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第11話 贔屓

「兄貴!」


 受験番号1番の男は立ち上がり、宝城さんに寄っていった。


「お、来たか政宗(まさむね)


 宝城さんは受験番号1番の胸を叩く。


「今日はしっかりやれよ」

「うっす!」

「……さて」


 宝城さんはわたしの前にやってくる。

 その高い身長からわたしを見下ろして、


「いやぁ、久しぶり……でもないか。氷室ちゃん♪」

「はい」

「どうやってミノタウロスの角手に入れたの? ……やっぱり裏取引? 体でも売った?」

「正式なルートです」

「バカ言うなよ。お前程度がミノタウロスに勝てるもんか」


 宝城さんはやれやれと肩を竦め、背中を向けた。まったく、やれやれと言いたいのはこっちだ。


「だ、大丈夫ですか?」


 隣の女の子に声を掛けられる。


「え? 大丈夫じゃ無さそうに見えた?」

「は、はい。なんか、凄く嫌そうな顔をしていたので……」


 おっと、顔に出てたか。


「こ、これ、緊張を(やわ)らげるタブレットです。良かったらどうぞ」


 女の子は小袋に包まれたタブレットをくれる。

 良い子。かわいい。


「ありがと」


 タブレットを早速いただく。これが緊張を和らげるタブレットの味……うん、しょっぱい。クエン酸の味。


「それでは試験を始めます」


 協会員のお姉さんが手を叩く。


「宝城さんと受験番号1番志麻(しま)政宗(まさむね)さんはフィールドの上へ」


 お姉さんの案内に従い、2人は土のフィールドに足を踏み入れる。


「制限時間は20分。試験はじめっ!」


 戦いが始まる。

 受験番号1番――志麻さんは鉄製のグローブを両手に嵌め、宝城さんに格闘戦を仕掛ける。宝城さんは受けて立ち、2人は格闘戦を繰り広げる。


 押しているのは志麻さん……だけど、妙だ。宝城さんはもっと近接戦闘強かったはず。ジャブ程度の攻撃にも大きく怯んでるし、拳の打ち込みは甘い。宝城さんは雷魔法も使うけど、出力が低い。直撃してもまるでダメージにならない。


「や、優しい試験官ですね」

「そう……かな」


 性格最低の宝城さんでも、さすがにビギナーランクのシーカーを全力で潰しはしないか。


「良かったぁ。これなら実力を発揮できそう。私、昔から対人が苦手でして、試験官が怖い人だったらどうしようかと」

「油断しない方がいいよ。宝城阿久津は、あなたみたいな人に当たり強いから」

「え、そそそ、そうなんですか!?」


 おっと、あまりビビらせるのも良くないか。


「でも、かわいい子には甘いから、大丈夫……かな」

「かわいい子って……そ、それ、私のことですか……?」

「うん。可愛いでしょ。どこからどう見ても」


 銀色のボブカット、青い瞳。この現実離れした容姿からして第二世代かな。アニメのキャラクターみたいに可愛らしい女の子だ。


「えへ、えへへ……ありがとうございます。そういえばまだ自己紹介してませんでしたね。わたし、八雲(やくも)白雪(しらゆき)って言います」

「わたしは氷室メメ。あ、年下だと思ってタメで話してるけど、大丈夫? 私、22だけど」

「私は16です。なので、敬語は大丈夫です」

「そっか」


 なんて話している内に、


「そこまで!」


 試験が終わった。

 フィールド上の2人は手を止め、近寄り、握手する。


「いやぁ、強いね君! 将来有望だね! うん!」

「いえいえそんな!」


 フィールド上で茶番劇が繰り広げられる。


「合否は全ての試験が終わった後で伝えます。受験者は席に戻ってください。次! 受験番号2番! フィールドへ!」

「は、はい!」


 八雲ちゃんが立ち上がる。


「……頑張って」


 小動物のような背中にそう声を掛ける。


「は、はい」 


 八雲ちゃんはフィールドに上がる。

 手に持つは大きな盾1つ。珍しい、剣とか槍とかは持ってないんだ。盾で攻撃もするタイプかな。


「制限時間は20分。試験はじめっ!」


 第2試合が始まる。


「フォースサンダー」


 宝城さんがそう呟いた。

 同時に、宝城さんが突き出した右手から、人間を飲み込める程の雷が発射された。

 雷の渦は伸び、八雲ちゃんの盾に激突する。


「うぐっ!」


 まずい。八雲ちゃんの盾は金属製だ。電流が盾を伝播し、八雲ちゃんに通ってしまった。


「あ、あう……!」


 仰け反り、天井を見上げ、口をパクパクとさせる八雲ちゃん。


「フォースサンダー」


 間髪入れず、再び雷撃を放つ宝城さん。

 八雲ちゃんは反応できず、体に雷を直撃させる。


「……八雲ちゃん……!」


 なんなんだあの人……! さっきと違って、今度はほとんど全力じゃないか!

 

「ビギナーランクに使うレベルの魔法じゃない……!」


 八雲ちゃんは膝を崩す。残念だけど、ここまでだ。


「フォースチェーン」

「なっ!?」


 宝城さんは右手から太い鎖を射出。鎖を八雲ちゃんの体に巻き付け、倒れることを許さない。


「八雲ちゃん!!!」


 宝城さんは鎖を引っ張り上げる。

 八雲ちゃんが天高く飛び上がる。その手にはもう盾は握られていない。目は虚ろで、完全に気を失っている。


「やり過ぎ……! ――止めてください!」


 わたしが叫ぶと、協会員の人達が動き出した。

 宝城さんは鎖を横に薙ぎ、協会員さんの方へ八雲ちゃんをぶん投げた。

 協会員のお姉さんはなんとか八雲ちゃんをキャッチし、頬を叩く。


「八雲さん! しっかり! ――救護班を!」


 八雲ちゃんはボロボロの体で倒れている。

 そんな八雲ちゃんを、宝城さんはゴミを見るような目で見て、


「ざっこ。こりゃ、今日の合格者はお前1人だけだな。政宗」

「はっはっは! 間違いねぇぜ!」


 やっぱり、さっきは手を抜いていたな。あの男。

 従兄弟とは良い勝負をし、八雲ちゃんとわたしは圧倒して、従兄弟に箔を乗せようという魂胆か。


 八雲ちゃんは担架に乗せられ、運ばれていく。


「八雲ちゃん……」


「アレがよえー奴の末路だよ。氷室ちゃん」


 フィールドの上から、あの男は言葉を浴びせてくる。


「失格確定。ご愁傷様だ。これだけこっぴどくやられりゃ、昇格試験の受験資格は暫くはく奪だな」

「……ご自分の心配をしたらどうですか?」


 わたしはフィールドの上にあがる。


「あなたはやはり、プラチナランクを名乗っていいレベルじゃない」

「なに?」


 今ので確信した。

 やはり、この男は野放しにしてはいけない人間だ。


 出会った頃から危うさは感じていたけど、プラチナランクに上がってから歯止めが利かない。目的のためなら、自分の存在を誇示するためなら、誰が相手でも酷いことをする。この男をここまで助長させた原因の一旦はわたしにもある。宝城さん……宝城にランクアップのきっかけ、宝剣を渡してしまったのはわたしなのだから。


 ごめん、八雲ちゃん。


 ちゃんと、責任は取るよ。


「あなたが知っているように、わたしはレベルは低くステータスも雑魚です。そんなわたしにもしも負けたら……あなたに対する協会の評価も変わるでしょう」


「あぁ……?」


 わたしは協会員さんが座っている席へ顔を向ける。


「ギルド協会の皆様。この決闘……もしわたしが勝ったなら、この男のランクを降格させてください。この戦いで、宝城阿久津はプラチナランクには相応しく無かったと、証明してみせます」

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