
協会員達は納得した……というか納得するしか無かった感じだ。
「これはこれは! まさか女帝殿に私の武勇を見せられるチャンスが来るとは」
宝城はあざとく頭を下げる。
「先ほどの条件で構わないな? 試験官」
「構いませんよ。その代わり、私が勝った暁には、私に昇格試験を受けさせてください。ステラランクへの昇格試験をね」
「いいだろう」
宝城はわたしの方に向き直る。
土のフィールド。向かい合うわたしと宝城。距離は15m程。
「感謝するよ氷室ちゃーん。俺に昇格のチャンスをくれるなんてね」
「……」
宝城は武具を使えない。つまりわたしがあげた宝剣や宝珠は使えない。
とは言え宝城のレベルは74。わたしのレベルは15。レベル差は59――
「ふぅ~」
……なんだろう。
前に話した時より『圧』を感じない。ああ……そっか。大魔王とか神様とか勇者とか吸血鬼に会ったからな~。あれらに比べたら、小粒も小粒。
あの人たちの圧力に比べたら、宝城の圧力なんてそよ風程度だ。
「制限時間は20分。試験はじめっ!」
お姉さんの号令で試験は始まる。
宝城は初っ端、両手を前に出す。
「加減は無しだ!」
わたしはクリムゾンを無詠唱で発動。右手の指先に血を溜め、目の前の空間に魔法陣を描く。
「フォースサンダー!」
雷の渦が迫る。
「ははは! 血なんぞで、俺の魔法を止められるかよ!」
「いや、アレはまさか……魔法陣?」
水鏡さんの驚いたような声が聞こえる――正解です。
わたしは血液の魔法陣で雷を受ける。魔法陣は雷を吸収する。
「はぁ!?」
宝城はなにが起きたのかわかっていない。目をパチパチと開閉させ、勝負の際中なのに動きを止めた。
「て、テメェ、何をし――」
「創星の時来たり」
詠唱を始める。
「は! 魔法の詠唱か! 詠唱省略もできないゴミカスが!!」
宝城はまた両手をこっちに向ける。
「フォースチェーン!!!」
両手から鎖が放たれる。
「光より速く、風よりも鋭く」
わたしは鎖に魔法陣を向け、魔法陣を解く。すると魔法陣から先ほど吸収した雷が放出された。
「はぁ!?」
雷は鎖を伝い、宝城のもとまで伸びる。
「ぐっ、があああああああっっ!!?」
全身を痺れさせる宝城。わたしは構わず詠唱を続ける。
「暗き闇を照らし、天を停めよ」
「……なんだこの詠唱は。聞いたこと無いぞ」
そりゃそうですよ水鏡さん。なんたってこれは別次元の魔王様と勇者様の合作。どの次元にも無かった、オリジナルの詠唱ですから。
「連なる三ツ首は番犬の証」
これで終わりだ。
「閉ざせ凍狩星――アイス」
3つの巨大な冷気の塊を作る。
「ホワイ……?」
宝城は信じられないという目で冷気を見る。
「射出」
1発目の冷気弾に対し、宝城は雷撃で応戦。
「フォースサンダー! ――うおおおおお!!!」
しかし冷気は容易く雷を分散させ、宝城に命中する。
「ぐっ……がぁ!!!」
さすがはプラチナランク。体を一瞬凍結されたけど、マナを体に纏って振り払った。けど、
「ごっ……!?」
2発目の冷気が直撃する。宝城も今度は凍ったままピクリとも動かなくなり、
「――――」
最後の冷気で氷の形を整えて、氷塔の出来上がり。
高密度の氷で出来た塔。アレを力づくで崩すにはレベルが100以上は無いと無理だろう。
「……背中を地面に着けてないし、ギブアップとも言って無いし、フィールドの外にも出してませんが……まだ続けます?」
協会員のお姉さんに問うと、協会員のお姉さんは首を横に激しく振った。
「こ、今回の試験で合格者は1名……氷室メメ様のみとします。宝城阿久津さんはシーカーランクをワンランクダウンさせます。い、以上で、ブロンズランク昇格試験を終わりにします……」
わたしはフィールドから降りる。
「試験、ありがとうございました。失礼します」
丁寧に頭を下げて、場を去る。
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